46、白邪 into ザ・キャッスル ~そこを通してほしいだけなのよ~
「何者だ! ここはレノクターン城である! 許可なく立ち入ることは許されぬ!」
空を飛ぶことを試してみた白邪は相当高速で移動できるということを知った。何せ今日の昼はクラソルテ王国にいたのだから。一日で大陸を縦断できるような力が自分にはあるのだと、白邪は改めて自信を持った。
そしてようやく辿り着いたこの国の城。目の前には巨大な門。
表門とも言えるその門は漆塗りのような光沢を放っており、それが月明かりに照らされて幻想的な雰囲気を醸し出している。それが門番の無骨な怒声によって台無しだ。
城の外観も銀と黒をメインにした配色で月との相性が抜群であるのに、こんな夜遅くに怒鳴るなど、みっともない。
白邪はそう思った。
城に人が侵入しないように門番がいるのだから、彼の行動のどこにも責めるべき所はないのだけれど。
「私は『白勇者』。王に会いたい。そこを通してくれるかしら」
白邪の目には焦りが浮かんでいた。
すぐそこに手がかりがるかもしれないのだ。本当はこんな門を蹴り飛ばして王を訊問したいくらいなのである。
「な、何?」
下っ端の門兵如きに国の最高機密である『勇者』のことを教えているはずもない。門兵二人はきっと伝説上の人物に憧れたお調子者が来たとでも思っているのだろう。
しかし仮面を被っているためその正体が分からない。
「もう一度尋ねる。貴様は何者だ! 仮面を外せ!」
「そんな命令ばかりしないでくれるかしら。私はそこを通して欲しいだけなのよ」
門番の問いには答えずに、白邪が少しずつ前へ歩く。
「……貴様を拘束する!」
言っても無駄だと悟ったのか、門番二人は持っている槍を白邪に向けてきた。その槍は長く、黒く、重そうである。ただの門番ではあるが、仮にも城の門を守る者達である。雑魚という訳でもあるまい。
しかし雑魚でなくとも、『勇者』にはそうそう勝てるものではない。
「退く気がないのなら、いいわ。無理矢理にでも退いてもらうから」
不満を募らせた白邪は左手を前に突き出す。その手は細く、到底槍に敵いそうもない。
しかし物事は全て見た目で判断してはいけない。門番は白邪が何も持っていないという点において油断したのである。
「空球衝!」
仮面の下の澄んだ声からそう発せられると、門番二人が横に吹っ飛んだ。
目で確認するのも難しい程の速度で飛ばされた。
「ぐっ!」
門番二人は遠くの地面でぐったりと倒れている。勿論、白邪に門番を殺す気などない。非常に手加減してやったつもりだ。ただ、焦っていたので少々力が籠ってしまったようだが。
右と左に転がる門番を一目見た後、白邪は目の前に聳えたつ漆黒の門に手を当てた。
そして、そのまま押す。
特に魔法を使う訳でもない。ただ押したのだ。すると門が開いた。
何の変哲もない行動である。
しかし開いた門はとても小さかった。人一人分程、普通のドアと同じくらいの大きさである。どうやらこの門は二重構造になっているらしい。
が、実際そんなことはどうでもいい。白邪にとっては中に入れればそれでいいのだから。
「……」
だが門の先にあるのは中庭だった。それもそうである。今通ったのは最も外側にある門なのだから、その先がすぐ建物内部とはいかないのである。
そしてさらに、急に辺りが赤くなった。
血に染まったとかそんな物騒な話ではないが、それでも視界に映るものが赤く見えたのは確かである。
そう、この城の内部には結界が張られていたのだ。優秀な領域干渉術師を雇い、城の警備に当たらせていたのだろう。
その赤い光と共に、不協和音に聞こえる音が鳴り響く、どうやらこれが警報的なもののようだ。
「な、何者だ! そこで止まりなさい!」
音が鳴ってすぐ、左と右の端にある小さな建物から複数の兵士が出てきた。警備兵である。その数、両方合わせて二十人程。
この程度、白邪の敵ではない。
