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56、お礼 plus ランチ ~予め言ってくれれば良いのに~

 数少ない手がかり。それは偽勇者を名乗った男の姿が最後に確認された門が北側だということだった。


 偽勇者を名乗る男は現在追跡されている身であるから国外へ逃げる可能性も高いだろう、というようなことも聞いた。


 そこまで頭が回る人間がいたのは驚きであったが、そのおかげで一筋の希望が見える。


 完全には方向が分からなくとも、大体の方角さえあっていればそこでまた情報収集ができるのだから。


 いくら早く空を飛べても、人探しには役に立たない。


 それに疲れているせいもあってか、白邪はこの先、しばらく歩くことにしたようである。


『レモス』を出たら、その先にあるのは草原と森。


 北と言っても範囲は広い。どう行ったら良いか。


 白邪は自分の直感を信じて、前へ進んだ。





          ――――――――――★――――――――――






 黙ってリィサの後をついてきてしばらく。街に戻ってきて、街道を歩いて……はいいのだが、何か変な建物に連れ込まれてしまった。


 え、何? 俺どうなっちゃうの?


 と若干焦ったが、何も怪しいお店という訳ではない。


 外装はただの大きな家のようなものである。西洋風居酒屋と言っても良い。


 そして内部には沢山の人間。鎧を着ていたり剣を携えていたり、随分と戦士風の人間が多い。その他にもローブを着た者や、武闘家のような服を着た者もいる。


 総じて、戦闘に向かうような人間である。


 それが…………俺がリィサに連れられてやってきた瞬間、皆が黙った。


 もう、本当、沈黙。


 さっきまでガヤガヤハイテンションで飲み交わしていたくせに、俺が入った瞬間ピタリとその声が止んだ。


 おいおい、何だよこの空気。気まずい所の騒ぎじゃないぜ? (騒いでないけど)


 まるで昼休みの教室に先生が入ってきた時のような雰囲気である。


 何だろう、一見さんお断りみたいな場所なのかな。というより、この場所は店というより溜まり場と言った方が適しているように思う。街中にあったあの酒場と同じ空気がする。つまりは――ここはどこかのギルドの中か?


 見れば端の方にクエストボードらしきものもある。


 で、では何故ギルドに連れて来られちゃったんだろう。


「なあ、そろそろ何か言ってくれない?」


 リィサが最初から一切喋らないので何度かそう聞いているのだけれど、一向に喋ってくれない。


 それにしても、何かソワソワした声が聞こえるぞ。ほら、学校でよくいじめっ子がやるやつ。陰でコソコソ悪口言うやつな。ああいうの良くないと思う。まあ俺はその対象にもならないレベルで無視されていたがな。


 という訳で俺の現状をまとめると、リィサに無言で連れ込まれたギルドっぽい場所にいた戦士達に奇異の目で見られながら陰口を言われている、とこんな感じだ。


 そうだよな。やっぱりよそ者は嫌うよな。


 と、そう思っていると、小さな声でやり取りされている一部の会話が聞こえてきた。







 嘘だろ? あのお嬢様が男連れてるぜ?


 いやいや男とか言う前に人間を連れてることにびっくりだ。


 確かに、人と一緒にいる所見るの初めてじゃね?


 激しく同意!







 ……何か最後にちょっと変な奴がいた気がするが、それは置いておくとして、彼らの言葉を聞く限り奇異の目で見られているのは俺ではなくリィサの方らしい。何だ、それならいいや。


「お、お前ここのギルドのメンバーなのか?」


 現状を把握するとそういうことになる。この一匹狼のお嬢さんがまさかギルドに入っているとは。


「い、いいから取り敢えずここに座りなさい」


「ん、ああ」


 俺の質問には答えずリィサが俺に命令する。……別に俺は命令される趣味はないんだけどね。


 だけど従わない理由もないから、俺は指定されたその席に座った。木でできた椅子に、木でできた机だ。木でできているのは見れば分かるのだけれど、流石に何の木なのかということまでは分からない。俺は木の専門家じゃないんで。


 しかしその椅子は不思議と座り心地が良かった。見た目はそれ程良いものには見えないが何か秘密があるのだろうか、と気になってしまったりする。


「それで、こんな所に連れてきて何なんだ? 道中一言も喋らないし」


「な、何よ。何か文句あるの?」


 いやあ、あなたの発言の大部分に物申したいのですがね。


「俺はただ理由を聞いてるだけだ」


「理由? 理由は……その……お礼がしたかったからよ。あれを倒すのを手伝ってもらったし、あと……怪我させちゃったし。だからそのお詫びも」


 顔を斜めに背けて目線だけをこちらに向けるリィサ。な、何ですかその可愛い仕草は。


 それにしても、このツンデレお嬢様。思考はちゃんと理に適っているようだ。別に俺は手伝ったとか怪我させられたとかこれっぽちも思ってはいないが、それでも感謝されることに悪い気はしない。


「べ、別にそんなに心配はしてないんだから! でも、ほら、一応っていうか……」


 そのままの目線でリィサが続ける。更に頬を染めるものだから俺まで恥ずかしくなってしまうのですが?

