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36、キエル versus グレイ ~ちょっとやり過ぎちゃったかな~

 っておわあああ! 危ねえ! いきなり切り込んできやがった。


 その手に持っている短刀、一体どこから取り出したんだ?


 それより今はお姫様だっこしているルテティアが邪魔になっている。


 ならば。


(おんぶひも、召喚!)


 おんぶひまが現れた。え、だって仕方ないじゃん。最初に思いついたのがこれだったんだから。


兄貴の攻撃を軽快なステップで躱しながら、俺はおんぶひもの装着に成功する。あれ? 俺ってこんなに軽やかに躱せるのか? 流石だな!


「う、うえっ! き、キエルさん! これ何ですか!?」


「おんぶひもだ! 赤ちゃんを背負う時に使う!」


「私は赤ちゃんではありません!」


「非常時だからいいんだよ!」


(ルテティア、透明化)

(ルテティア、音声遮断)


直後、俺の背中に背負われているルテティアの姿が見えなくなった。(因みに俺の想像魔法は俺以外にもかけることができるが、その場合効果時間が短くなる)


「――――――!」


それに音声遮断によりルテティアの発生させる音は一定時間外部に届かなくなる。完全な隠蔽である。


「!?」


ルテティアが消えたことを間近で見てしまった兄は一度動きを停止させる。


「貴様……ルテティアをどこへやった!?」


「さあ、どこだろうな? その辺を探せば見つかるんじゃないか?」


俺が答える気がないということを悟るとお兄さんはまた俺に攻撃をしかけてくる。っていうかお兄さん速い!


「っ!?」


お兄様の攻撃に完全に集中していた俺は斜め前から放たれるお姉様の雷攻撃に気づくのが一瞬遅れた。おい! ルテティアにも感電するぞこら!


が、俺の回避能力は中々に高く(伊達にいつもお家でエアボクシングしてなかったようだ)この世界の身体能力補正もあって意外と躱せる。真横を電撃が通り過ぎたのでかなり怖かったが、当たらなかったから良しとしよう。


 勿論地面に転がるように攻撃を避ける時は背中にいるルテティアを潰さないように気をつける。


 ただ攻撃を避ける、と言えば確かに避けられるのだが逆に言えば「避けることしかできない」。


 二人の猛攻に対抗すべく必死で回避しているのだが、やはり絶妙な「遠距離近距離コンボ」というのか、隙が全くない。これにあの幼女が加わったらもう無理そうである。


 だからと言って俺の貧弱な「跳躍」と「飛行」能力では確実に追いつかれてしまう。


 ん? 待てよ? これは俺が透明になって逃げれば万事解決なのでは?


 何だ、最初からそうしておけばよかった。俺が透明化と薄影で逃れられないはずがない。


 と余裕をかましていたら、


「ぐっ!」


 兄貴の超速ナイフラッシュが左肩に当たってしまった。


 しかし。


「っ!?」


 それと同時に兄さんの左肩も裂かれる。ど、どういうことだ?


「……貴様、何をした?」


 兄様が聞いてくる。俺が聞きたいんだが。


 ……いや、そう言えば俺のステータスの中には一つ妙な特性魔法があるんだった。


 そう。カウンターである。


 使い方がよく分かっていなかったのだが、もしかすると特性魔法というのは常時発動型の魔法なのだろうか。だとしたら俺は痛み分けの如く相手にダメージを負わせられることになる。が、所詮偽物である。過度な期待はよそう。


 とにかく今はお兄やんに一撃食らわせたことを喜ぶべきである。


 そうだ。今の内に。





 勇者の彗星眼(偽)  対象  お兄様

 名前  グレイ・エス・マッドエストアーク

 LV  102

 年齢  22歳





 ええっ!? 102!? マジすか。


 と言って驚いている暇はない。


 兄ちゃんの攻撃が止んだ今がチャンスである。


(加速)

(攻撃強化)

(防御強化)

(そして、火焔鈍器だ!)


 俺は自己能力を強化し(勿論ちょっとだけ)それと同時に五つの火焔鈍器を兄上目がけて放った。結構お気に入りです、火焔鈍器。


「なっ!?」


 突如現れた高密度の物質を前に兄さんは瞬時に横へ飛んだ。しかしそこに隙ができる。


 が、そこで突っ込むということはしない。


 そう、間髪無くお姉さんの攻撃が飛んでくるのだ。


(さっきのクッション!)


 真っ白な巨大クッションが俺と姉さんの間に出現する。今度の姉さんの技は炎の拡散系だったのでこれでいいと判断したのだ。


 万が一貫通系の魔法だったら、クッションなど容易く通り抜けてしまっただろう。しかし拡散系ならばその貫通力は劣る。それにっさっき召喚したクッションはビビリの俺が自己防衛の為に出したものであるからその厚みと柔らかさは中々のものだ。


 ふっふっふ。この魔法はエセチートでもその多様性だけを見ればチート級である。俺のこの頭脳をもってすれば、何事にも不可能はない!


