49、バトル as 訓練 ~中々腕がいいですな~
昨日はすっかりお遊びモードだった四人も、本来の目的を忘れてはいなかったようである。結局あのまま四人は床で寝ることになり、朝準備をする時は忙しなかったのだが、今はすっかり調子を取り戻し、こうして闘技場まで足を運んでいる訳である。闘技場の外壁は非常にしっかりしていて鋼鉄で固められている。許可がなければは入れそうもない。そして話によると、この闘技場で訓練を行えるのは『カウェルス』の特別資格を持ったものだけらしい。外壁は相当高いが、中にはいくつもの施設があって、本当にここは工業都市なのかと思ってしまう程である。近くに強力な魔物が出現する、大陸の西側ともなれば仕方ないのかもしれないが。
だがやはり昨日話をしておいたのと王の推薦状のおかげか、頼んだらすんなり入れてもらえた。
しかしどんな訓練をするかということまでは話していなかったため、それを決めるのに少し時間がかかった。
海王達は勇者であることを隠しているので、闘技場の責任者(名をクレスと言う)は海王達四人のことを王の命令で来たただの若者だと思っている。
そんな中クレスが提案したものがこの一対一の勝負だと言う訳なのだ。
これはいわば剣道の西洋版とでも言うべきものであり、木で作られた剣と本物の鎧を装備して一対一で戦う、というものだ。(盾も持っている)
この訓練特有の木の剣は当たっても大して痛くないようになっているため、(剣道で言う竹刀のようなものである)それに加えて鎧の防御力は十分であるから、比較的安全な訓練であると言える。
そして現在、屋外闘技場にて海王と西治が一対一で戦っているのであった。正にリアルチャンバラごっこである。
「中々腕がいいですな。国王陛下がお勧めになるのも分かる」
海王と西治の戦いを横の席から見て、クレスがそう感想を述べた。
「そうですよね! やっぱり海王クンと西治クンは凄いなあ」
「そうだよね~」
その隣に座る友理と綾火もクレスの意見に賛成する。
「あなた方も陛下からの推薦を賜ったということは、彼らと同じくらいにお強いのでしょう?」
クレスが丁寧な口調で二人に言葉を投げかける。年齢はクレスの方が圧倒的に上だが、何せ海王達四人は国王が直接送ってきた人間である。丁寧に扱わなければ何かあった時に大変なことになってしまうと考えての発言なのだろう。
「せい! ――海王、中々やるな!」
「いや、もう本当、ついて行くだけで精一杯だよ!」
西治の安定した剣筋に対抗しようと海王が必死にそれらをいなすのだが、そこに体格の問題が大きく立ちはだかる。
海王も決してひ弱な訳ではない。運動部らしい体つきで引き締まった筋肉を持つナイスガイだ。
けれど、西治もそれと同等以上の筋力を持つ上に身長が高い。ラグビー部ということもあり体幹がぶれない。
故に一撃一撃が正確かつ重厚なのである。
体が丈夫というのと剣を振るというのは確かに別物かもしれないけれど、この異世界に来てから自分の身体能力が大幅に向上しているのは彼ら全員が気づいている。剣道などしたことのない西治達でも、ゲームのキャラクターを動かすように体が動く。
勿論そのままとはいかないものの、現実では不可能なことができているのは紛れもない事実である。それも、彼らの高いレベルが幸いしているのかもしれない。
「やあっ!」
勝負に集中している二人はおそらく周りが見えていない。
周りは見えていないが、その代わりに相手の軌道を理解することができる。
どういう攻撃が来るのかを刹那ごとに予測しその対策を瞬時に考える。
そうやって互いの剣を読み合い、躱し、受け止め、反撃する。
「くっ!」
攻撃が命中せず、海王が焦りの声を漏らす。
海王の利点は素早い動きだ。
西治も遅い訳ではないけれどそれでも海王の方が身体的に有利だ。
二人では剛と柔の組み合わせの割合が違う。
西治は剛に七割程重点を置いた戦い方なのに対し。海王は柔に七割置いた戦い方なのである。どちらが強いとは言えないが、自分に合った戦い方をしているという点では二人ともよく戦いのというものに適応できていると言える。
が、やはり安定性という面では西治が僅かに先を行くのかもしれない。
