37、百合 on 百合 ~リア充どもはどこまでもリア充なのか~
「よし、荷物はこんな感じかな」
海王達が来たのは街でもそれなりの大きさを誇る宿屋。国から大量の資金を渡されていた為なるべくいい宿屋にしようということになったのである。それに王の家臣達も「遠慮はなさらずに」と言っていた為、海王達はその言葉に甘えてこうして闘技場に近く大きな宿屋を借りることにしたようだ。
「おっしゃ! じゃあ早速遊びに行こうぜ! 泊まるとこも豪華だし街はすげえし、やっぱ勇者って最高だな!」
ここは男子二人の借りた部屋なので、海王と西治二人しかいない。
「なあ、西治。でもさ……俺達ってもう、勇者じゃないんだよな」
その言葉には暗い響きが籠っていた。最初の時程でないとは言え、やはりまだ気になっているようだった。
「勇者の称号は何かどっか行っちまったけど、実力伴ってりゃ文句ねえだろ! 大丈夫だ! 今はそんなことより観光楽しもうぜ!」
「……ああ! そうだな!」
「綾火チャン、準備できた?」
荷物を一通り部屋においてから、友理が綾火に聞いた。と言っても同じ部屋なので綾火がもう既に準備が完了しているということは分かっている。
「うん、大丈夫だよ~」
そう返事をする。
準備とは無論、お風呂に入る準備である。
ここの浴場は広いらしいので、友理達のテンションはかなり上がっていた。
それにこんな特殊な状況である。ただの旅行とは比べものにならないほどの高揚感を抱いているのは明らかだった。
「ふっふっふ。綾火チャン、せっかくの機会なんだし、色々と聞かせていただきましょうか」
「え?」
友理が目を光らせる。どうやらお決まりネタが始まるようだ。
「とぼけたって無駄だよーん。さてさて、お風呂の中でたっぷりと聞かせてもらおうじゃありませんか。海王クンへの愛の告白を!」
「ええ!?」
いきなりぶっとんだように言う綾火。これまでの行動で分かる通り、綾火は最近の女子高生のようなあざとさや策略を持っていない。ただ単に、海王にべたべたしているだけである。いわゆる天然というやつだ。その姿を回りの人間はあざといというのかもしれないが、綾火にそのような気はない。至って純粋な女子なのである。
故に急にこのようなことを言われると物凄く驚いてしまう。
「さあ行こうか!」
友理はノリノリで綾火を引っ張る。
「ちょっ、ちょっと~」
「良いではないか、良いではないか」
問答無用で、引っ張っていく。
「海王! 今度はこっち行こうぜ!」
西治が積極的に海王を振り回している。
どれくらい積極的かと言うと、最初に飲食店に入り、次に隣の飲食店に入り、さらに反対側の飲食店に入り……という具合にである。
とにかく、お腹が空いていたのだ。流石は男子というべきか、いくら道中でも食べているとは言っても保存の効くようなものばかりであったため、美味しいものが食べたくなってしまったのだろう。
「お、おい……ちょっと待ってくれ……」
海王が西治にストップをかける。
海王はその細身の割にはよく食べる方なのだが、流石に限度がある。数件も回ればもうお腹は十分過ぎる程だ。
「ん、もう食えないのか?」
西治が後ろを振り返る。
西治も決して太っている訳ではない。図体はでかいがそれは引き締まった筋肉故であり、バリバリのスポーツマンである。その割には二次元方面にも詳しい為、彼も友理並の顔の広さを持っているのかもしれない。本来深いレベルで両立することが難しいインドアとアウトドアを両方こなしているのだから人気男女問わず人気が高いのも頷ける。
「あ、ああ……」
走るのもつらいようで、海王が立ち止まる。
「そっか。まあ無理して食うもんでもないしな。また後でにするか。俺も別に超空いてる訳でもないし」
さっきまで沢山食べていれば当然である。
「じゃあ次どうする?」
食というルートが終わった今、西治は次の選択肢に悩んだ。
「あの店なんか面白そうじゃないか?」
西治の意見が出ないので代わりに海王が提案する。
海王が指したのはロボットのようなものが置いてある大きな店だった。
工業都市ならではの店、といった雰囲気である。
