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39、提案 pro 空腹 ~俺、疲れてるんだけど~

 土地そのものが枯れている。


 紫色、茶褐色、灰色、黒。


 見る限り、精力の籠った色はどこにも見られない。


 ここは、魔界。


 魔を帯びし者達の住む、異色の世界である。


 が、異色の世界とは言っても、その大地は綺慧瑠達の踏んでいるものと同じ世界にある。


 南の端の方。綺慧瑠達とは別の大陸は、魔界と呼ばれていた。


 誰に呼ばれていたかと言えば、それは魔界に住む者達に、である。


 この魔界は、一般には知られていない。


 綺慧瑠達の大陸、『セヴエルス大陸』にも魔族はいるが、それはほんの一部分であり、力も弱い。


 しかし魔族の本当の居住地は、この魔界なのである。


 では何故大きな大陸なのにも関わらず魔界は他の大陸から知られていないのだろうか。


 それは、それこそが魔族の生きる道だからである。


 魔族は光を嫌う。それは魔族の本能と言ってもよい。そういう意味では『セヴエルス大陸』の魔族は真の魔族とは言えない。


 本当の魔族とは、光を嫌い、闇を好み、快楽を好む。


 故に、古の魔族の王はその大陸に闇の層を作った。


 常に薄暗く、漆黒が漂う大陸を作ったのである。


 その場所は結界で閉ざされており、外部から入ることも、中から出ることもできない。


 だから隠されてきたのだ。


 しかし、千年に一度だけその結界が解かれることがある。


 そう、『魔王戦』の時だ。


「ふふふふ……浮かれている人間どもよ、そしてあらゆる種族どもよ。そうしていられるのも今のうちだ……」


 どこかの巨大な建物の中、その廊下を歩きながら、一人の魔族の男がそう呟いた。


 その男の身長はニメートル程あり、肌は黒く、赤い服を纏っている。


 肌が黒いというのは、人間的に黒いということではない。


 本当の意味での黒である。


「偽りの歴史に踊らされた千年……何と愚かな種族か………そしてそれは繰り返される……愚という存在は朽ちることがない、ということだ……ふふふふふ……」


 双眸は赤く、滾っていた。







『魔王戦』開始まで、あと356日→355日









          ――――――――――★――――――――――









 街。街? そうです、街です。


 ですが、街の場合は何度現れてもいいのです。


 ……そう、街というのは交流の場であり休憩の場である。森とは違って危険も少ない。故に街ならば大歓迎だ。


 そんな訳でルテティアの兄を見事に巻いて、ルテティアとの旅を決意した俺一行は街に辿り着いたのだった。


 ミネル達と訪れた街よりも大きいようだ。その証拠に、大きな建物があちこちに建っているし、反対側は全然見えない。流石に城下町には及ばないが、それでも都市と表現してよい程の大きさはあると思われる。

 今まで訪ねたのは、城下町『ムーンセティア』、小さな町『レモス』、そしてこの街『カルカディオス』である。その中ではこの街の雰囲気が一番良いと思う。


 城下町は大き過ぎる上に城の近くで何だか落ち着かないし、『レモス』はお洒落ではあったものの少々小さい。それらに比べこの『カルカディオス』はそれなりの大きさを誇り、街中も活気に満ち溢れ、豪華な建物も並んでいる。それに国の端の方である為上からの息もあまりかからなそうだ。少なくともそういう雰囲気はない。


 見慣れない建物も多くあるし、しばらくはここで休んで行こうかと思ったりもしてしまう。ほら、国王からもらった資金はまだあることだし。


 本来はいち早く国を出るべきなのだろうけれど、あの猿のことだから多分国を出ても探してくると思うんだよね。しかもここは中心から離れているから追手も早々には来ないだろう。ならば数日くらいいてもいいじゃない。


「おおっ! 街ですよ! 大きい街ですよ! 面白そうな所が沢山ありますね!」


 ルテティアは少々興奮気味である。


「そうだな」


 が、俺としては結構疲れ気味なので、宿にでも入ってゴロゴロしたかったりする。


「ねえキエルさん! 色々遊んで回りましょうよ! ちょっとくらい良いでしょ? 良いじゃないですか!」


 まだ何も言っていないのに間髪入れずにルテティアが頼んでくる、ちょっとくらい休ませてくれよ。わしはあんたの兄さんと戦った上にここまで歩いてきて超絶疲労中なんじゃよ。


