67、脱獄犯確保の命 ~第一級犯罪人の逃亡~
海王達が黒勇者の資格を失ってからしばらくして。
その事実を隠すことを決めた海王達は、当たり前のごとく誰にも称号の消失を伝えなかった。
伝えなかったのだから誰も知っているはずがない。すなわちいつもの通りということである。
国王は四人の帰還を盛大に迎え、祝宴を開き、最大限のもてなしをした。それも一晩に限らず三日続けてというのだから、中々大層なものである。
そんな道楽気分も終わり、さて次はどうしたものかと考えているのがこの日頃なのだが、つまり現状を端的に表すと、次の行動を決めあぐねてダラダラしている、という感じだ。
勇者の称号がなくなったことなどもう既に気にも留めていない様子で、四人は同室の隅で話し合っている。白仮面のこともあまり気にはしていないらしく、彼らの表情には笑顔が見受けられる。
最近の若者はどうにも切り替えが早いらしい。心配性でない、と言いかえることもできるか。
「また遠征するとかどうだ?」
西治がふとそんなことを言い出す。
「流石に行ったばかりだからね」
当然のことではあるが、それを友理が言う。しかし、行ったばかりだから、何なのだろうか。
別にもう一度行ってもいいではないか。その方が力もつくし、そもそも行く場所が違うのだから遠征という言葉は同じでも全く違うものになるはずなのだ。
「そうだな。何か違うのがいいよな」
海王もそう言う。
きっと彼らが遠征を拒むのは、最近行ったから、ではなく、最近行ってもう一度行くのが面倒だから、なのだろう。
規模が小さくとも冒険を行うことで経験は溜まる。勇者として(もう違うが)よりレベルアップできる。勇者でなくとも、戦えばそれだけ強くなるのは当然のことだ。
つまり、彼らは疲れてしまったのである。最初から十分に強力なステータスを持っていて、一度の遠征で自信をつけてしまった彼らは、これ以上やることがない、もしくはやる必要がないと判断してしまった、ということなのだ。
これはそのまま、彼らの成長の停止を意味する。
確かに、このままでも何の問題もない。彼らの戦闘能力は十分に高く、そこらの冒険者に負けることはないだろう。国王曰く、魔王にも勝てる、そうだ。
だから彼らが行かないと言うのなら、別にそれでいい。
「でも何か体動かしたいよな」
「そうだな。この王都にも闘技場みたいなのはあると思うから、陛下に頼んでみるか?」
「おっ、それいいな」
「アタシももう一回戦いたいなあ。今度は海王クンと西治クンとも戦いたいかな」
「えっと、それはちょっと俺らが戦いにくいと思うぜ……?」
遠慮気味に西治が言う。女子相手に戦うのは、確かに厳しい。
「ええ? そんな、女の子相手だからって手抜いちゃだめだよ? もし魔王が女の子だったらどうするのさ」
友理の意見は至極真っ当なものである。相手の姿によって力の出し惜しみをするのは良くない。
「まあ、その時は全力で戦うよ。でも敵の女の子と味方の女の子じゃ全然違うだろ?」
海王が落ち着いて諭すように言う。
「そ、そうだね~」
「た、確かに、アタシ達、仲間だもんね」
これだからこの男はモテるのである。
「でもよ、正直今の力で魔王とやらを倒せるんかね?」
ここで西治がふとそんなことを口に出す。やはり多少の心配はしているようだ。
「どうだろう。だけど、俺達結構頑張ってきたよな。それに、俺達は四人いるんだ。きっと負けないよ」
「そうだよ! せっかくの異世界なんだから、そうやって使命に追われるのもほどほどにして、たっぷり楽しもうじゃん?」
「そうだよね~」
結局、皆楽しみたいという意志が強いようである。好奇心旺盛な高校生なら当たり前ではあるけれど。
「ゆ、勇者様!」
と海王達が談笑していると、突然部屋のドアが叩かれ、一人の家来が入ってきた。
「どうしました?」