しかし今ここで白邪を煩わせているのは敵の強さではなく、辿り着くまでの時間の長さなのである。今ここでこの兵士達を一瞬で倒したとしても城内に入る頃には他の兵士達もそろい踏みになってしまう。そもそも城の内部には入れないように施錠がいくつもされていることだろう。
空絶で一気に突き破って窓なり壁なりを壊して内部に侵入しても良いのだけれど、それだと相手に与える印象が悪くなってしまう。白邪はあくまでも情報収集に来たのだから印象はなるべく良くしなくてはならない。夜な夜な侵入している時点で駄目だとは思うが。
「本当、面倒だわ……」
いっそ城ごと吹っ飛ばしてしまおうかしら。
そんな言葉が頭をよぎった。確かに、白邪の力をもってすればできないことはないだろう。しかしながら、いくら綺慧瑠の情報を得たいからと言ってそこまでする必要があるのだろうか。いや、彼女はあると思っているからそう考えたのだろうけれど。
それでもそれはそれで面倒なことになると考えたのか、白邪は城ごと破壊するという暴挙には出なかった。
だが今自分を囲んでいる敵は、盛大に吹っ飛ばすとしようか。
「竜風螺旋」
「かかれ!」
兵士達と白邪の声は丁度同じくらいのタイミングで発せられた。が、タイミングなどは関係なく白邪の魔法に勝つことはできない。
白邪が技名を唱えた途端、彼女の周りに暴風が吹き荒れた。白邪を中心として渦巻くその風は台風の様にも竜巻の様にも見える。
「うわあっ!」
突撃してきた兵士達はその風圧に押され次々と弾き飛ばされていく。何人たりとも近寄ることはできない。
「邪魔だから退いて頂戴」
直接触れる訳でもなく、白邪はただ前に歩く。
歩くだけで暴風を引き起こす白邪はそのまま城内へと向かって行った。
――――――――――★――――――――――
「な、何事だ!?」
部下によって睡眠状態から覚醒したレノクターン王国国王サルバトル=レノクターンは起きて早々に暴れ出した。
「へ、陛下! どうか落ち着き下さい! 侵入者です!」
「侵入者だと!? まだ勇者殿も見つかっていないというのに……辺境からの報告はまだなのか!」
「はっ、辺境から中央への通信網はありませんので――」
「そんなことは分かっておる!」
現在の侵入者よりもキエルの行方を気にするサルバトルは急いで王の格好に着替えた。
「侵入者は我々が拘束いたしますので、陛下はどうぞ安全な所へ!」
「その前に聞くことがある。その侵入者の目的は何だ? 何を目的としている?」
「そ、それが、国王に会いたい、と申しているようでして……」
「何!? それは真か!」
サルバトルはそう言うとある可能性について考える。
「もしかするとその者、我らが巻き添えで召喚してしまった者ではあるまいな……いやしかしそのような者にここを突破する力があるとは思えぬ……」
「……陛下……?」
この召使いは召喚のことを聞かされていないらしく、国王の呟きが理解できないようだ。
「他に報告すべきことはあるか?」
国王が腰を低くしている召使いに尋ねる。
「あ、あとは、どうやらその者は自分のことを勇者だと言い張っているようでして……」
「な、勇者だと!? これは大変だ! 急いで大広間に来るように王室部に伝えよ!」
「は、はっ!」
サルバトルは急いで広間へ向かった。あらゆる可能性を考慮しながら。
「…………馬鹿な、勇者だと? キエル殿が『黒勇者』であるのだからその勇者を名乗る人物は恐らく『白勇者』だ……ならば何故ここにいる? 『白勇者』はクラソルテ王国が召喚したはずであろう……? どういうことなのだ……ただ、我に会いたいと言っているということは少なくともクラソルテ王国から殺害を頼まれた訳でもあるまい……それに『魔王戦』はまだ始まっておらんのだ……訳が分からぬ……ともかく、一度話してみないことには……」
考えの纏まらない王である。




