47、希望 with 焦燥 ~もう少し、もう少しで~
どこにいる。
どこだ。
どこ。
白邪は風を纏ったまま城内を歩き回った。とは言え自分の周りを守るくらいの風であるのでそこかしこに置かれている城の備品が吹き飛ぶなどということはない。
外装とは違い内部は金一色である。それが月明かりに照らされると今度は幻想的というより豪華絢爛という言葉の方が合う。しかし白邪にそんなことを気にしている暇はない。
ただひたすら城内を走り回った。
「っ!?」
突然明かりがついたため、白邪は警戒心を強めた。明かりがつくということはつけた人がいるということである。どこにそのスイッチがあるのかは分からないが、人はいるということである。
「そこまでだ! 止まりなさい!」
明かりがつくと同時にかけられたその声は鋭く、頑丈であった。有無を言わせないその言葉に白邪は一瞬はっとなった。
暗くて気づかなかったがどうやらここは少し広くなっているようだ。
広間、というやつだろう。
「落ち着きたまえ、皆の者」
金色に輝く広間の端から何やら王のような服を纏った人間が現れた。
あれが国王だ。そう白邪は確信した。
「この国の王様ね。一つ聞きたいことがあるの――」
「仮面をつけたまま、無礼であろう! 控えよ!」
「あなた達は黙っていて」
今度はこちらが有無を言わせない口調で言う。白邪は目的のためなら手段を選ばない。綺慧瑠に会うためなら手段を選ばない。
「まあ良いであろう。素顔を晒せぬと言うのなら別に良い、だが、先に一つ答えてもらおう。そなたは自分のことを勇者だと言ったそうだが、どちらの勇者だ?」
国王が落ち着いた様子で聞いてくる。
どちら、と言っても白邪は他の勇者を知らないため、つまり二種類いることを知らない。
「私は『白勇者』よ」
故にそう答えた。自分の身分を明確に伝えた。
「……やはりそうであったか……そなたはクラソルテ王国からやってきたのだな?」
「質問は一つと言ったでしょう。私の質問が先。この国から逃げ出した人物について教えて。見つかったの? 今どこにいるの? 名前は?」
一度に白邪が質問するので国王が困り果てる。
「……そなたら、城の警護、ご苦労。もう下がってよい」
「はっ!」
答える前に国王は部下達を返した。それはおそらく、この後の話を聞かれるとまずいからである。
そしてそれとほぼ同時に、奥から数人が現れる。
「国王陛下! どうされましたか!? こんな時間に――」
「少し静かにするのだゴートン」
「はっ」
ゴートンと呼ばれた中年を黙らせてから国王が白邪の方に向き直る。
「現在捜索中だ。まだ居場所は分かっていない」
「その人の名前は?」
「……………」
「言わないつもり? ……じゃあ聞き方を変えるわ。煌々川綺慧瑠に関して知っていることを教えて」
「っ!?」
「な、何故その名前を!?」
国王が驚くと同時にゴートンら部下までも驚愕の声を上げた。
「やっぱり、綺慧瑠君だったんだ…………場所を教えなさい! 今すぐ!」
「だ、だからまだ分かっておらんのだ――」
「そんなことはどうでもいいの! 知っていることだけでも教えなさい! さもないと――」
白邪が纏う風が強くなっていく。壁にかけられた絵画や配置された椅子、机がガタガタと音を立てる。
「な、何を……!?」
「早く答えないとこの城ごと吹き飛ばすわよ」
「わ、分かった! 確かに我らが逃したのはキララガワキエルという人物だ。それは間違いない!」
白邪の気迫に押されて国王が事実を暴露する。
「だが、そなたはキエル殿の知り合いか?」
「そうよ。多分一緒にこの世界にやってきた。でも見つからないの! だから知っていることは全て教えなさい!」
「あ、ああ、分かった。我らがキエル殿を召喚したのは――」
