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38、旅人 than 兄 ~そんなに懐かれても対応に困るのだが~

 明日木白邪は城下町にいた。クラソルテ王国城下町『ソルライラ』。つい先日まで海王達がいた場所である。


 こんなにも短い期間でどうしてここまで辿り着けたのかと言えばそれは勿論、白邪の不屈の精神と「空絶」のお陰である。まさか自分の考え出した技が使え、これほどまでに役立つとは思っていなかった白邪は恥ずかしさを抱きながらも喜びを感じていた。


 この力があれば、生きていける、と。


 そう思った。


 降り立った頃は本当にどうすればいいのか分からずに非常に不安定な心境に陥ったものだったが、どうやら自分のステータスはそこそこ高いらしいと気づいてから、(本当はそこそこというレベルではない)また自分の考えた技が使えることを知ってから、白邪はこの世界で生きていくことを決めたのだった。


 それに彼女には未だ達成できていない目標がある。


 それは、煌々川綺慧瑠に会うこと。


「好きよ、綺慧瑠君……」


 愛しい人に、会うこと。


 騒がしい街の中で白邪は一人、落ち着いていた。


 この世界の食事は口に合うし、人々も友好的だ。人付き合いの上手くない白邪にとっては良いとも悪いとも取れるが少なくとも不快な思いはしていなかった。


「これ、下さい」


 白邪はリンゴのようなものを指して言う。


「はいよ。お嬢ちゃん、随分綺麗な服着てるね。それに、その仮面も似合ってるねぇ。どこかのサーカスかな。よし、おまけでこれもあげよう」


 リンゴと一緒に小さい果物をもらった白邪はありがとうと言ってまた歩きだした。


 そう、明日木白邪に不可能はない。


 想像力は無限大。


 何でもできる。


 それこそ、街でリンゴを買うことも、おまけをもらうことも。


 勇者を倒すことも、魔王を倒すことも。


 世界を滅ぼすことも、征服することも。


「だから――」


 きっと綺慧瑠君に会うことも、できる。


 青い髪飾りに触れながら、そう確信した。





 明日木白邪 『白勇者』ランク5






          ――――――――――★――――――――――






「ちょっと見なおしましたよ、変態なキエルさん」


 物凄く明るい笑顔をしたルテティア。が、言っていることはどっちとも取れるものである。


「ああ……悪かったな、ちょっとやり過ぎたよ」


 もしかしたら怒っているのかなと思って一応誤っておいた。


 何せ俺は出会って早々ルテティアを担ぎ上げ、お姫様だっこをし、兄を騙し打ちし、その上逃げたのだから。


「いえいえ! 全然、キエルさんは全く悪くないです! 寧ろ助かりました! キエルさんが変態でよかったです!」


「え、なにそれ……?」


「いやあ、まさかあんなにキャラが変わるとは思いませんでしたよ。何ですかあれ、ちょっとカッコよかったです。私あっちのキエルさんの方がタイプです。何かですね、ほら、私攫われてるお姫様みたいだったじゃないですか。それを仲間が助けに来て、負けて、攫われちゃう、的な。いやあ、素晴らしいですキエルさん。本当に見直しました。最初の印象はただの旅人さんでしたけど今はそうですね……勇者様って感じです!」


 再びニッコリ笑う。因みにまだお姫様だっこしたままである。


「勇者? おいおいやめてくれ。俺はそんな大層な人間じゃない」


「そんなことないです。本当にカッコよかったですよ? まさか私のお兄ちゃんを相手にして勝つなんて。それになんか凄い魔法も使ってたじゃないですか。透明になったり急に何かが出てきたり。それにあの卑怯な感じもいいです。いやあ、ザマアミロですよお兄ちゃんのやつ」


 上機嫌でルテティアが言う。どうやら彼女の感性は少しずれているようだ。俺の騙し打ちがかっこいいなんて。


「あれ、兄と仲悪いのか」


「いえ、別に仲が悪いという訳ではないんですけど、お兄ちゃんはいつも私を小っちゃい子のように扱うのです。そりゃ私は未熟ものかもしれませんけど、もうそろそろ立派に一人立ちできるようになるんですよ? それをいつまでもガキのように扱うものですから!」


 いや、もうあんた旅立ってるじゃん。


「それに、お兄ちゃんは外見いいですし色々できますからこれがモテるんですよ。里の女の子みんなからすり寄られて、その他年齢性別問わず優しく接するものですから、すっかり人気者で。まったく、ほんと駄目な兄ですね」


 今の話を聞いている限りとても素晴らしいお兄さんのようですが?


「とにかく! 気に入らないです! ですのでキエルさんが倒してくれた時はほんとスカッとしました。まさかただの旅人さんがお兄ちゃんを倒すなんて、ってビックリしました」


 両手を俺の背中に回したままルテティアが興奮気味に言う。


 あれ? 俺今抱かれてる? いやだっこしてるのは俺の方だけど、抱きしめられてる? 


 ……俺史上、家族以外の女性に抱かれる、二回目。


「ルテティアは家族に対する……その、情とかないのか。気に食わない奴でもお兄さんなんだろ? 初めて会った人間である俺の方をそんなに持ち上げるなんて」


「いえ、私達有翼人は地縁的結合重視ですので」


 あ、そうだった。


「やっぱりキエルさんは信用できる人でした! もう一生ついて行きます!」


「それは言い過ぎだろ」


「じゃあ結婚して下さい?」


「ストレートに言えば良いってもんじゃないぞ!? ……さっきも言っただろ、人をあんまり信用するもんじゃないって」


「いやいやでもキエルさんは信用できます。こう見えて私、人を見る目はあるんですよ?」


 きらきら目を輝かせながら言う。全然無さそうだな。


「……まあ、それはともかく、ルテティアは本当に良いんだな? その、家族と別れて俺と旅をするってことで」


 恥ずかしさを紛らわせる為に、もう一度確認しておく。


 いくら地縁的結合を重視するとは言っても、やはり家族は家族。離れるのはつらいはずだ。と言うかそもそも地縁的という中には家族も含まれるはずだ。


 旅立ってみたい年頃とは言え、少し経てばもしかすると家族や仲間が恋しくなるかもしれない。かくいう俺だって、今家族や近所の人に会えないのは寂しいのだ。ルテティアも同じ様になるのではないだろうか。


 俺としては仲間ができることは大歓迎なのだけれど、それでもルテティアのことを考えると連れて行くのが必ずしも良い選択だとは言えない。勝手に攫っておいて今更だが。



「はい! 大いに大歓迎です!」


「もし家族とか仲間が恋しくなっても帰れないんだぞ?」


「そんな時はキエルさんに慰めてもらうので大丈夫です!」


「人任せ前提かよ!」


 やっぱり全然頼りにならない子だった。


 しかしながら、これからを物凄く楽しみにしているようなその表情を見ると、どうしても一緒にいてやりたくなってしまう。こ、これが人を引きつける「魅力」というものか。俺にはない力だな。


「ふむ……なら、いいだろう! 一緒に旅立とうではないか!」


「おおっ!」


 超ノリノリのアホの子、ルテティア・ルトゥム・マッドエストアークが正式に仲間になった。





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