65、意志 since ザ・デイズ ~助けたいから、助けるのだ~
怪我は浅く、案外何の問題もなかった。
だから以前の計画を変更する必要はない。
今日俺はこの街を発つのだ。
ルテティアと一緒に支度をした俺は『サムトラク』の皆に挨拶をすると、北へと向かう。
「おい、キエル。またいつでも来いよな。お前なら大歓迎だぜ」
「そうだニャン♪ また一緒にクエスト行こうニャン!」
「農業魂、また見せつけてやるぜ!」
俺と関わった色んな人が、出迎えに来てくれた。
これが、見送りってやつなんだな。
人に見送られると、こういう気分になるのか。ふむ、悪くないな。
「じゃあ、またな」
俺の手をルテティアが掴み、そのまま――
と思ったら俺の手を掴んでいるのはリィサだった。
「ん? どうした?」
一歩後ろに下がった皆は何やらニヤニヤしている。え、何?
「えっと……その……色々、世話になったわね。少しくらいはお礼を言ってあげてもいいわよ」
「ふふ。そうだな」
このツンデレ具合も懐かしくなってしまうのか。やっぱり寂しいな。
「な、何よ。やけに素直じゃない」
「リィサに言われたくはないな」
素直の対局に位置する人間だろ、あんた。
「最後に挨拶、ありがとな――じゃあ」
と出発しようとするのだが、周りのニヤニヤは消えず、リィサも俺の手を放さない。な、何よ、まだ何かあるのかい?
「そ、その」
周りは皆黙っていて、ルテティアはきょとんとしていて、リィサはたじろいでいる。そんで俺は困惑している。
な、何だよ、この無駄な時間。この空白の時間は何?
「ほら、言っちまえよ」
と、ついに黙っていられなくなったのか、後方からダルドがリィサを急かした。
何だろうか。何か用があるのだろうか。
「ったく。キエルも男なら察してやれよ。同年代の女の子が目の前でもじもじしてんだぜ?」
今度は俺にも何かを要求してきた。
だから、言いたいことははっきり言わないと伝わらないんだって。それを俺が汲み取れと言うのか? 人から汲み取ってもらう所か認識すらされないこの俺が人の感情を読み取れというのか。
仕方ない。できる範囲でやってみよう。
まず、俺とリィサが出会ったのはこの街に来てルテティアと食事をした後だ。
そして男達と口論しているのを見て、仲裁に入った。
それで俺が一人で魔獣退治に行こうとしたら何故かついてきた。
それで共闘。
ギルドの存在を知って一時的にパーティを組んで祭りも一緒に楽しんだ。
……うむ。簡潔にまとめてみたが、これを俺が知っているパターンに当てはめてみると――
「ん、何だリィサ。もしかして俺に惚れたのか?」
「なっ!? ば、ち、違うわよ!」
あれ、違ったか。いやいや、俺は正直ものだから、思ったことはつい言ってしまうんですよね。
「はっはっはっは!」
ダルドは何か大爆笑してるし。
それにコソコソと話している連中も多い。何だよ、俺、晒し者みたいじゃないか。
「違うのか?」
「だ、だから違うって、言ってるでしょ……!」
顔を真っ赤にしながらリィサが言う。あのー、俺、別に鈍感系主人公とかじゃないんで、そんなに顔を赤くされると分かっちゃうんだが?
いや、待てよ? 恥ずかしがっているからと言って必ずしも俺のことが好きだとは限らないのではないか?
色恋沙汰は誰にとっても恥ずかしいものだ。本当に的外れなことを言われた時、人によって怒る者もいれば照れる者もいる。リィサが後者だった場合、俺のことが好きというのはあまり信憑性がなくなる。それに、好きになられたら俺が困る。だって今をもってもうお別れなんだもの。そんなの寂しいじゃない。
「そっか。じゃあ何故俺の手を放さない?」
さっきからずっとリィサの手は握られたままである。
「くっくっく。キエルも中々鬼畜だなあ。女にあんま恥をかかせるもんじゃないぜ?」
とかダルドが言う。おい、それって完全に告白された時のセリフじゃねえか。
でも違うというんだから、今回は違うのだろう。
じゃあ、何なんだ。
再び無駄な時間が続く。
えぇ? 俺もしかして出発できないんじゃないの?