白邪を落ち着かせる意味を込めて。国王は『魔王戦』の話から始めた。白邪がクラソルテ王国に召喚された勇者ならば本来このような説明は不要なのだが、この場合は白邪にとって現状を把握する良い機会となった。
煌々川綺慧瑠は『黒勇者』として召喚されたということ。二大王国が競いあって『魔王』を倒すということ。
『黒』と『白』は敵だということ。
白邪にとって必要な情報はそれくらいだった。
「――故に、『白勇者』よ。我らが『黒勇者』を召喚したのだからそなたはクラソルテ王国に召喚されたのだろう?」
「いえ、私はどこかも分からない森で目覚めたわ。その王国から来たのは合っているけれど」
「何?」
「だから、今日空を飛んでここまで来たのよ。せっかく来たのだから、情報の一つや二つ、手に入れないと困るの」
「な、何を言って――」
「いいから早く教えなさい!」
「陛下! 大変です! 大変であります!」
白邪が催促すると同時に後ろの方からひ弱そうな男が一人走ってきた。
「何事だ! こんな大事な時に!」
「それが! 辺境の地『レモス』からこんなものが!」
大慌ての召使いは国王に直接それを渡した。
「何だこれは……? ん? 記録用魔術石だな……」
国王が何やら訳の分からない単語を並べる。
「取り敢えず再生してみるか」
「だから早く答えなさ――」
白邪は自分が無視されていることに気づきもう一度催促しようとしたが、その声は別の声によって遮られる。
――――達は、国王から聞いていないのだろう? その男が何者なのかを!
『魔王戦』! この世界では千年に一度『魔王』が現れると言う! 誰でも聞く話だそうじゃ
ないか! そして『黒勇者』と『白勇者』を召喚し、『魔王』を倒す、と! ははははは! 実
に愉快な話である! そう! 君達の仰ぐ主君、レノクターン王国国王、サルバトル=レノク
ターンはその『魔王戦』の為に勇者を召喚したのだ!
信じられないだろう! だが後で聞いてみるがいい! これは事実である! そして召喚さ
れたその男が、あろうことか国王の元から逃げ出した!
何故逃げ出したのか! 気になるだろう! そうだろう! ならば教えてやろう! その男
が『偽物』だったからだ! とんでもない、偽物だったのだ!
気づいたか! そうか、気づいたか! そう! 君達の探している、その黒と金の服を纏っ
た男、つまり私こそが! 勇者を語り国王を騙した『偽勇者』である!
さあ! 捉えるのであれば捉えるがいい! 無論、君達の実力で私が止められるのならな!
ふふふふふ、ふはははは! は――――
「な、何だこれは!?」
「綺慧瑠君!」
録音されていたものから聞こえてきたのは煌々川綺慧瑠の声だった。
「ゆ、勇者殿が!? 偽物!? いやそんなはずはない! 我らは確かに召喚したはず! ……馬鹿な、それが偽物だと!?」
「どういうこと!? ちゃんと私に説明しなさい!」
「ええい、今はそれどころではないのだ! 早く事実を確認しなくては――」
ついに痺れを切らした白邪は国王の元にバタフライナイフを突き出した。
「き、貴様っ!」
部下達が揃って言う。しかし勿論手出しはできない、そんなことをしても勝てる訳がないと分かっているからだ。
「これが録音された街はどこ!?」
「お、落ち着くのだ!」
「いいから答えなさい!」
「わ、分かった! 分かった! 『レモス』は我がレノクターン王国の北の端に位置する小さな町だ! 『ノースの森』という森を超えた所にある!」
「……分かったわ」
もう聞くことはないと言うように白邪は王から離れると、そのまま全速力で城を抜け出した。
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「な、何だったのだ……? 訳が分からぬ……」
「陛下! ご無事ですか!?」
嵐が過ぎ去った後、王都内部は真夜中と共にただならぬ空気に満ちていた。




