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69、村の悩み事 ~俺達に任せて下さい~

 村の入口に人はいなかった。


 夕方になり、日が赤く輝く時間帯であるが、外にいる人間は殆どいない。僅かに残っている人が俺達をちらりと見てはそそくさとどこかへ行ってしまうくらいだ。


 え、何この状況。


 めっちゃ不穏な空気が漂ってますよ?


 何だよ、俺はド○クエの主人公なのかよ。行く場所行く場所で何かしらの厄介事に巻き込まれちゃう体質なのかよ。――なら名探偵もイケそうだな。


 おっと、そんなふざけてる場合ではなかった。泊めさせてもらう宿を探さなくてはならないのだった。


 でもなあ、こんな雰囲気じゃなんかどこにも入りにくいよなあ。


 さり気なく二人は俺の後ろを歩いてるし。はいはい、分かってますよ。交渉は俺がやるんですよね。


 ……やだなあ。俺、コミュニケーションは得意じゃないんだよなあ。


 あれ、でもリィサとルテティアのことを考えてみると――


 俺が一番ましなのかも知れない。


 ふむ、仕方ない。ここはひと肌脱ごうではないか。


 田舎風景漂うこの村、さてどこに行くのが一番いいか。


 こういう時は大抵村長の家に行くべきだ。物語上、重要な情報は大抵村長が握っている。ほら、戦でも敵の頭を討ちに行くだろ。……ちょっと違うか。


 しかし、村長よりものを知っている者がこのこれくらいの規模の村にいるとは思えない。


 さて。では村長の家を聞いて回ろうか、と思ったけど、これまたゲームの知識を活用すると、ほぼ百パーセント、村長の家というのは一番でかいやつなのである。


 ということは――


 あれだ。


 斜め前、それ程遠くない場所に相当でかい家がある。我が家の隣に住んでた町田さんの家と同じくらい大きい。うん、どれくらいかと言うと、だから町田さんの家くらいなのだが――


 ま、いっか。


「二人とも。取り敢えず、村長の所に行くぞ。多分あの家だ」


「はい! 承知しました!」


 リィサは無言でついてきた。


 それにしても、知らない人の家に入るのって何だか緊張するなあ。


 おっかない村長さんだったらどうしよう。


 いやいや、そんな下手に出てはいけないな。アメリカ人の精神を見習うのだ。交渉の際は必ずこちらが下手になってはいけない。そう、自信を持って接するのだ。


 俺は大きな木のドアを叩いた。


「御免下さい。旅の者です」


 もう一度ドアをノックする。


「――はい、どうぞ」


 中からしわがれたおじいさんの声がした。十中八九、村長だろう。


 俺は村長っぽい声のおじいさんに言われた通り、中に入った。やはり、こういう村の扉というものは大抵開いているものである。


 中の造りは、全体的に木であり、暖かな雰囲気に包まれていた。しかし出迎えてくれたおじいさんの顔は決して明るいとは言えない。俺達を歓迎していない、というのではなく、何かに苛まれているような表情だった。


「失礼します。私、旅をしているキエルと申します。こっちは連れの二人です」


 俺が紹介すると、二人とも軽くお辞儀をすると、自己紹介をした。


「おお、旅人さんかね。珍しいの。わしはこの村の村長をしているガズルという」


 村長も自己紹介。うむ、やはり村長であったか。しかし、村長が思った通り温厚そうな人物で良かった。


「突然訪れて申し訳ないのですが、本日一晩、寝床をお借りできないでしょうか。勿論、手伝えることは何でもするつもりです」


 弱気にならず、かつ丁寧に用件を告げた。どうだろう、泊めてくれるかな? ……何か某番組みたいになってんぞ。ここ田舎っぽいし。


「別にそれは構わんよ。旅は疲れるものじゃ。存分に休んでいくと良い。そうじゃな。妻に空き部屋を用意させておこう」


「お気遣い、感謝します」


 村長は気前良くそう言ってくれた。どうやら不快にさせたということもなさそうだ。


 だが、それでも村長の浮かない顔は変わらない。


 俺達のことはおそらく良くも悪くも思っていない。善意で貸してくれる感じだろう。ただ、強いて言うのなら、この村長は俺達のことを「気に留める必要のない事柄」として認識しているような印象を受ける。


 本来よそ者を泊めるという場合、人にも依るが、厚く応対してくれるかあまり良く思わないかのどちらかである。しかし村長の場合、俺達のことについて「それどころではない」というような風に認識しているように思う。


 それはすなわち、別の案件に大きな負担を強いられているということを意味する。


「あの、何かあったのでしょうか。もしお力になれることであれば、助力は惜しみませんが」


 そう言ってみると、村長がふとこっちを見た。


「うむ……いや、たまたま旅の者が来たとは言え、本来このようなことは内部で解決すべきことなのじゃが……話くらいは聞いてくれるかの?」


 村長は控えめにそう聞いてきた。おいおい、村長随分下手だな。


「はい、勿論」


 その提案に対して俺はすぐに肯定の合図をした。


 すると、少し間を置いて村長が語り出す。


「実はな、この村では少し前に大規模な災害があったのじゃ。災害とは言っても、自然によるものではないが。いや、だが大きく括れば自然災害と言えなくもないかも知れぬ」


 少し回りくどい言い方で、村長が言った。


「五日前、この村のすぐ近くにある『カフィスの洞窟』という場所から獣がやってきてな。やつらは獣人と獣のあいの子、つまりは『亜人獣』よ。理性を持たず、ただ殺戮を繰り返す、恐ろしい獣じゃ。その亜人獣達がこの村を襲いおった。わしらの戦力では到底敵いもせぬ。あの時は何故か早々に引き返したのじゃが、またいつ襲ってくるのか分からぬ状態にある」


 深刻そうな顔をする村長。そりゃ大変だ。


 それに、俺は初めて聞いた亜人獣という言葉も気になった。獣人じゃない獣人型の獣ということなのだろうか。


「ルテティア、亜人獣って知ってたか?」


「キエルさん、知らなかったんですか?」


 あれ、どうやらこの世界では一般教養の部類であるようだ。


「この村には兵力があるのですか? 村長」


 もう一度村長に向き直った俺はそう尋ねた。平和で田舎感漂う中に兵士がいるとは思えない。


「おお、村の男達が武装して挑んだのじゃ。ただ、特別訓練を受けた者達ではない故、敵うはずもない……」


 村長は申し訳なさそうにそう言った。その気持ちは恐らく、戦った男達に向けられているものなのだろう。もしかしたら戦死者も出たのかも知れない。勿論、そんなことを安易に聞きはしないが。


「なるほど、それで、その『カフィスの洞窟』というのはどこにあるのですか?」


 俺は続けてそう聞いた。今の話からすると、その洞窟を亜人獣が根城にしているということになるはずだ。


「この村から北に少し行った山の麓にある。それ程距離がない故、日々恐怖を身に抱いているのじゃ……」


 なるほど、あまり遠くはないのか。


「――分かりました。お手伝いできることは何でもしますと言いましたので、その亜人獣とやらの対処は、俺達に任せて下さい」


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