52、ドラゴン astride ザ・グラウンド ~俺にできることは~
一緒に行くことにしたのはいいものの、歩いている最中、俺はどうしたらいいのだろうか。
ツンデレさんは何か不機嫌そうに早歩きしているし、俺も特にかける言葉も――
いや、かける言葉ならあるかもしれない。
「リィサはどんな戦い方が得意なんだ?」
腰に差しているレイピアからも先程の情報からももう分かり切っていることなのだが、話をするために聞いてみる。
「き、気安く名前で呼ばないでよ!」
「え、でもリィサさんって言いにくいし」
「じゃあ名字で呼べばいいじゃない」
「長いから面倒だな」
「か、勝手な言い訳ね」
ふん、と言った感じでリィサが顔を背ける。
「それで、リィサはどうやって戦うんだ?」
「見れば分かるでしょ。私はレイピア使いよ」
こっちには顔も向けず、リィサが答える。それは勿論、他人なのだから警戒して当たり前なのだが、もう少し友好的にしてもいいんじゃないか? まあ人付き合いが苦手って書いてあったから仕方ないけど。
「ふーん。レイピア使いなんだ。じゃあ前衛はよろしく頼む」
「あんた、私に前衛をさせて自分は後ろにいるつもり?」
非難の目を向けてくる。確かにこういう性格じゃ人は寄り付かないかもしれない。現実にこんな人間がいたら浮いてしまうだろう。(この世界でも浮いているが)
だが俺はこういう性格もありだと思う。ほら、よく言うだろ? 「強気な女は嫌いじゃないぜ」って。
「剣を使うなら前に出なきゃ攻撃できないだろ」
「私は魔法も使えるわ。それこそ、沢山」
と自慢げに言う。
「あんたはどうなのよ。武器も何も持ってないみたいだけど」
「俺は何でも屋みたいなもんだな。これをしろって言ってくれれば、それをやる」
「何を言っているのか分からないわ。少なくとも、あんた戦えるんでしょうね? この私と同じくらい」
俺があやふやに答えるとリィサは疑いの目で俺を睨んできた。
「さあね。俺はリィサの実力を知らないから、何とも言えないな」
再び曖昧に答えた。
が、ここで一つ思うことがある。
何故リィサは俺のレベルを聞いてこないのだろう。
普通強さを聞く時はレベルを聞くものだと思うのだが。
「もし使いものにならなかったら陰で隠れてみていてもらうから」
「そうですか。じゃあ、リィサが使いものにならなかったらそっちが陰で隠れて見ていてもらおうか」
「なっ、そんなことにはならないわ!」
「はいはい」
「信用してないでしょ! まあいいわ。私の力、たっぷりと見せてあげるんだから」
リィサは俺を見下すような目で見た。なるほど、確かに高飛車だ。
いやでもこういうキャラって可愛いよね。
「おい、あれ、何だ?」
リィサの方を向いて歩いていたから気づかなかったけれど、大きな岩が一つ、斜め前の丘に置かれていた。
大きいは大きいのだが、何か形がおかしいような気がする。
「あれ? あれってどれよ」
「あの岩だよ。何か随分と場違いな所にないか?」
「そう? 草原では別に珍しくもないと思うけど」
とリィサは言うが、俺は自然にその岩の方へ足を進めていた。
岩は、赤っぽい。
ごつごつしている。
尻尾がある。
…………尻尾?
「おい! あれ、ドラゴンだ!」
「え?」
そう言った瞬間、そのドラゴンは俺達の気配を察したのか、目を開いた。赤い目である。
「グラァァァ……」
岩のように見えたそれはゆっくりと形を変え、はっきりと生き物の形を取る。
四メートル程の高さである。ドラゴンというには少し小さいかもしれないが、トカゲというには明らかにでかい。
「な、なあ。一応聞いておくんだけどさ」
「な、何よ?」
「このドラゴンみたいなやつが、今回の討伐対象?」
「……そ、そうかもしれないわ……」
いやあんたも知らんのかい!
おいおい、こんなやつと戦うのか? マジかよ、確かにこれは一人じゃ無理そうだよ。
しかしリィサはそこそこの実力を持っている。これなら行けるんじゃないか?
と思いたいが流石に苦戦は覚悟した方が良いようだ。
勇者の彗星眼(偽)
生物名 サーシャドゥレス・ミス・グラゴニウス
LV 154
……最早このくらいで驚きはしない。
レベル154だろうが何だろうが俺が相手をしてやる。紙に書かれていた魂体数値約150という文字から少しは予想していた。魂体数値という言葉がもしかしたらレベルのことを指しているのではないかと。そしてそれは大当たりという訳だ。
「グラアァァァアァアッ!」
こっちの思考時間を待つことなく、眠りを妨げられたドラゴンは威嚇してきた。勿論、威嚇程度では済まない。この後に続き攻撃のオンパレードだろう。
「リィサ! あんたは自由に攻撃してくれ! 何も考えなくていい!」
「は!? 連携取るって言ったのはあんたでしょ!?」
「いいから! 何も考えずに、リィサなりの戦い方をしてくれ!」
そう言い放って、俺は最初の踏み潰しを回避した。
そう、紙に書いてあったのだ。腕で掴まれたら終わりです、と。
直後地響きが辺りを覆う。
「わ、分かったわよ!」
不満そうではあるがリィサは俺の言ったことを了承し、行動に移る。
「グラァッ! グラァアアァ!」
巨体に似合わずドラゴンはその体を存分に生かして攻撃してきた。おいおい、その速度で動かれたら回避できないぞ。
いや、焦るな、俺。考えれば何かできることがあるはずだ。
そう、まずは攻撃を躱しつつリィサの攻撃パターンを見る。敵を知るには味方から、だ。
「はぁっ!」
リィサは思った以上の速度で草原を駆け抜け、ドラゴンの物理攻撃をその身一つで躱している。
巨体故にドラゴン本体には隙が多いため、そこをしっかり狙ってレイピアの突きを繰り出している。
ただ、見ている感じでは攻撃が効いている訳ではないようだ。おそらく力が足りないのだろう。女性の腕力に加え、細いレイピアではやつの堅い鱗を貫通しないのだ。
「……炎衝波!」
斬撃によってはダメージを与えられないと判断したのか、リィサは後ろから迫る尻尾の攻撃を後転跳躍により回避し腕を振ってバランスを取ると同時に斬撃を加え、地面に足が着いた瞬間、炎の波動のようなものを繰り出した。
「グレェァアァ!」
かなりの手際だったが、ドラゴンにはあまり効いていないみたいだ。
「魔導障壁!」
攻守が逆転し、今度はドラゴンの斬撃がお見舞いされる。が、リィサはそれを躱すのではなく、何かの壁で防ぐことによって回避した。
あれは、防御魔法か。
リィサの前方に金色の膜が張られているのが見える。リィサは攻撃後の反動から躱すのは難しいと考えたのだろう。良い判断だ。
この少女、中々強い。
レベル154の巨大生物相手に、レベル77の細身の少女が互角以上に戦っている。
「はっ!」
地鳴りと同時に打ち付けられるドラゴンの尻尾を大跳躍によって回避し、
「雷神の強襲!」
今度は雷を纏って急降下。
「グラアアァッ!」
弱点であるのかは不明だが、リィサは首元付近の柔らかそうな部分を狙って攻撃を加えた。
地面に少量の血が飛び散る。
赤黒い血だ。
その血には目もくれず、リィサは再び戦闘体勢に入った。
さて。
この状況で俺ができることは何だろうか。
きっと何かあるはず。




