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6、世界最強? ~黒勇者は四人組のリア充~

 ……何だ、これ。っていうか年齢書いてあるし! せっかく計算したのに。


 それにしても、これは何なのだろうか。見る限り、メイドさんのステータスのようだが。


 それに詳細はこちらっていうのも気になるな。


 っていうかスリーサイズは詳細じゃなくて基本情報なのかよ。


 と、脳内でツッコミまくりな訳だが、ここはどういう反応をするべきなのだろうか。


「ん、ありがとう」


 ひとまずメイドさん、ミネルに礼を言って、これから彼女にどういうキャラで接するのかを考える。


 俺は勇者な訳だから、一使用人に異常に謙虚になるのもよくはないだろう。だからと言って傲慢なキャラで押すのは俺の紳士道に反するから駄目だ。


 俺はあくまでも謙虚に気づかれないようにがモットーだから、そうやって威張るのは好みではない。


 が、ただの人間ではないということくらいはアピールしておいた方がいいかもしれない。


「ミネル・トリアスタ。あなたは使用人、ということでいいのですか?」


 丁寧な口調でそう尋ねる。


「え? あ、はい。そうです……」


 名前を言われたことに驚いているのか、ミネルは首を傾げながら答えた。


「そうですか。俺、いや私はキエル。この度この世界に勇者として召喚されました。取り敢えず座って下さい」


 主語を「私」に変えて、紳士風に席を勧める。おお、これちょっと楽しい。


「あ、はい」


 慌ててメイドが置いてあった席に座る。


 俺はベッドに座ったまま、メイドの方を向いた。


「なぜ私があなたの名前を知っていたか、気になりますか?」


「え、ええ」


 さっきまで落ち着きを取り戻しかけていたミネルは再びそわそわし始めた。


「それは私が勇者だからです」


「え? あ、はい」


 正直に答えるミネルさん。うん、可愛いな。


 しかしこう身分的な差があるとどうにも話しにくい。俺がいつものフランクな感じで冗談を言っても、何を口にしてもメイドさんは真面目に答えるしかないのだから。

 俺はこういう純粋な子をいじめて楽しむような性癖は持っていない。そんなの可愛そうでできない。


 まあでも、一回この口調で始めてしまったから、せめてこの王室から抜け出す算段を立てるまではこのメイドさんに世話になろう。


「私は勇者なので、色々なことが分かります。何か私に当てて欲しいものはありませんか?」


 メイドさんの緊張を和らげる為に俺は質問を投げかけてみた。最初だからあまり答えが返ってくることは期待してはいないのだけれど。


「え……えっと……」


 戸惑うメイドさん。やっぱり可愛い。


 因みに、もう一度言っておくが、俺に特殊な性癖はない。本当である。


「では私から一つ。あなたの特技を当ててみましょう」


 俺は「詳細はこちら」を開いた。




 特技  ナイフ投げ 薙刀




 え?


 正に「え?」である。随分物騒なものが特技として挙げられているのだが、これは記載ミスとかではない、んだよな?


 確かに、勇者の召使いともなれば召使いであっても高位のものを用意するはずだ。その意味で言えばこういった護身術的ものが特技にある人間を選ぶのは間違ってはいない。


 それに勇者(俺)は男だから、美少女を用意するのも全くもって当然の措置である。


 それらの要素を兼ね備えた人間を選んだ、ということだろう。


「どうやらあなたは外見に合わず武器の取り扱いが上手なようですね」


 俺がそう言うと、ミネルははっとなった。


「それも、ナイフと薙刀が特に得意だ」


 加えて言うと、ミネルはどう返そうか迷った風にキョロキョロした。


「いえいえ、素晴らしいことだと思いますよ」


 そう一言言って俺はベッドに転がった。


「あ、あの、御用がありましたら何なりとお申し付け下さい! で、では私はお召し物を取りに行って参ります!」


 思い立ったようにミネルは立ち上がり、速やかに部屋から出て行った。


 随分しっかりしたメイドさんだな。こけなかったし。


 それにしても、美少女メイドに「何なりと」と言われると何だか落ち着かないな。


 今はそんなことより、脱出のことを考えなければ。







             ――――――――――★――――――――――






「この世界には『魔王戦』という決まりがあるのだ」


 クラソルテ王国国王はいきなりそう切り出した。勇者の為に用意されたこの広大な部屋に、家臣達が数人国王の後ろに立っている。そして机の左側に勇者四人、右側に国王が座っている。


「『魔王戦』ですか?」


 受け答えが一番しっかりできるであろう国立海王が主に国王の話を受ける体勢だ。


「そうだ。千年に一度、この世界には『魔王』が誕生し、世界に災いを振りまく。その為、我らは勇者を召喚し、『魔王』討伐に当たらせる。晴れて魔王を倒した暁には我が国の偉大なる発展と共にそなたらにも莫大な褒美を与える」


 国王は実に単純に事を説明した。単純すぎて海王達の思考が追いついているかどうか分からない。


「ええと、国王陛下。つまり俺達が『魔王』を倒せばそれでいい、ということでしょうか」


 よりシンプルに海王がまとめると、


「そうだ、その通りだ! うむ、実に物分りが良くて助かるぞ!」


 国王が機嫌良さそうに豪快に笑う。


「その、『魔王』とはどのような存在なのでしょうか」


 海王が尋ねた。その他のメンバーも興味津々のようで耳を傾けている。


「うむ」


 すると、国王の顔が少し曇った。


「文献によれば『魔王』は悪逆非道。ただ姿は文献により全く異なる。異形の怪物であったり、巨大な化け物であったり、ドラゴンのような姿をしていたり、大男であったりする。つまり『魔王』の姿は千年毎に大きく変わっているのだ。そもそも、千年毎に表れる『魔王』はそれぞれ別の『魔王』なのかもしれない。故にどのような力を持ち合わせているのか、我らにも見当がつかぬ。ただ言えるのは、どの『魔王』も限りなく強大な力を持っているということだ」