「ええー、俺疲れたわー」


「ええ!? そんなこと言ってないで、行きましょーよ! きっと楽しいものとか一杯ありますよ?」


「いや、でも今眠いんだよね」


「じゃあ私がその眠気を覚ましてあげます! どこですか、どこがいいですか? 思い切り叩いて差し上げますよ?」


「どんな覚まし方だよ!」


「あ、覚めました? よかったよかった。はい、ではレッツゴー!」


 一歩も譲らないルテティア。精神年齢はどれくらいなのだろう。彗星眼で見られないかな。


 まあ、でも、十四歳と言ったらこれくらいかもしれない。活発な子ならこれほど明るくてもおかしくはないし(ちょっとアホだが)不思議と元気を貰える気もするし(やっぱりそこそこアホだが)きっとそういう才能というか性質というものを始めから持っていたのだろう。(結局は大分アホなのだが)


 そんなルテティアの言葉を聞いていると、自然に力が戻ってくるような気がした。


 これが癒しの効果というやつなのだろうか。いやでもルテティアはどう見ても癒し系美少女ではないのだけれど。ああ、そうか、美少女だけで十分癒されるのか。いやあ、俺って単純。


「……ああ、分かったよ。ちょっとだけな」


「やったぁー! 初め、どこ行きます?」


「うーん、そうだな。面白そうな街とは言っても、何もエンターテインメントの街というんじゃないんだろうから、そんなに沢山遊べそうなものがあるとは思えないんだがな」


 快活な雰囲気が漂う街ではあるものの、遊ぼうと言われると何で遊んだらいいのか困ってしまう。


「そうですね……何かあそこに劇場みたいなのがありますよ? 誰かが演技するのではないでしょうか」


「なるほど。じゃあ俺はその劇場内で寝ればいいんだな」


「そ、そんなの勿体ないです!」


 ルテティアが頬を膨らませて言う。


 ……っていうかこっちの世界にも劇場とかあるんだな。勿論映画館のようなものではなくて、そう、例えるならばディズニーランドのシアターみたいな感じである。あくまでも外見だけだが。


「向こうの市場は何か色々面白そうなものが売ってますよ? 服とかおもちゃとか食べ物とか」


 ルテティアが東の大通りを指す。そちらを向くと、確かに出店のようなものがいくつも路上に出ている。何かのバーゲンのような雰囲気があるけれど、こういう光景はおそらくこの世界ではありふれたものなのだろう。


 しかしその大通りで開かれている市場のようなものの規模は中々にでかい。ルテティアが関心を持っている辺り、ここまで大きいものは珍しいのかもしれない。とは言っても、ルテティアは他の街に殆ど行ったことはないのだろうけれど。


「行ってみたいのか?」


「そうですねー。興味はあります。はい」


「じゃあ行くか」


 俺はパッと見た感じ特に目を引くものが感じられなかったため、ルテティアの案に賛成することにした。それにしても、「行ってみたいか」と聞くとやけに謙虚に答えるやつだな。普通に「早く行きましょー!」とか言って俺を引っ張って行くくらいでも構わないんだが。


 そんなルテティアの謎の遠慮を気にしながらも俺が歩き始めようとすると、ふと聞き慣れた音が聞こえた。


 異世界に来たばかりの俺が聞き慣れているということは、つまり人間共通の音ということである。勿論、鳥の鳴き声とかも聞き慣れているかもしれないけれど、そういうことではなく、人間の生理現象に関わることだ。


 そのまま言うと、お腹が鳴ったということである。


 そう、お腹が減ったのだ。だって今まで色々あってまともに食事してないから。


 ただ、今鳴ったのは俺のお腹ではない。確かに減ってはいるが、俺ではない。


「…………先にどっかで食べるか?」


「……えっと、はい」


 少し俯きながらルテティアが言う。あれ? こういうの恥ずかしがるタイプなんだ。






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