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76、山降りの大車輪 ~山道は登りと降りどちらが楽なのか~

 山道は登りと降りどちらが辛いのか。そう考えたことがないという人間はおそらくいないだろう。


 山だけに限ったことではない。登りと降り、どちらが楽か、どちらが辛いか、といったことは単なる登り道、や階段でも考えることだ。


 一般に、より膝に負担がかかるのは降りだと言われている。


 だが俺が思うに、より辛いのは登りの方だと思うのだ。


 何故なら、例えば山を例にとってみると、登り降りというのはその語順にもあるように登りが先に訪れる。


 登ってから、降りるのだ。


 つまり降りの時には大抵の場合、登りで溜まった疲労が存在するという訳である。あらゆる登り降りにおいて、降りから開始することなど、普通はない。


 そういう状況は特別な場合に限られる。


 故に人は「登る」辛さと、「登った後に降る」辛さを比べているということになるのである。


 それらが同じくらいと感じるのだから、やはり登りの方が大変なのではないか、と思ったりする。


 非常に疲れている状態で、登りと降りどっちがいい、と聞かれたら大抵の人間は降りと答えるのではないだろうか。


 降りの方がマラソンの速度が上がったりもするし。


 より体に負担がかかるのが降りだと言うのなら、より精神に負担がかかるのが登りという訳だ。


 はい、だからそれが何なのかと言うと。


 申し訳ないがいつもの通り、別に何という訳でもなかったりする。


 ただ俺達が現在山を降りているというだけの話であった。


 もっと詳しく描写すると、ルテティアは低空飛行しながら降っていて、リィサはさり気なく俺の服を掴みながら降っているという感じである。


 いや、結構急なので。


「なあ、山降りた後、どれくらいで国を出られるんだ?」


「いえ、もうレノクターン王国自体は出てますよ? ここはもうゴルダ王国内です」


 先行するルテティアがそう答えてくれた。そうか、もう国は出たんだな。良かった。


 しかし、俺はそのゴルダ王国とやらを知らない。勿論、殆どの国を知らないのだが。


 俺はポケットから地図を取り出して見てみた。


 ポジション的にはレノクターン王国の北北西、ルテティアがいたというフェルガング王国の西隣りに位置する国だ。


「ゴルダ王国は獣人の国なんですよ?」


 それにルテティアが追加情報を言う。うむ、なんかルテティア、ガイドさんみたいだな。


「そうか。それは楽しみだな」


 何が楽しみなのかと言うと、それは獣人に会うことだ。


 亜人獣には会ったけど、あれは人じゃないしな。それに比べて獣人ということは人ということである。ゲームでよく出てくるあの獣人である。


 猫耳とかいるのかなぁ、と想像を膨らませてしまうのも無理はないだろう。


「――きゃっ!?」


「うわっ!?」


「えっ!?」


 俺が猫耳の美少女について考察を始めようとした所、何か後ろから可愛い声が聞こえた。と同時に圧力が。


 押された俺の体はそのままルテティアに突撃し、ゴロゴロ、と。


 つまりはリィサがコケたということである。いや、そういうドジっ子アピールですね、分かります。


 とか言ってる場合じゃねぇ!


 咄嗟にルテティアを庇い、後ろに押す。そしてルテティアとリィサが激突する。


「ぐにょっ!?」


 ルテティアが変な声を上げた。それくらい我慢したまえ。


 と言っても今は降り道なのだから、このまま二人が止まるはずもなく、当然俺の方に倒れてくるはずだ。


 よっしゃ! 二人とも、俺が受け止めてやんよ!


「ってやっぱ無理っ!」


 二人の体重が一気に俺に降りかかり、俺の体を突き飛ばした。二人とも重い訳ではないのだが、人×2×加速度である。俺一人では受け止められない。


 二人のタックルを食らった俺は――


 おおっ、宙に浮いてるぜよ。


 二人を抱きかかえながら宙に浮いてるぜよ!


 そうだな、イメージ的には俺をベイ○ックスだと思ってくれれば良い。あんなにふくよかじゃないけど。


「がはっ!」


 頭を打つのは回避したが、背中は当然地面に打ちつけられる。痛いっす。


 そのまま勢いは止まらず、俺をソリか何かのようにして二人は山を降って行く。


「お、おいっ! 俺はソリじゃないっ!?」


 と抗議しようとした所、何と驚き、形勢が逆転した。


 勢い余って、俺と二人の位置が逆転したのだ。


 はっはっは! 今度は俺が押し潰して――


 という訳にも行かず。


 勢いによって俺が上になったということは、回転したということに等しい。


 だから、もう一回俺が下になる。


 そして上になる。


 上になって、下になる。


「きゃあぁあああ!」


「いやああぁあ!」


「わあああぁああ!」


 どれが誰の悲鳴かすらよく分からないまま、俺達はおむすびころりんのように、あるいは大車輪のように、山を降っていった。まあ、こっちの方が早いからいっか。


 そしてようやくその車輪が停止した頃。


 俺含め三人とも、まず何を口にしたらいいのかということに戸惑いを覚えていた。


 だってさ、三人とも無様にゴロゴロ転がったんだぜ? 何も言えねぇ。


「だ、だいじゅおうぶですかみなさん……」


 口を開いたのはルテティアだった。が、噛んでる。口の中切ったりしてないよな?


「ああ、おそらく一番ダメージの大きい俺が無事だったから大丈夫だ……」


 ゴロゴロ転がっていたと言っても、俺だってそれなりに気をつけた。この中では俺が一番重い訳だし、美少女を自らの体重で潰すというのは何か嫌だった。いや、一部の方は興奮するのかも知れないですけれど、少なくとも俺にそんな趣味はない。


 だから地面にぶつかるのはなるべく俺になるように配慮はしたつもりである。


「……」


 が、リィサは何も言わない。何だろう。どこか具合でも悪いのかな?


 と思ったが別にそういう訳ではないようだ。どうせ自分がコケてしまったことを悔やんでいるのだろう。もしくは今の内に言い訳を考えているのか。


 いや、言い訳考えるとか可愛いな。


「さてリィサ。何か申し開きはあるかな?」


「べ、別に私のせいじゃないし……」


 あらー、まさかの責任転嫁。まあ可愛いからいいのだが。


 可愛いは正義って言うだろ。それに、俺のモットーとして「美少女皆平等」というものがある。性格とか見た目とか属性とか、そういう諸々はあるけれど、勿論俺のタイプとかもあるけれど、俺が平等に扱う唯一無二の基準。それは美少女であることである。


ロリ? 妹? 巨乳? 碧眼? ナイスバディ? 長身? 色白? ボブカット? 清楚系? ツンデレ? ゴスロリ? セミロング? 黒髪、茶髪、銀髪、金髪、赤髪、青髪、何でもあり。どんな存在であろうと。


 美少女皆平等。


「でもリィサ、コケただろ」


 とは言ってもやはり、可愛いと苛めたくなるのも、また人間の性である。仕方ない。こればかりは全くもって仕方がない。


「べ、別に転んでなんか……」


「キエルさん、リィサさんが可愛そうですよ? あまり責めるものではないです。それに、美少女二人をしっかりホールドできたんですからいいじゃないですか」


「ん、確かに」


 その通りである。


 故に山道は登りと降りどちらが楽なのかと言えば……うーん、どっちなんだろう。








『魔王戦』開始まで あと339日→338日






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