「そ、そうなんですか」


 海王達が少し不安に揺さぶられると、国王は再び豪快に笑った。


「はっはっは。大丈夫、大丈夫だ。どれもこれも、召喚された勇者は一人とされている。何せ今回我らの陣には四人もの勇者がおるのだ。どんな『魔王』が現れようと負けはせんわい」


 その言葉を聞いた海王達はほっとしたが、ここでゲームをやり慣れている西治が疑問を投げかけた。


「あ、あの、我らの陣って言いましたけど、何か他のチームもあったりするんすか?」


「ん? おお、そうであった。まだその話をしていなかったな」


 話を省略し過ぎた国王は大切なことを言い忘れていたようである。


「この『魔王戦』には三極が存在する。『魔王』、『黒勇者』、そして『白勇者』だ。倒すべき対象は『魔王』だが、『白勇者』も『魔王』を狙っておる。先に討ち取られてしまえば、我らに繁栄はない。もう一つの大国、レノクターン王国が召喚したであろう『白勇者』に先を越されてはならない。もしもそうなれば、繁栄が奴らの手に渡ってしまう」


 と、一呼吸おいて、


「だが繰り返そう。大丈夫だ。我らが召喚した勇者は四人。向こうは一人だろう。負けるはずがない」


 国王は自信を持って断言した。


 しかし海王はそれ程悠長ではない。


「陛下、しかしながら、俺達も四人ということは、向こうも四人召喚した、ということもあり得るのではないでしょうか」


「むむ。なるほど、確かにそうかもしれぬ。だがな、勇者よ。召喚という技法は非常にリスクを伴うものなのだ。そう簡単に四人も呼べまい。本来なら一度の召喚で呼べるのは一人なのだ。それはこの世界始まってからの不変の事実。だが、我らは召喚の研究をしておる。やつらレノクターンとは違い我らは様々な研究を行っておるのだ。その成果により、今回の召喚で複数の人間を呼べる可能性はゼロではないと分かった。流石に四人も人間が召喚された時には正気を疑ってついそなたらに疑いをかけてしまったが、それは誤りであった。何せ四人とも本物だったのだからな! はっはっは!」


 相変わらず豪快に喋る国王は長ゼリフを勢いに乗って言い切った。


「そ、そうなのですか。でしたら凄いことですね」


 海王は国王の機嫌に合わせてそう返す。


「おう、その通り! これは快挙である。ところでそなたら、過去の文献と比較したい故、召喚時の魂体数値を教えていただきたい」


「魂体数値、ですか?」


 何のことだろうと首を傾げる。


「おい西治。魂体数値ってどれだ?」


 小声で海王が聞く。


「聞いたことねぇな。でも普通こういう時聞くのはレベルじゃねえか?」


「陛下、それはレベルのことで間違いないでしょうか?」


「れべる? おお、そうだそうだ、そういう呼び方もあると書かれておったな。いやすまぬ。過去の勇者が皆揃ってその言葉を口にする、と書かれておったのだった。そうだ、そのれべるとやらを教えてくれたまえ」


「えっと、俺は265」


「海王高くね!? えっと、俺は252」


「私は249~」


「アタシは260だったよ」


 皆順番に答える。


「な、なんと! 皆200を超えておるのか!? 馬鹿な! 初期魂体数値200以上など聞いたことがない! そなたら! そなたらは本物以上だ! これほどの力の者が四人もいれば『白勇者』の妨害はおろか、『魔王』であっても苦ではないだろう! 素晴らしい!」


 国王が再び興奮状態に入り、それにつられて海王達もテンションが上がってきたのだが、ここでもう一つ大事な質問が出現した。


「あ、あの~」


 それを言おうとするのは時沢綾火である。


「その『魔王』? とかいうのを倒して褒美をもらえるのは嬉しいんですけど、その後、私達ちゃんと帰れるんですかね? 元の世界に」


 そう、これはおそらく一番最初に聞いておくべきだったことだ。


 元の世界への帰還方法。それは異世界転移もので最も重要なことだと言っても良い。


「おう。その点は心配いらぬぞ。我らが責任を持ってそなたらを元の世界に返そう。何、安心せい。文献によれば、今までの勇者は全て無事に送り返したとされている」


 嘘を言っているようには見えない。この国王は嘘をつかないだろう。全てありのままのことを伝え、単純かつ豪快に繁栄を手にしようとする。そういう人間なのだ。


 そのリーダーシップに惹かれ、海王達も相当やる気になっていた。


「よっしゃ! じゃあいっちょやってやろうぜ!」


 テンションが一番上がっているであろう西治が席を立った。


「ああ、そうだな」


 続いて海王も立つ。


「何か面白そうだし~」


 綾火が海王に呼応する。


「アタシ達最強?」


 友理が皆の手を掴む。


「陛下。お任せ下さい。必ず俺達が『魔王』を倒します」


 自信たっぷりに、海王が答えた。


 だが、果たして過去の国王達は何を以て「無事に」送り届けたことを確認したのだろうか。



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