 というか、お礼を言うためにわざわざ無言でこのギルドに来る意味はあったのでしょうか。ないよね。うん、ない。


 ただ、お礼を言ったり、お詫びをしたりする時にはそれなりの場所が必要だと考えるのもおかしくはない。やっぱり俺の方は微塵を気にしていないのだけれど、リィサは俺に怪我を負わせてしまったと思ったからここまで連れて来たのだろう。「ありがとう」を言うために。


 まあ、言ってもらってないけどね。


 なんかやることが中途半端な気もするが、これがリィサの限界なのだろう。リィサの性格は付き合いが殆どなくても分かる程単純だ。高慢で不器用で変に律儀。そういうキャラである。


 そしてそういうキャラの例に漏れず、リィサはどうやらこのギルド内で少々浮いてしまっているようだった。


 こういうキャラは何かきっかけさえあれば皆と仲良くできるものなんだが。


「ま、気にしなくていいよ。助けたのは俺なんだから。ここはお礼云々というより、俺にときめいておくポイントだぜ」


「ば、ばっかじゃないの!? そんなことあるわけないし!」


 今度は正面、しっかりこっちを向いて言ってくる。おいおい、予想通りの反応でびっくりだよ。


「それは冗談として。お礼って、何してくれるんだ? ここに来ても特にやることなさそうだけど」


「えっと、何かご飯奢るくらいがいいのかな、と思って……」


 再び急に素直になったリィサは控えめに言ってくる。何だ、それを最初に行ってくれ。寧ろ連れてくる前に予め言っておいてくれ。


「お、そうか。じゃあお言葉に甘えて奢ってもらおうかな」


 笑顔でそう返す。俺だってちゃんと笑顔は作れるんですよ? そんな根暗な人間じゃないんですよ?


「わ、分かったわ」


 自分で言っておいて何故か了承の言葉を口にするリィサ。まあ、本来俺は国王から貰ったマネーが沢山あるから奢ってもらう程の貧乏ではないんだが、こういうのは気持ちの問題だからさ。ありがたく受け取っておくとしよう。


「そ、それで、何が食べたいの? 早く言いなさい」


 早口で言ってくる。急かされちゃったよ。


 奢ってあげると言った後で急かしてくるのはどうなんだろう? 照れ隠し? 照れ隠しですね。


「うーん、何がいいかなぁ」


 そう、俺はこの世界の食べ物を知らない。今まで見てきた感じでいくと、俺の知っている食べ物に似た食べ物も結構あるようだが、それも名前通りとはいかないはずだ。いや、でもこの場合は俺の脳内解釈的に勝手にそれっぽい名前にしてくれたりするのか?


 よく分からない。それに、これと言って食べたいものもない。


「じゃあリィサのおすすめで」


 無難な回答としてはこんな所だろう。リィサがこのギルドのメンバーならここを使ったことだって何度もあるはずだ。さっきから忙しそうにしているウエイトレスの美少女とも同年代くらいだし。……それは関係ないか。


「私のおすすめ? べ、別にそんなのないわよ」


「ないの?」


「ないわよ!」


 怒られちゃった。


 何だよ、おすすめないのかよ。俺はこの世界の人間じゃないんだから、美味しいものとかよく分からないのに。


「そっか。じゃあリィサは何食べるんだ?」


「私? 別に何でもいいでしょ」


「そうだけど。じゃあそれと同じもので」


「何でよ?」


「何となく?」


 不満そうにするリィサ。同じものを頼まれるのがそんなにも嫌なのか。あんたは幼い兄妹か。


「………分かったわ。同じでいいのね。…………せっかく奢ってあげるんだから好きなもの頼めばいいのに」


 小声で文句を言ってからリィサがウエイトレスを呼ぶ。何かあれだな、リィサってやっぱり義理堅いな。







「おお、何だリィサ。男連れとは珍しいなあ」


 と、急に俺の知らない男がリィサに話しかけた。



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