55、レベル apropos 魂体数値 ~このツンデレさんめ~
『レモス』に着いた白邪はボロボロだった。
それでも目的を果たそうと街の人に聞いて回る。
綺慧瑠という人物を知らないか、と。
何か変わったことはなかったか、と。
そして皆揃って言うには。
変な人が偽物の勇者を語って逃亡した、と。
それは間違いなく綺慧瑠のことだ。
城で録音されたのを聞いているため、それは分かっている。
だが、どの方角へ行ったのか。
それを知る者は誰もいなかった。
せっかく『レモス』まで来たのに、ここで手がかりが尽きてしまう。
「そんなのは……駄目よ」
長時間空を飛んだことによる疲労が溜まっているようだ。
次第に歩くペースが落ちていく。
そして立ち止まった。
「私は……私はただ、毎日綺慧瑠君に会えるだけで――」
顔を歪ませ、小さく呟くその声が、誰かに届くことはない。
――――――――――★――――――――――
「――――かりしなさい! ちょっと!」
周りが緑色。
それは草の色か。
俺は草の上に転がっているのか。
だがそれにしては頭は痛くない。
「……ん……? 誰だ……?」
俺の顔を複雑そうな表情で睨んでいる少女がいた。少し泣き出しそうである。
俺、何か悪いことしたんだっけ……?
「あんた! あんな時は急に飛び出さなくていいのよ! もう少し遅かったらあんた死んでたんだから!」
八つ当たりのように少女が言う。確か、ああ、そうそう、リィサだ。
さっきまで一緒に戦ってくれていたリィサだ。
「ああ……悪かったよ……でも――」
ゆっくりと起き上る。ああ、膝枕してくれてたのね。ありがとう。
「助かったんだから文句はなしだ」
「そ、そういうことじゃないでしょ!?」
「いいんだよ別に。治癒魔法、使ってくれたんだろ? もう傷口が塞がってる。それに、俺達は勝ったんだ。もっと誇ればいい」
まだ少し頼りない声しか出ないけれど、そう、俺達は勝ったのだ。
「リィサ、魂体数値とかいうやつ、77もあるんだってな。頑張って訓練してきたんだろ? 貴族の娘なのに」
「な、何でそれを……!?」
「俺にはな、人の境遇ってやつが見えるんだ。どれくらい強くて、どれくらい弱いのかが」
「あんた、魂体数値が分かるの?」
「何だ、普通は分からないのか?」
「分からないでしょ」
「いや、俺はこの世界の人間じゃないから知らないな」
「は?」
何を言っているのか分からないといった顔である。ああ、良かった。普通の顔に戻ったな。
「まあそれはいいや。じゃあ帰るか――」
「待って」
俺がゆっくり立ち上がろうとすると、リィサの言葉が俺を止めた。
「あんたの魂体数値、いくつなの」
「え? 俺か?」
少し照れくさそうにリィサが聞いてくる。まさか、そんなことを聞かれるとは思っていなかった。
仕方ない。確認してみるか。
名前 煌々川綺慧瑠
LV 40
HP 1080/1200000
MP 高くたっていいじゃない。
ATK 90
DEF メンタルの強さによる。
MAT 今回は頑張ったから教えてやってもいいぜ。だいたい2360くらいだ。(嘘かも知れない)
MDF メンタルの強さによらない。
SPD 気づいたらいなくなってるくらい。
LUK なかなかいいのでは?
EXP 経験は徐々にあなたを良くしていきます。
特性魔法 カウンターは意識して使うと威力が上がります。
薄影 影が薄いのは相変わらず。
JOB 『偽勇者』 『実況者』 (『魔王戦』開始まであと357刻)
※ステータスは変更される可能性があります。
おっ! MATが判明したぞ!