まだまだ西治は楽しそうな顔をしているのに対し、海王は先程の言葉の通り現状で精一杯のようで、苦渋の表情を浮かべている。
「まだまだこれからだぜ! 海王!」
「……ああ! 俺は負けない!」
熱き男のバトルを繰り広げる二人。果たして何の為に戦っているのだろう。
それにきっと理由などいらない。二人は今、戦いを楽しんでいる。
「おらっ!」
「ぐっ!」
西治の強力な一撃を剣で受け切った海王は砂埃を上げながら後ろに退く。
しかし未だにその瞳には諦めの色が見られない。女子二人が見ているということもあるのだろう。そうそう降参できるはずがない。
何か、一つ。
何か一つ相手の裏を掻く攻撃が出来れば。
海王達がいくら現実より戦えるようになったとは言え、初心者は初心者である。奇策や大技を使いこなせる訳ではない。クレスが言った「腕がいい」というのはあくまでも若者としてであり、これから成長する者としてである。それに国王への気遣いも多少は入っていただろう。
有体に言ってしまえば勝負が単調なのである。
剣筋はそれこそ様々な方向から描かれているものの、その発生源が変わっていない。つまり、お互いに対峙したまま、そのポジションを変えていないということである。
最初は西治が左、海王が右。
それから戦いの中で何度かその位置は逆になったものの、対峙している、という状態から変化したことが殆どない。
後ろに回りこんだり、一歩下がったり、体勢を大きく変えたり。
宙から攻撃したり。
そう、現在の彼らの跳躍力をもってすれば相手の頭上くらいの高さまでは飛べるはずなのだ。
「何か、一つ!」
「どうした海王! もうばてたか!」
言葉と同時に追い打ちをかけてくる。
「ここだ!」
西治のストレートな斬撃に対し、海王は身を捻りながら思い切り前上方に飛んだ。
西治の頭の方へ、飛んだ。
海王がつけている鎧はスピード重視の軽装であるため西治には無理であろう動きができる。
大きく剣を振り下ろした西治の後ろには、隙ができる。
「せいっ!」
回転跳躍の途中で海王は頭上から西治の背中を蹴り飛ばした。
「ぐっ!?」
そのまま勢いで西治が地面に転がる。
「そこまで!」
華麗に着地した海王が西治に剣先を向けた所で、クレスが勝負ありの合図を叫ぶ。
「うむ。お二人ともまだお若いのに随分良い動きをされますな」
二人に近寄りながらクレスが言う。
その後に友理と綾火も続いた。
「海王、かっこよかったよ~」
「おおっ、二人ともお疲れ様!」
「いててて……いやあ、随分かっこ悪い負け方しちまったなあ」
地面に顔を伏せている西治が苦笑と共にそう言う。
「いや、西治の攻撃は正直凄かった。一撃一撃が重くて、耐えるので精一杯だったよ」
海王も苦笑を浮かべつつ今の勝負の感想を口にする。
「いえいえ、お二人とも大健闘でありました。流石、選ばれし者でありますな。前はどこかで訓練をされていたのでは?」
「……い、いえ。俺達は――」
クレスの質問にどう答えようかと、海王が言葉を詰まらせる。
ここまで戦っておいて訓練は一切受けていないというのも何である。
「俺達は地方の道場で一緒でして」
「おお、そうでありますか。お二人の剣技を見る限り、『ミーティア流』のようですが、間違いありませんかな?」
クレスは興味津々に聞いてくる。
流派などは一切知らないためどう答えたものか、と迷うところではあるものの、「流派は何ですか」と聞かれなくて助かったと思った。
「ええ、そうです。『ミーティア流』です」
不便があっては困るため、取り敢えず海王は、自分達は『ミーティア流』であるということにした。
「やはりそうでしたか!」
嬉しそうにクレスが答えた。
「そ、そうなんだよね! アタシ達、結構頑張ったんだから!」
「あ、ああ! そうだよな!」
友理と西治もそのノリに乗っかって場を乗り越えようとする。
「海王、汗だくだね~」
「ん? ああ、そうだな」
「俺もだな」
先程まで海王と西治は激しく戦っていたため、それは当然のことであろう。
「シャワー借りてきたらいいんじゃない?」
友理が提案する。
「ああ。でも、二人の戦いを見てからにするよ」
海王が爽やかに笑う。
訓練の後、女子二人に労われる。海王と西治は本当に幸せ者ですね。