「おお! 確かに! 相当広いし、回り甲斐がありそうだ!」
男は皆ロボットが好きなのか、高校生である二人は目を輝かせてその店に入っていった。
友好的な人柄と物事に真剣に打ち込むクールさを併せ持つイケメン二人にも、案外可愛い所があるものである。
「綾火チャン、肌すべすべ! いいなあ」
ツインテールをほどいた綾火の髪は丁度背中の真ん中辺りにまで垂れていて、白い肌との対比が美しい。
「そ、そんなことないよ~」
と言いながらも綾火は嬉しそうである。しかし友理も綾火には負けておらず若さに満ち溢れた体を持っている。
ボーイッシュでどちらかと言うとアウトドア系の彼女の肌は流石に真っ白とはいかないが、程よく焼けて実に健康そうな色をしている。
この宿はそれなりに大きいのだが、流石にこの時間に風呂に入る人間はいないらしく、大浴場には二人の姿しかない。
その二人は現在片隅で小突き合っている。
西洋風のその浴場は、二人によく似合っていた。
「さて、準備もできたことだし、綾火チャン、たっぷりと聞かせていただこうではありませんか!」
そう言って友理が綾火にじわじわ近づく。
「な、何のことかな~」
「むむ。そんなに強情だと、おっぱいもみもみしちゃうぞ!」
友理が綾火の後ろにはりつく。
「だ、ダメ!」
その行動に反応して綾火が恥ずかしそうに前を隠す。
「ふっふっふ。じゃあ大人しく話してもらいましょうか……」
二人とも体の発達を良いらしく、コンプレックスを抱くような胸はしていない。それも相俟ってこの絵面は決して見せてはいけないようなものになっている。
「海王クンのどこが好きなの? ねえねえ、どんな所に惚れたの?」
うりうり~ と言いながら友理が綾火の頬を突く。
「え、えっと……優しい、所……かな~……」
綾火は言葉に詰まった後そう言った。テンプレを、言った。
「えー? そんなんじゃつまんないじゃん! もっとないの? こう、胸板が厚いところ、とか、抱きしめられた時の腕の温もり、とか、自分の名前を呼んでくれる時の甘い声、とか」
友理は一人でテンションが上がっているのか変なことを口走る。
そしてそれを真面目に受け取ってしまった綾火は顔を真っ赤にしている。どう考えてもお風呂に入っているから、という理由だけで片づけられる赤さではない。
「だ、だだ、抱きしめられたことなんてないし……」
ぶくぶくと顔を沈めていく。
「いやいや、道中で思いっきり抱かれてたじゃないの。アツく、ぎゅっとさ!」
友理はトカゲと戦った時のことを言っているのだろう。
「そ、それは……その時は友ちゃんだって西治君に抱かれてたくせに……」
「なっ!?」
自分で言って気づかなかったのだろうか。あの時のことを言えばこのような反撃がくることは分かり切っていたというのに。
浅はかなり。
そんな言葉が似合うシチュエーションだ。
だがそれくらいの抵抗で友理が諦めるはずもなく、心身共に綾火を追い詰めながら、海王のことについて質問しまくる。
例えば、出会った時の印象だとか。
いつ好きになったのかだとか。
一番好きな所はどこだとか。
ライバルは沢山いるけどどうするのだとか。
このままでいいのだとか。
アタシが手伝ってあげるだとか。
もう色々と連続で聞く。
友理は元々綾火が海王のことを好きだと知っていたので今までも影ながら支援してきたつもりだったのだが、意外と綾火に直接言うのは初めてであった。
このパターンではよくその友人――この場合では友理――も相手――この場合は海王――のことを好きになってしまうというラブコメに陥るのだが、幸い友理が好みとするタイプは細い優イケメンよりもがっつりとワイルドなイケメンなのであった。
体つきがしっかりしていて精神もしっかりしていて、心身共に自分を守ってくれるような存在……と意外に乙女チックな理想を友理は持っていた。ショートでボーイッシュと言っても中身は一人の少女である。別におかしなことではない。
そんな二人の恋話は、二人がすっかりのぼせてしまうまで続いた。
実に百合。果てしなく百合な光景であった。




