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57、怒号 throughout ギルド ~失言はしてないと思う~

 かなりの巨体で、ニメートルくらいはあるのではないだろうか。筋骨隆々でマッスルモンクという感じである。格闘戦では無類の強さを誇る、とか説明に書いてありそうなキャラだ。それでいて顔は特にいかついという訳でもなく、「何か良い人」っぽい印象を受ける。


「な、何よ。別にどうだっていいでしょ」


 リィサはごつい男への返答に突き放すような言葉を使う。まあ俺に対してもそうだけど。


「相変わらず可愛げがねえな。……おっと、これは失礼。リィサが人と一緒にいる所なんて殆ど見たことねえからな。つい目が行っちまった。俺はダルド。このギルド、『サムトラク』のギルドマスターってのをやってる。よろしくな!」


 ニカッと笑ってごつ男、ダルドが俺に挨拶をした。外見に似合わず人当りが良さそうである。


 それにしても、ギルドマスターか。ギルマスね。ギルマス。確かに屈強な体の持ち主だし、人格としても相応しそうだ。ここはひょっとすると良いギルドなんじゃないか? そう思った。


「ああ、どうも。こちらこそよろしく。俺はキエル。旅人だ」


 こちらも簡潔に挨拶を済ませる。最低限の礼儀というやつだ。


「おう、若いのは旅人さんか。じゃあ、この街は初めてか?」


「ああ、そうだ」


 ここは敬語を使ったほうがいいのだろうか。いや、何かフランクそうなおっさんだからいっか。


「そうかそうか。どうだ、この街。元気で明るい街だろ?」


「確かに、賑わってるな」


 と言いつつも、このナイスミドルマッチョが俺達の前に立って喋っているせいで呼ばれたウエイトレスが来づらそうにしているのが見えた。おっさん、ウエイトレス待ってるぞ。


「ちょっとダルド。今私注文する所なんだけど」


 非難たっぷりの目でリィサがダルドを見る。


「ん? ああ、そうか。じゃあ俺が注文を受けつけよう」


 ウエイトレスに目で合図すると、ダルドが豪快に笑った。何だ、せっかくなら美少女に注文を受けてもらいたいのだが?


 こんなごっつい男がオーダーを受けにきたらびっくりである。


「いやあ、それにしてもよ。キエル、だったか? リィサが人といるなんて本当珍しいんだぜ? しかも若い男と。ほうほう、これは何か予感がするぜ」


「へ、変な勘ぐりはやめてよね……!」


 ふくれた顔でリィサが言う。


 それにしても、リィサはダルド相手にはそれほど気取った所がないような気がする。やはりギルマスというだけあって信頼されているのだろうか。


「まあいいじゃねえか。リィサが人と仲良くなるのは良いことだ」


 満足そうにニコニコするダルド。素敵な笑顔ではあるけれど、それだけに不釣り合いである。


「おう、キエル。俺はリィサの父親と旧友でよ。昔から仲良く遊んでたもんだったぜ。それで、お互い子供ができてからは家族ぐるみの付き合いとかしてたんだがな。俺達家族が引っ越すことになっちまって」


 ダルドは満足そうにしたついでに昔話を語り出した。何か戸中さんみたいだな。ああ、戸中さんというのは俺の家の近所のおばちゃんである。


「向こうは貴族だし、周辺の領主だからな。それに対して俺は庶民だ。よく仲良くやってたと思うよ。それで何とびっくり、ラクルの所の一人娘がこの街に旅に来たって訳だ。だから色々と面倒見ちまうってことだ。何かなあ、自分の子供みたいな感じだ」


 そう言ってリィサの頭を撫でる。


 確かに親子に見えなくもない。それに、あんなにツンデレなリィサが完全には嫌がっていない所を見ると、本当の親よりも信頼しているという可能性もある。詳細に親とは仲良くないって書いてあったし。


「それにしてもリィサの人見知りは本当に激しいからな。ギルド内でも浮いちまってる。だから余計に世話を焼きたくなるんだが、これは、もう役目は終わったかな?」


 初めて会った俺に対して気兼ねなくどんどん過去話をするダルドは、俺に尋ねるような目を向けてきた。え、何。何で俺の方見るの? 俺、別にリィサとは縁ないよ? たまたま共闘しただけだよ?


