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70、一人きりの朝 ~対策はできた~

「な、何じゃと!?」


 提案すると、思ったより村長は驚いた。ついでにリィサとルテティアも驚いている。


「亜人獣は人間数人が太刀打ちできるような強さではないぞ!? 一匹ならまだしもこの村を襲ったのは三匹じゃ! 勝ち目などない……!」


 落胆する村長。うむ、そうなのか。亜人獣、強いのか……


 いやでも、普通に考えてあのトカゲドラゴンの方が強いんじゃないか?


 そう考えればいけなくもない。


「いえいえ、せっかく泊めていただく訳ですから、どうかやらせて下さい」


「……じゃが、通りすがりの旅人殿を危険に晒す訳には――」


「旅人はいつでも危険なものです。まだ新米ですけど、どうかここはお任せを」


「うむ……」


 村長は渋々だがゴーサインを出してくれた。


 因みに、微妙な顔をしているのは村長だけではなかった。


「ルテティア、ビビッてんのか?」


「い、いえ! そんなことないですよ!?」


 声が裏返っている。完全に怯えているな。まあ別にルテティアは戦力に換算していないからいいのだが。問題はリィサの方である。何やら怪訝な顔をしている。


「リィサ。強敵と戦うのは好きなんだろ? 何でそんな浮かない顔をしているんだ」


「べ、別に浮かない顔なんか――」


「怖いのか?」


「こ、怖い訳ないでしょ!? ……ただ、亜人獣は本当に強いのよ……」


 大きく否定しておいて、珍しく弱気にならリィサ。強敵を求めているはずのリィサらしからぬ反応である。


「でもあのドラゴンよりは弱いだろ」


「そうね……でも、亜人獣は連携が上手なのよ。一匹ならまだしも、三匹もいたら……」


 なるほど、連携か。


 確かに、「人」とついているからにはそいつらの行動は人に似ているということなのだろう。だから人間の動きを真似ることもできるはずだ。さっきは理性がないとか言っていたような気がするが、それなら亜人獣はより本能的な行動をするということになる。生態系も人間に似ているとすると……確かに女子にとっては近寄りたくない相手なのかも知れない。


 それに相手の形が、形だけでも人間だと一気に戦いにくくなってしまう、ということも考えられる。


 戦闘の観点からしても危険な相手ではあるし、精神的にも近寄りたくない相手、という訳だ。確かに、リィサなんか捕まったら何されるか分かったもんじゃないしな。うん、それは良くない。


 何が良くないのかって? それは、あれだ、お察しの通りだ。


 だから、リィサが行きたくないと思っているのなら無理に同行させるのも良くない。


「そっか。まあ、二人とも疲れてるだろうから、今日は休んで、明日一回俺だけで見に行ってみるよ」


 そう提案することにした。


「え? でも……」


「大丈夫だって。見に行くだけだから。視察だけなのに、わざわざ皆で行く必要はないだろ?」


「……そうね」


 今日はやけに大人しいぞ、リィサ。やはり亜人獣が怖いのだろうか。俺は見たことないから全然分からんのだが。


「そういう訳で、村長。今日一日泊めていただいて、明日俺が様子を見に行ってきます」


「そ、そうか……くれぐれも、気をつけるんじゃぞ。危険だと思ったらすぐに帰ってくるのじゃ」


「分かりました。もしかすると亜人獣絡みで数日泊めていただくことになるかも知れませんが、よろしくお願いします」


「勿論じゃ、危険を承知でやってくれるというのじゃから。わしらは今、藁にでも縋りたい状況……失礼かも知れないが、わしは旅人殿に過剰な期待はかけんようにする。旅人殿の命が最優先なのじゃよ」


 優しい笑顔で気遣ってくれる村長。良い村長だな。村長が良い人だと、村も良い方向に向かって行くよな。


 だから、それを邪魔するやつはとっととやっつけてしまおう。


 そう簡単に倒せるかは分からないけれど。


「よし、じゃあそういうことだから。リィサとルテティアは、明日中はゆっくりさせてもらっとけ」


「わ、分かりましたー……」


「わ、分かったわよ……」


 二人とも大人しく返事をした。


 よし、従ってくれて良かった。


 ツンデレは思考パターンが読みやすい。下手に刺激すると、思っていることとは逆の行動を起こしてしまう。この場合、俺がリィサを挑発するような言葉を口にすれば、リィサは意地になって俺について来ただろう。一緒に戦うと言ってきただろう。


