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60、噂話 beside サムトラク ~要点をまとめた会話、あざっす~

 朝目が覚めたのだが、あまり気分が良くない。夢を見ていたような気がするけれど、その内容も特に思い出すことはできなし、思い出せないのだから大して重要なことではないのだろう。


 俺はボーっとした目で隣を見た。ルテティアが寝ている。


 ルテティア・イン・ドリームランドである。


 昨日何か俺の寝顔を見るとか言ってなかったっけ。


 今朝もばっちり俺はルテティアの寝顔を見てしまった。


 こいつ、寝てる時の方が可愛いな。


 俺はルテティアを起こさないように注意しながら身支度を済ませた。


 まだ朝早い時間帯だと思うけれど、今日から一応あのギルドに入るのだ。さっさと行った方が良いだろう。おそらく祭りの用意とかもあるだろうし、中々忙しい日々になりそうだ。


 だから準備を終えた俺としては、もういつ出発してもいいのだけれど、あいにくルテティアはまだスリープモードから抜け出してはいない。本当、油断し過ぎだろ。


「おい、ルテティア。置いてくぞ」


 そう声をかけてみるものの、勿論返事はない。昨日の内に、連れも一緒にどうだ? とダルドに言われてしまっているので今回はルテティアを置いていけないので起こすしかないようだ。


