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7、脱出計画 ~いえいえ、手出しはしませんよ?~

 さてさてどうしましょう。どうやってここを抜け出しましょう。


 豪華な衣装を持ってきたミネルは再び定位置に戻り(座っていていいと言った)俺はこうしてベッドでゴロゴロしている。


 まずこの部屋から抜け出すには。


 それは簡単である。ミネルに何か頼み事をしてこの部屋から離れてもらえばいい。


 問題は出口がどこにあるか、ということだ。


 正面? 窓? 裏口?


 おそらくこの建物外に繋がる場所はいくらでもあるはずだ。だがそのような場所には大抵門番が存在する。


 ん? 待てよ? そいつらを蹴散らしていけばそれで簡単に脱出できるのではないだろうか。


 うーん。いや、でもそれだと確実にばれてしまう。それは俺の印象的に良くない。


 であるなら、どうするか。俺は勇者な訳だし、少しくらいの行動の自由をあるとは思うが、例えば街に出かけたいと言った場合、ほぼ間違いなく付き添いの者が来るだろう。それでは飽き足らずもしかすると行列のような集団を用意するかもしれない。


 それは困る。実に困る。


 そうやって難しい顔をしていると、


「あの、大丈夫ですか?」


 ミネルが心配そうにベッドの横から俺を覗いた。


「ん、ああ、大丈夫ですよ。少し疲れただけです」


 窓から射し込む光はもうとっくに消えている為、正確な時間は分からないがもう夜であることは間違いない――ん? 今までは気づかなかったが壁の上の方に丸いものがかかっているな。


 まるで、時計みたいだ。


 その針はなんと三本ある。読み方は分からないけれど、ビジュアル的に見て大体十一時くらい、かな? 適当なので全く当てにならないが。


 まあ、それでも夜で随分遅いということは体感時間的に分かる。あとテンション的にも分かる。


 そうミネルに一声かけられたところで、ふと思うことがあった。


「あれ、ミネルさん。あなたは今日どこで寝るのですか?」


 この部屋は俺の為に用意されたものだからこのベッドは俺が使って問題ないはずだが、では使用人のミネルはどこで寝るのだろう。


「いえ、私は……その……もうお風呂には入ってきましたので……」


 いや、回答になってませんよ?


「もしかして、この部屋の隅に座って一日過ごす、なんて言いませんよね」


 それは酷過ぎるだろう。使用人だからっていくらなんでもベッドも用意されないなんて。王室の使用人ともなればそれなりの身分だってあるはずだ。


 しかしミネルは俺の横から動かない。


「えっと、あの、よろしければ……私が……」


 最初の時も相当困惑していたけれど、今の困惑具合はさらに上を行っている。頬も結構赤い。


「えっと、その……夜伽を……務めさせていただきます……」


 ん?


 夜伽って、何ぞ?


 俺の頭の中の辞書がペラペラとめくられる。


 夜伽とは、病人などに夜寝ないで付き添うこと。または通夜で死者の隣で夜を過ごすこと。もしくは女性が男に従って一緒に寝ることである。


 いやいや、俺は病気でもないし、何なら死んでもいない。


 ということはここでいう意味は三つ目ということになる。


 いや、駄目だろ。


 頭の中で最初に出て来た言葉はそれだった。


 王室の使用人だろう? それも勇者のメイドに選ばれるような。そんな人間を勇者の餌食にするなんて、酷過ぎる。


 始めて会った男と一緒に寝るなんて、そんなのは最早体を売る仕事じゃないか。


 と頭の中でグルグル考え込んでいると今にも蒸発しそうな様子でミネルが立っていた。


 そうか、何か返事をしないと可愛そうだよな。


 何と言おうか、と迷った時、俺は一つの可能性を思いついた。


(詳細、オープン)


 そう念じると、ミネルのデータが現れる。見たいのは、彼女の称号のようなものだ。もしこの勇者の彗星眼(偽)がその人間の様々なことを調べられるのだとしたら、きっとその人間の身分も分かるはずである。



 境遇  没落貴族の娘



 ……なるほど。そういうことか。


 国王はたまたま連れて来られたこういう境遇の娘に勇者の世話をさせた、そしてその世話の範囲は勇者のあらゆる望み、ということである。


 要は捨てたのだ。


 いや元から大切にしていたのかも怪しいが、この王国は何の権力も持たない少女を勝手に勇者の奴隷にした訳だ。いや、確かに可愛いけれども。


 故に彼女は俺が命じれば何でもやる。おそらく彼女の言ったセリフは元々用意されていたものなのだろう。


「……ミネルさん。あなたが貴族の娘からただの少女へとなったのはいつのことですか?」


「えっ」


 今度は驚きを声にまで出してしまったようだ。


「私は勇者ですから、大体のことは分かるのです。まあ、座って下さい」


 ベッドをポンポンと叩く。ああ、別に襲う気はないからね? ……本当だよ?


 ミネルはまだ怯えた様子である。まったくもう、俺は何もしてないのに、そうやって怖がられると何だか悲しいっすよ。


「それで、いつのことですか」


「……つい、昨日のことです」


「昨日?」


 それはまた急なことだ。いや、急というよりは、たまたま都合の良い娘がいたからそれを男である勇者に充てた、ということなのか。


「では、まだその体は穢れてはいない、と」


「え、はい……」


 更に恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 ここで俺が、「ふふ、その純粋な体を蹂躙するのはさぞかし興奮するでしょうね」とか言ったらこのメイドさんは絶望する訳だ。いやいや、勿論しませんよそんなこと。ついつい深夜テンションで考えてしまうだけでありますよ。


「なるほど、でしたらまだ間に合います。そんな体を売るような真似はやめて下さい」


 据え膳食わぬは何とやらと言うけれど、うん、俺はヘタレだからさ。そういうのはちょっと萎縮しちゃうんだよね。


 しかしここでまたしてもこの俺のひらめきフォルダが火を噴いた。


 そう、脱出の方法である。


 非常に低俗かつ微妙な案ではあるが、これならば誰も俺を付きまとったりしないはずだ。

 だがその前にミネルの意見を聞かなくてはならない。


「ミネルさん。いや、ミネル。君は今の境遇を変えたいかい? ここから逃げ出して、自由になりたいかい?」


 少し口調を変えてミネルに言う。少し体を寄せながら言うことで、焦らせる効果倍増である。


「え、ええっと……」


 少し迷った後、ミネルはこくりと頷いた。


「で、でも……その後のことは、何も……」


 が、抜け出した後のことを心配しているようだ。確かにその通り、女の子一人が街に出た所で生きていく為には結局同じような道しか残されていないのだから。


「ふふ。でも、抜け出す意志はあるんだね」


 もう一度揺さぶりをかける。


「は、はい……」


「よろしい」


 ミネル自身に脱出の意志があるのなら、条件はクリアされたも同然である。


「ではミネル。もし君が本当にここから自由になりたいのなら――」


 ちょっとやりすぎたかなと思いつつも、そっとミネルの背中に両手を回して耳元で囁いた。


「明日一日、私のものになってもらおうか」


 つまりは、偽物とメイドの、滑稽な脱出劇である。






 ……本当、深夜テンションって怖い。


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