 だから俺は、リィサの同行を防ぐ為に敢えて遠回りに言った。


 リィサのツンデレセンサーにかからない所で、リィサの同行を拒否した。


 偵察だから、一人で十分。


 嘘までついた。


 加えてルテティアの方も思考は読みやすい。単純だからな。


 リィサを宥めるついでで十分である。


 はい、ということで。


 全く仕方ないなあ。


 そんなに怖いんだったら、俺が一人で行ってやんよ。







         ――――――――――★――――――――――







 駆ける。


 巨体が、駆ける。


 草原を駆け抜け、大地を蹴り飛ばし、森を吹き抜け、山を駆け上がり、川を渡り、巨体が走る。


 走る、走る、走る。


 速い。


 巨体とは思えない程、速い。


 猪突猛進という言葉では足らない程、速い。


 誰も彼を止められない。


 一度解き放たれた鎖には、もう二度と繋がれない。


 彼が望むのは束縛ではなく、一方的な破壊。破滅。終焉。


 本能の赴くままに世界を壊す。


「ふははははははっ!」


 その男は、止まらない。








『魔王戦』開始まで 341日→340日







         ――――――――――★――――――――――






 朝。簡素なベッドで目を覚ました俺は辺りを見回した。ベッドは簡素ではあるものの背中が痛くなったりはしないという、良いベッドであるため、起きて早々不快になるということはない。


 空き部屋は幸い三つあり、この部屋には俺しかいない。


 つまり周りを見ても何もない。


 そしてそれは好都合だった。


 まだ朝も早い為、リィサやルテティアは起きていないだろう。


 俺はそっと部屋のドアを開け、外に出た。


 村長に挨拶くらいするべきか、とも思ったが、どうせ起きていないだろうからいいだろう。


 それよりも、亜人獣とやらの対策を立てなくてはならない。


 相手の数は三匹、いや三人と数えるのだろうか。まあ、その辺はどうでも良い。


 まずは一体一体について考えるべきだろう。


 昨日の会話を聞く限り、亜人獣のもつスキルは概ね人間のもつものと同じ、と考えて良い。人間のように高度な者は使えないかも知れないが、それでも武器を保持している可能性はある。


 また、連携が上手ということから、司令塔となる亜人獣が必ずいるはずだ。他の二匹と連携を取るにはやはり一体は司令塔の役割を担うはずなのである。


 個々の能力にそれ程差がないとすると、一番初めに倒すべきはその指令塔だ。司令塔というのは大抵後ろの真ん中に位置しているものである。つまり戦闘開始直後にそいつを潰せば良い。


 少数対多数の戦闘において最も重要なのは最初の数瞬で数をどれだけ減らせるかということである。多分。今まで読んできた物語の中では大体そうだった。


 だから三対一ならば開始直後に二対一に持っていくことが大事という訳だ。


 躊躇っている暇はない。不意打ちでも何でもいい。とにかく戦闘形態に入る前にぼこす。


 先手必勝である。


 あとは――


 うーん、何かの対策を忘れているような気がするが――ま、気にしない。気にしない。


「……!」


 俺は一通り考察をし終えて、玄関の方に向かった。


 すると、


「もう、行くのかのう?」


 何とびっくり、村長がいた。


 村長が居間でゆっくり飲み物を飲んでいた。


「ええ」


 俺は短く答える。


「少し、飲んで行ったらどうじゃ」


 そう優しく声をかけてきた。


「帰って来てからいただきます」


 魅力的な提案ではあったが、今は少し集中しないとな。


 俺はドアノブに手をかけた。そして振り返って、


「行ってきます」


「ああ、お気をつけ。危険だと思ったら、すぐに帰ってきなさい」


 村長の目が、俺の目をしっかりと捉えていた。


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