「……ェルさん、だめ……です……」


 だからこいつは昨日に続き何の夢を見ているのだ。


 甘い声で寝言を言うものだからついドキドキしてしまう。やっぱりこいつと部屋を分けようかな。


「何が駄目なんだ?」


「…………すぅ」


 返事はない。ええ? どうしよう。これ起きるまで待たなきゃだめなの? それは何だか面倒だな。


 だったらルテティアが起きるまでちょっと悪戯してやろうか。無論、性的な意味でではないから。


 俺はもう一度声をかけてルテティアが起きないことを確認すると、そっと体を抱きかかえた。


「…………ぅ」


 唸り声を上げるだけで全く起きない。その柔らかな感触を手に抱いたまま、俺は部屋をそっと出た。


 足でドアを開け、廊下に出た。


 そしてそこにルテティアをそっと下ろす。


 よし、これで完全に捨てられた子だな。


 すぐさまドアを閉めて俺は部屋に戻る。


 これでルテティアが起きるまで俺は部屋の中で待機だな――


「……っ!? はっ!? ここはどこですか!?」


 と俺が待機姿勢をとってすぐ、廊下からルテティアの声が聞こえた。起きるの早いな。


「フカフカのベッドはどこですか……? キエルさん、どこですか……?」


 すぐに俺の名前を呼ぶルテティア。もう少し自立しろよ。


「…………キエルさーん! キエルさーん! どこですかーっ!」


 おい! うるさいぞ! まだ朝なんだから。


 仕方ない。まだ楽しめていないけれど、迷惑になるからやめるか。それにしても、そこが宿の廊下だと気づかないのか。


 俺はやれやれと言ってドアを開けた。


「おはよう、ルテティア。今日も寝顔が可愛かったぞ」


「へっ……!?」


 きょとんとした顔になるルテティア。


「………し、し、しまったーっ!」


 そして悔しそうにした。恥ずかしさはどこかへ飛んで行ったようである。






          ――――――――――★――――――――――





「おう! よく来たな!」


 ギルド内は既に人で賑わっていた。まだけっこう朝早いのに、皆やる気があるんだな。


 俺とルテティアがギルド内に入るとすぐ、ダルドが俺の方に寄ってきた。


「おっ、その子が連れかい?」


 すぐさま俺の隣にいるルテティアに目が行ったのか、そう聞いてくる。


「ああ、そうだ」


「随分可愛い子じゃねえか。なるほど、これは厄介だな」


「何がだ?」


「いや、こっちの話だ」


 会って早々意味の分からないことを呟くダルドである。


「よ、よろしくです! 私、キエルさんと一生一緒にいると誓ったルテティア・ルトゥム・マッドエストアークと言います!」


「い、一生!?」


 ルテティアの挨拶に周りの人間も驚く。おい、だから誤解を招くような言い方はやめなさい。


「おいダルドのおっさん。違うからな? ただ懐いてるだけだから」


「そ、そうなのか? …………ん、お嬢ちゃん、有翼人か?」


「そうです!」


 元気に言う。やはり人種とか気にするのかな。


 いやでもダルドのおっさんがそんなことを気にするとは思えないな。それに有翼人は狙われやすいというだけで差別を受けているという訳でもないだろうし。


 単に珍しいだけなのかも知れない。


「それで、俺は何をすればいいんだ? こんな朝早くから皆集まって、随分活気のあるギルドみたいだけど」


「ああ、うちのギルドはいつでも活気に溢れてるぜ? それに、もうすぐ祭りだ。今は、連中皆そのことで頭が一杯なのさ。この時期になると、依頼にも祭り絡みのことが沢山上がってくる。今が稼ぎ時、とも言えるな。それに祭りそのものも楽しみにしてる」


「そうなのか。中々元気な奴らなんだな。それで結局、俺はどうすればいいんだ?」


 それを聞いていたのだった。急にギルドに加入と言われても、何からすれば良いのかは全然分からない。仮加入だから手続きとか諸々は不要だとは思うけど。


「ああ、キエルには好きにクエストを選んでもらってもいい。が、いきなり言われてもあんまり手が着かないだろうから、今回は俺達がいくつか選ばせてもらった。チームで行くようなクエストばっかりなんで、パーティを用意してある。好きな所に入ってくれ」


 ダルドが自信満々に言う。確かに、しっかりと準備のできるおっさんのようだ。やっぱ流石ギルマス。


「じゃあ、そのクエストとやらを見せてくれ」


「おうよ」


 俺が頼むと、ダルドが数枚の紙を渡してきた。






 北部会場設置準備



 タルタル草採取



 警備作戦計画会議



 魔獣討伐(遠距離)






 と書かれている。


 これが依頼内容か。確かに会場設置とか草採取とか会議とか、祭りに関係しそうなものが見られる。


 魔獣討伐は遠いらしいが、戦闘系のメンバーが出るのだろう。


 個人的には戦いに出てみたいが、このギルドは人数と規模から考えてそれなりのものだと考えられる。その戦闘メンバーに俺が入ってもあまり良い連携は組めないのではないだろうか。


 だが会場設置や作戦会議は怠そうである。


 となれば、この「タルタル草採取」とか言うのが一番良さそうだ。


 それに「タルタル草」っていうのが超気になる。タルタルソースの元にでもなるのか?


「これにするよ」


 俺は「タルタル草採取」を選んだ。新鮮で、未知なる可能性を宿したクエストである――ちょっと言い過ぎかな。


「これか? キエル、意外とコアなやつを選ぶんだな。俺はてっきり魔獣討伐にするのかと思ったぜ」


「まあそれも面白そうだけど、採取クエストもやってみようかなと思ってね」


 採取クエスト。それは大自然の中に芽吹く小さな命を探す、冒険のことである。まあ、その小さな命をいただく訳だけど。


「そうか。確かに、経験を積むのは大事だからな。だが、キエル程の実力があればもうこういうのは退屈なんじゃないか?」


「いやいや、俺、まだ駆け出しだから」


「そんなこと言って、駆け出しのやつが『グラゴニウス種』を倒せる訳ないだろ? あんま、謙遜するもんじゃないぜ」


「ん、そうか」


 俺は別に嘘をついてはいないのだが、何か色々訳を説明するのも面倒だったのでやめておいた。


「で、俺と一緒に行くそのパーティっていうのは――」


 誰なんだと聞こうとした所で、





 ――――なあ、聞いたか?


 ――――ああ、『魔王殺しの剣サタナクルス・グラディウス』のことだろ?


 ――――そうそう、最近本当すげぇよな。今回だってたった十人で『バブリア大陸』の『ベルゼグラス宮殿』付近の怪物を倒したんだぜ? 十人とか、あり得ないだろ。


 ――――いや、噂によると、その時は五人で戦ってたらしい。


 ――――マジか!?





 と、実に要所要所をまとめた会話をしてくれた二人の声が聞こえた。


 が、その『魔王殺しの剣サタナクルス・グラディウス』とやらが何者なのかは勿論知らない。


「なあ、ダルド」


「何だ?」


「『魔王殺しの剣サタナクルス・グラディウス』って何だ?」





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