家来の焦り様を見て海王が丁寧に対応する。
「こ、国王陛下からお呼び出しでございます! 至急来ていただくようにとのことです!」
家来が頭を下げながらそう言った。
「陛下が? ――分かりました。すぐ行きます」
家来に答えて、海王が皆に目で合図する。
「おっ、少しは楽しそうになってきたか?」
西治が意気揚々と言う。
自信過剰でないことを祈りたい。
「おお、待っておったぞ、勇者殿よ。実は頼みたいことがあって呼ばせていただいたのだ」
「何でしょうか国王陛下」
国王との会話は基本海王が行うことにしている。そうした方が円滑に物事を進められるからだ。
「レグラリオ、説明を」
国王がそう促すと、レグラリオが一歩前へ出る。
「かしこまりました、陛下。――さて、勇者様。此度は急にお呼び出ししてしまい申し訳ありません。しかし重大な事件が起こりましたので、何卒勇者様の力をお借りしたいのです」
丁寧な口調でレグラリオがことを話し始めた。
「重大な事件、とは?」
海王が聞き返す。
「はい。実は数日前、王都南西部『ギルフォルン』の監獄『アビズベル』に収容されていた第一級犯罪人、ヘリヘス・フォングライクが逃亡したのです。彼は『アビズベル』の最下層に多重の警戒網の上閉じ込められていたのですが、何故かその体制が破られ、彼の逃亡を許してしまったのです。現在その原因について調査中です。つきましては、勇者様方にはそのお力をもってこの罪人を確保していただきたいのです」
簡潔にまとめられた情報を聞いて、海王には一つ思う所があった。
「その、第一級犯罪人、というのは何をした人なんですか?」
「彼は殺人や強盗を始め、残虐な行為を繰り返している戦闘狂とでも言うべき恐ろしい男です。その戦闘能力は他の罪人とは比べものにならず、元武闘家ですので同じ武闘家からも恐れられていた存在なのです。彼相手には多数の軍で攻めても勝ち目は薄いため、個人個人の力に秀でている勇者様方にお願い申し上げている次第であります」
四人の背筋が少し冷えた。
その大罪人が残虐であると聞いただけで、そうなるのは至極当然のことである。何せ彼らはただの高校生なのだ。本来ならそんな強力な罪人とは比べものにならないほど弱い。ただ異世界に来て異常な力を手に入れてしまったが故、今の状態に陥ったと言えよう。
だが、恐れはしたものの、彼らはそれなりにそういう類の恐怖と闘ってきたのである。
それが罪人相手だからと言って、完全に動けなくなってしまうというようなことはないだろう。
連携、戦術、技のバリエーション、それらを磨いてきたのだから。
「……分かりました。受けましょう」
海王は皆の顔を確認してから、そう了承の言葉を伝えた。
「おお、そうか! やってくれるか! うむ、これならばやつの確保は間違いあるまい! はっはっは! 何とも頼もしい!」
国王は満足げにそう言う。
「現在ヘリヘスはクラソルテ王国を脱出し南西方向に向かっている模様。明日この男についての情報と対策を話し合いたいと思っておりますのでよろしくお願い致します。勇者様方には一度この国を出ていただくことになると思いますが、目標達成の後はこちらからお迎えに参りますのでご安心下さい。できる援助は当然ながら惜しみなく行わせていただきます」
「おおっ! 国外に行くのか! そりゃ面白そうだな!」
西治のテンションが上がる。それに呼応して皆のやる気も出てきたようである。
「腕がなるっていうのはこういう時に使う言葉なのかな?」
友理を始め、四人全員とも自信に満ち溢れている。
「ああ。せっかく下りてきた任務だ。しっかりクリアしてもっと強くなろうぜ!」
「おーっ!」
海王の呼びかけに三人が答える。
その逞しさにレグラリオや国王、その他の家臣達も心を和ませるのだった。
疑う者は一人もいなかった。