だいたい2360か。これは……結構高いのでは? 基準はよく分からないけれど。それに嘘かも知れないけど。
「今、丁度40だな」
「よ、よんじゅう!?」
「何だ。何か文句でもあるのか」
そりゃあんたよりは低いけどさ。良いじゃん、別に。
「……魂体数値は人間の強さ、あらゆる面における人間としての存在の位なのよ? それが40って。そんなんでよく『グラゴニウス種』討伐なんかやろうと思ったわね」
リィサが呆れ気味に言う。おいおい、そこは褒める所だろ? このツンデレさんめ。
「まあ、戦う前は30だったけどな」
「尚更無謀だわ!」
リィサが大きな声を出す。
確かにいきなり強敵と戦うのはやり過ぎたかもしれないけれど、まあその辺は良いんじゃね? 勝ったんだし。
それよりも、魂体数値という概念が何なのかが気になる。
人間の存在の位、と言ったか。もう少し詳しく聞いてみよう。
「なあ、魂体数値って、普通は分からないのか?」
「あんたも知ってるでしょ。魂体数値っていうのはあくまでも概念的な話で、本来正確に数字で表せるようなものじゃないのよ。魂体数値を調べられる能力を持った人間や機械もあるけれど、それも大体の数値しか分からないわ」
なるほど。魂体数値とレベルはイコールではない、と。
魂体数値とは、いわばこの世界における魂のレベルのようなものなのかもしれない。
勿論「魂体」とあるように、そこには身体能力の高さも含まれているのだろうが、ただそれだけではないということだ。
例えば、魂体数値が高い老婆でも、戦闘能力は低い、といったケースもあり得るということである。
あらゆる「人間としての力」を考慮に入れる魂体数値は、やはりレベルと同義ではない。
ならば、あの勇者達はどうなるのだろうか。
ただ戦闘能力によってのみ、あれ程の数値を叩き出しているのだろうか。それならば彼らの戦闘能力は他の人間を遥かに上回ることになる。本当にそれ程の力を持っているのだろうか。
いやだって、人間的素質として彼らが異常に高いとは思えないでしょう。
まあそれは実際に会ってみれば分かるんだけど、それはまたの機会だな。
そんな訳で、この戦いによって、レベルが低くてもレベルの高い者を倒せるという証拠ができた。ゲーム程レベルに囚われた強さではないということである。
つまり、レベルやステータスは当てにならないということだ。いやステータスは最初から当てになってなかったけど。
「そうか。ま、取り敢えず任務達成だ。ああ、それと、俺は正式な受諾方法とか踏んでないから、リィサが手続きしておいてくれ――――えっと……それじゃあな」
言うことがなくなってしまったため、どうしようかと考えたものの、もうこれ以上リィサと一緒にいる必要はないと思い、そう別れを告げた。何かずっと機嫌悪いし、もしかしたら何か不快になるようなことをしてしまったのかもしれない。
こういう時はいなくなるのが一番だ。まだ一緒にいた時間も短いし。今なら問題なくデリートできる。
「初めての共闘――楽しかったぜ」
若干かっこつけて、歩き出した。
「ちょっ、ちょっと待ちなさい!」
「うおっ!?」
せっかくかっこつけて草原の彼方へ消えていこうと思ったのに今度は物理的に止められてしまった。
右手をがしっと掴まれてしまったのである。
リィサの細い指の感覚が伝わってきて、それ程の力でもなかったのについ変な声を出してしまう。
ちょっ、俺うぶなんで、手首掴まれただけでも緊張しちゃうんですけど。
「な、なんだ」
ぎこちなく後ろを振り返る。そこには上目遣いのリィサの顔があった。とは言っても実際上目遣いになってしまうのは、リィサが座っていて俺が立っているからなのだが。
「あんたの名前」
「え?」
「だから、あんたの名前、もう一回教えて」
相変わらずの機嫌の悪さで聞いてくる。おい、人の名前くらい憶えてくれよ。
「……俺は煌々川綺慧瑠。キエルと呼んでくれ」
「だ、誰が呼ぶって言ったのよ!」
俺の手首を乱暴に投げてリィサが言う。えぇ? じゃあ聞くなよ……
「用はそれだけか? ――じゃ、またどこかでな」
今度こそ別れの挨拶をする。せっかくなら街に帰るまで一緒に行ってもいいのだけれど、先程も言った通り、やっぱり機嫌が悪い時は一人にするのが一番である。
「ちょっと! だから待ちなさい!」
「おえっ!?」
今度は首根っこを掴まれた。
「な、何なんだ。まだ何かあるのか?」
もう勘弁してくれよ。ドラゴン倒して今俺テンション上がってるんだよ。一人になったら「ヤッホーッ! 大勝利だぜ!」とか言いそうな気分なんだよ。
「…………な、何もここで先に帰らなくてもいいじゃない……」
「え、でも――」
「いいからっ! ちょっとついて来なさい!」
「ぐえっ!?」
リィサは立ち上がると俺の首を掴んだまま歩き出した。
ちょっ、タンマ。行きますから。行きますから首を放して。