「な、何言ってるの。こいつとは一回だけ一緒に戦っただけよ」


 俺が何か言う前にリィサが反論する。さっきよりも意地になっているような顔である。


「そうなのか?」


 ダルドが俺に聞いてくる。


「まあ、そうだな。俺が誘われた」


「ほほう」


「ちょっと! そうじゃないでしょ!」


 俺は聞かれたから事実を答えただけなのだが、リィサは何か文句があるらしい。何だよ、俺が『グラゴニウス種』を倒しに行こうとしたらリィサが勝手についてきたんじゃないか。


「いやいや、俺は嘘なんかついてないぜ? 俺が出発する時に慌てて追いかけてきたのはリィサだろ?」


「べ、別に――」


「そ、そうなのか!? キエル、お前大したやつだぜ! まさかリィサが自分から人に寄っていくとは!」


 俺が事実を元にした半ば冗談のようなセリフを言うと、ダルドはそれを率直に捉えたらしく、一人で感動している。まあ、俺嘘ついてなかいからいっか。


「だからっ! そういうんじゃないって言ってるでしょ!?」


 笑うダルドに向けて、リィサが席を立ち大声で反論した。


 突然のその行為に回りの戦士達がこっちを向く。いやあ、あの、注目されるのでやめていただけませんかね、リィサさん。


「おお、何だ何だ、無気になって」


「だ、だから――」


「分かった分かった。ラクルには内緒にしてやるから」


 尚も反抗しようとするリィサを宥めるようにダルドがポンポンとリィサの頭を叩く。


 それに対してリィサは仕方ないというような顔をしてまた席に座った。


「こんな騒がしいやつで悪いな、キエル。だけどよ、悪いやつじゃないんだ。だからこれからも仲良くしてやってくれ」


「あ、ああ」


 ダルドの豪快さ故につい生返事をしてしまった。


「ところで、キエル。リィサと二人でクエストに行ったのか? お前、雰囲気からして結構強そうだが、リィサはちゃんと役に立ったか? 足手まといにならなかったか?」


「ああ、良い動きだったぞ」


 親馬鹿のように質問攻めをしてくるダルドに若干押され気味の俺である。でも、旧友の娘となれば可愛がるのも当然なのかな?


「そうかそうか、それは良かった。だが、二人で行くクエストなんてそんなに難しいものでもなかったんだろ? 腕の立ちそうなキエルには退屈だったんじゃないか?」


 加えてその人柄の良い雰囲気で色々聞いてくる。そんなにリィサのことが心配なのか。


「ん、何か俺はモンスターとか良く知らないんだけど、サーシャ何とかグラゴニウス、とかいうやつだ」


 今思えばサーシャっていう部分は何か萌えそうな気がする。


「…………は?」


 が、さっきまで元気だったダルドの巨体が急に止まった。加えて、楽しそうに酒みたいなのを飲み交わしていた戦士達やウエイトレスまで完全に動きを止めている。


 な、何だ? 今度は俺が失言したか?


 ……いや確かに『グラゴニウス種』は強敵らしいけど、そんなに珍しいものでもないんだろ? それに何故か知らないがダルドは俺のことを強者だと勘違いしている。その強者が『グラゴニウス種』を倒したって何の問題もないはずだ。


「お、おい、キエル。それは、マジか?」


「マジって、何がだ?」


「その、『サーシャドゥレス・ミス・グラゴニウス』を倒したって……」


 未だに驚いているらしいダルドは慎重に聞いてくる。


「……えっと、リィサ。あいつの名前ってそんな感じだったよな?」


 どう対応していいのか迷って、取り敢えず俺はリィサに振ることにした。


 その俺の問いかけに、リィサは遠慮気味に首肯する。


 そしてしばらくの静寂が流れた後、


「おい! リィサ! またお前危険な依頼に手を出したな!? あれ程やめろって言っただろ!」





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