そこで俺はふと、リィサが大き目のバッグを背負っていることに気づく。今更だが、気づいた。
何故見送りにバッグが要るのだろう。見送られる側には必要でも見送る方には――
ああ、そうか。そういうことか。
なるほどね、中々可愛い所があるじゃないか。
でもな。
「言いたいことははっきり言わないと分からないぞ、リィサ」
「わ、分かってるわよ……」
皆のニヤニヤが止まらない。だから、本当、やめて下さいよそういうの。
「そ、その……あんた一人じゃ不安だろうから、私がついて行ってあげても、いいわよ?」
「いや俺一人じゃないんだが」
「う…………べ、別にいいじゃない!」
か、可愛いな。
ツンデレって素晴らしいな。
「……ふふ。そうだな。両手に花も悪くないか」
そう思い切って、俺はリィサの頭を撫でた。
「な、何するのよ!?」
ダルドの時とは違い、何かとっても嫌がられた。顔を赤くしながら。
そして同時に拍手が起こる。
そうか。皆はもうリィサを送り出す覚悟もしてたんだな。
「いつでもまた帰って来いよリィサ! お前の親父には俺が何とでも言ってやらあ!」
「何かお堅い所があるな、と思っていたけど、リィサちゃん、中々可愛い所があるのね。食べちゃいたいくらい」
「ミーは最初からリィサのことを狙ってたニャン! また一緒に出かけようニャン!」
「本当に今までお疲れ様で様ですたこれからは旅とか何とか色々頑張っておくんなましです」
「リィサちゃん、今度アタシと一緒にお出掛けしましょうねっ」
「おお、嬢ちゃん。あんた意外と農業を分かってたじゃねえか。いつでも教えてやるから、また戻ってこいや」
ダルドに続いて、妖艶なお姉さん、猫娘、文法崩壊の女、オカマ、それに農業のお兄さんがリィサを見送る。
何だ、ちゃんと仲良くなれてるじゃないか。
「ふ、ふん。そ、そういう気分になったら、帰ってくるかも知れないわ。期待しないで待ってなさい!」
そっぽを向いて、リィサが言う。はいはい、ツンデレでいらっしゃりますね。
「おう、キエル! またな!」
ダルドがもう一度大きな声で言った。
「ああ。良い街だったぜ」
俺はその力強い見送りに、そう答えた。
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光なんて、要らない。
自分に必要なのは、絶望のみ。
暗闇の中で輝く、闇だけ。
そして世界にも、光なんて要らない。
闇と同化し、自らがその中心に居座ることで、世界を闇に染める。
世界を自分色に染める。
「綺慧瑠君に、会えたのだから、世界を滅ぼすことだって――」
できる。自分なら、きっとできる。
だが、彼女を支えてきた想いは未だ、かろうじて崩れてはいない。
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街を出て再び思うことがあった。
今、隣にはルテティアとリィサがいる。
これで、合っているのか、と。
これが、正しい道なのか、と。
それは結論づけたはずだ。自分は間違っていても、彼女達は間違っていないと。
自分は偽物でも、偽物の傍にいる彼女達は本物だと、そう結論づけたはずだ。
だけど。
それでも、どうしても、俺は彼女のことを忘れることができない。
幼稚園児の時みたいに。
小学生の時みたいに。
中学生の時みたいに。
そして今、異世界にいる俺は同じように彼女を助けたいと思っている。
助けてあげたいと、思っている。
彼女はこの世界に来てからずっと、俺を探していたのだ。
ならば今度は俺が、彼女を探す番だ。
あのように狂ってしまっていた彼女だけれど、ならば今度は俺が、彼女を闇の中から探し出す番である。
助けられるから、ではない。
助けたいから、助けるのだ。
俺は明日木白邪を助けたい。
そう思ったのは、もしかすると彼女があの子に似ていたからなのかも知れない。
第二話 『白き夜の惨劇』 (終)




