4、勇者白邪 ~途方に暮れる? 女子高生~
森。
深い森である。
いや、彼女自身、この森が深いのかどうかは分かっていないのだが、辺りを見回す限り緑色と茶色といった自然の色しか見られないのでそういう印象を受けたのだ。
彼女、明日木白邪はその透き通った肌を土に着けてぐったりと倒れていた。
無論、手にはナイフが握られている。
「ん……?」
目を擦り、ボーっとしている頭を起こそうとする。が、今どこにいるのかも、何故ここにいるのかも、何もかも分からない。
「……んん?」
先程の狂気はどこへ行ったのか、明日木白邪はか弱い女の子の様な可愛い仕草でキョロキョロしている。
そして自分の手にナイフが握られていることに気づいた。
「ああ、そう言えば」
どうやら自分が教室でナイフを振り回そうとしていたことを思い出したようである。
明日木白邪はしばらく自分の手に握られたナイフを見つめた。
「ふふ……」
不気味に笑う。
それはもう、不気味に笑う。
美貌であるが故に、その笑みは実に不気味だ。
他の言葉で表しようがない。
不敵な笑み? 恐怖を呼び起こす笑み? 背筋がぞっとする笑み?
いや、違う。
どう考えても彼女の笑みはただの不気味そのものであった。
「……」
とそんな風に不気味に笑ってみたはいいものの、それで今自分がここにいる理由を示すことにはならない。
先程まで教室にいたことを思い出したからこそ、今このような深い森の中にいることがより不可解になるのである。
「私は……そう……あの時のことを……」
何やら意味深なことを吐きながらゆっくりと立ち上がる白邪。まだ現状を理解した訳ではないだろう彼女は、しかしながら何かの目的を持っているようだった。
「ここは……どこ?」
やっとそんな単純な言葉が出るようになった白邪は適当な方角に歩み始めた。
先程は不気味と表現したものの、今の白邪はただの一人の女の子である。
それもそのはず、目覚めたら突如知らない森の中に一人取り残されていたら誰でも不安になる。それが少女ともなれば、本来ならば泣き出してしまうか、動けなくなってしまうかするだろうに。
しかし白邪はその不安の波に流されず、歩き出したのだった。
顔が不気味に歪んだり不安に駆られた表情をしたり、精神は到底まともとは言えない。そんな人間だからこそナイフを振り回すような真似をしたのだと思うが。
「……ん?」
少し歩いた所で、白邪は自分の周りに何か白い光が漂っていることに気づく。
「何かしら」
立ち止まって凝視する。
名前 明日木白邪
LV 768
HP 190000/190000
MP 390000/390000
ATK 140000
DEF 143000
MAT 340000
MDF 200000
SPD 280000
LUK S
EXP UNKNOWN
特性魔法 ロストカオスフィア 被害時、ランダムで攻撃無効、攻撃反射、攻撃吸収(攻撃増加、守備増加、魔法攻撃増加、魔法防御増加、スピード増加)攻撃屈折、その他。加害時、ランダムで能力増加、敵能力低下、敵状態異常、その他。その他行動時、ランダムで追加補正。
ロストコスモスフィア 状態異常無効、能力低下無効、優位補正強化、弱点補正無効、強運、HP自動回復、MP自動回復、加速、対敵攻撃全種優位補正強化、対敵攻撃全種減少補正無効、起死回生、体力減少同期、魔力減少同期
JOB 白勇者
「……何かしら」
先程と同じ言葉を繰り返した。
白邪は目の前に現れた光の羅列が意味することを理解できなかった。
ただ数字と英語が並んでいるだけで、それが何なのか、全く分からなかった。
「名前……」
白邪はステータスの欄を見ながらそう呟いた。
「私は……白邪なんかじゃ……」
言いかけて口を閉じる。
「まあ、いいわ」
その光を纏いながら、白邪は少し汚れてしまった制服を正し、再び足を前へ進めた。
「ここがどこなのかはよく分からないけれど……早く会いたい」
少しずつ、彼女に活力が戻る。
「待っていて、綺慧瑠君」