 と、俺はすっかり戦闘を楽しんでいて、最早透明化して逃げようなどということは考えていなかった。


 いいだろう。兄者のレベルが100を超えているのなら、それより遥かに低いレベルであるこの俺が、お兄様に一泡吹かせてやろうじゃないか。


 つまり、下剋上だ!


(必殺! 解曲杖げこくじょう!)


 調子に乗って中二病的な必殺技を唱えてみると、なんと驚き、俺の手に杖が握られているではありませんか。


「ふふふ……この杖は全てを分解し、全てを歪曲させる、至高の杖。その恐ろしさ、存分に味わうがいい!」


 俺目がけて飛んできた氷系貫通魔法を目の前にして、俺は解曲杖を振った。


 刹那、その氷の描く軌跡が解曲杖の先端でぴたりと消滅した。


 そしてお兄様の振り回す二本の短刀を解曲杖で受け、それらを大きく曲げた。


「なっ!?」


「ふふふ……どうした? グレイ・エス・マッドエストアーク? 剣先が鈍ったのではないか?」


 相手の動揺を誘うようなセリフを吐く。そして現に、兄ちゃんは動揺していた。


「では、今度はこちらから!」


 と俺が一歩前に進んだ所で解曲杖が消滅した。やはり使用時間には制限があったか。


 ならば仕方ない。


(短刀、二本、召喚!)


 お兄様が持っていた短刀と同じものを想像し、作りだした。


 そして一本をお兄さんに投げる。


「さて。ここからは私と君。一対一の勝負と行こうじゃないか」


「何……?」


 投げられた短刀を受け取ったお兄様は尚も俺を睨みつける。


「そこの女性、ルテティアの姉君か。今から少しの間、手出し無用で頼みたい」


 そう釘を刺し、一対一の状況を作り上げる。


 男と男の真剣勝負、という正々堂々敵な雰囲気を用意することが大事なのだ。


「……いいだろう。一対一と行こうじゃないか。その代わり俺が勝ったら妹を返してもらうぞ」


 一人称を「俺」に戻し(もともとそうなのだろう)お兄様は再度俺を見る。


「もちろん、いいだろう」


 良い目だ。


 純粋に戦おうとしている目である。


「いざ!」


 ただ、俺は偽物である。


 本当の勇者ではない。だってまともに戦って勝てるはずないもの。


「っ!?」


 短刀と短刀が交錯する。


 交錯して、砕けた。


 粉々に、砕けた。


 そう、俺の作りだした短刀は所詮その程度の強度しかないのだ。


 さらに想像の段階で少し脆くしておいた。俺の再現力のなさをもってすれば一撃で砕け散るのは分かり切っていたのだ。さらにお兄様は先程まで使っていた短刀と同じものを渡された為、不審には思いながらもいつも通りの感覚で使ってしまったのである。


 そしてそれを分かっていたからこそ俺はすぐさま次の行動に移れる。


 さっと腰を低くして左拳で兄様の脇腹を殴る。


(飛翔力上昇)


 痛覚上昇は可哀想だと思ったので、せめてビジュアル的に良い感じになるように、俺は兄様を遠くに吹き飛ばした。


「ぐっ!」

 兄様、その顔、素敵ですよ?


 俺は怯んだ兄様にすかさず追撃を加える――とその時。


 ぶちっ。


 そんな音がした。と同時に肩が軽くなる。



 ああ、おんぶひも、切れちゃったのね。ほら、だってお兄様がおんぶひもの左側を切るから。もともと強度のないおんぶひもだったし。



「――っ!」


 音は聞こえなかったが多分その辺でルテティアが投げ出されたのだろう。


 すぐさま回収しなくては。


 俺は兄様への追撃を諦め、


(透明化解除)


 ルテティアの透明化を解除した。


 そしてすぐに回収しに行く。


「――――かったですよ! 危ないじゃないですか!」


 と同時に音も復活したようでルテティアの声が俺に聞こえるようになる。


「あと少し黙ってろ」


 少し投げやりにそう言って、俺はルテティアを左手に抱える。


「ふふふ」


 その後、地面に伏せているお兄様を見て不敵な笑みを零す。


 お兄様の傍にはお姉さまと幼女が駆け寄っている。あ、結局幼女戦いに参加しなかったな。


 まあ、それは置いといて。


 図式的には完璧になった。


 俺がルテティアを抱え、お兄様が地面に倒れ、そこにお姉様と幼女が駆け寄る、という図式だ。


 完全に人攫いである。


 誘拐犯である。


 そして俺自身、愉快犯であった。


「ふふふふふ、ふはははは! 私に勝てるとでも思ったか! まだまだだな! この小娘は私がいただいていく! またどこかで会おう!」


「ま、待て……!」


 俺はグレイ・エス・マッドエストアークの言葉に耳を貸さず、


(透明化)


 ルテティアと共に、その場から姿を消した。








 ……えーっと。やりすぎました。はい。


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