35、嘲笑 by 人質? ~ふふふふふ、ふははははは!~
いや、知らないって言われてもね。
かなりの急降下で地面に降り立った三人は男一人、女一人、幼女一人の組み合わせである。
俺から数メートル先の所に降りたので、丁度対峙するような感じになっている。そんな、これじゃまるで俺がルテティアを攫って来たような図式じゃないか。
だがルテティアは俺の服を掴んだまま後ろに隠れている。おお、これだと何か追手から逃げてきた少女を庇う旅人のお兄さんみたいな感じだ。なら、いっか。
その三人も当然のことながら有翼人であり、背中に大きな翼を持っている。
男の翼は身の丈よりも大きい立派な青色のものである。歳は二十歳くらいか。随分とイケメンなお兄さんだ。あの、俺のクラスの国立海王とかいうやつと同じくらいイケメンだ。つまり俺と同じくらいイケメン。すなわち俺イケメン。
……ごめんなさい。
それで、隣の高身長の女性は男と同年代くらいでその翼は銀色というのか灰色というのか。そんな感じの色である。だが灰色と言ってもくすんだ感じはなく、何か透明感のようなものを持っている、不思議な羽だった。それに隣の男に負けずと容姿がいい。何だこら、こいつら付き合ってんのか、ああん?
……こほん、失礼。
それで最後の幼女。こいつが一番謎だ。
明らかに幼女なのに、顔はクール。肌白どころか真っ白なんじゃないのって思う程肌が白く、そして髪の色も真っ白。ルテティアの髪も白っぽいところはあるがあくまで水色である。ん? そう言えば男の羽の色と似てるな。
瞳は銀色で、冷淡な視線を感じる。見た目は子供、頭脳は大人、といった感じの容貌だ。
その端整な姿も驚きと言えば驚きなのだが、最も違和感を覚えるのはその翼である。
男の場合は身の丈以上あっても立派という言葉で表現できるだろうけれど、その幼女の翼はその体の割にあまりにも大き過ぎるのである。
幼女は幼女であり、身長は高くないので地面に足をつけていると翼が地面に思い切りついてしまう為か、翼を器用に小さくたたんでいるが、それでもその翼が大きいと分かるくらい、とにかく大きかった。
もういっそ翼の方が本体ですと言った方がいいレベルである。
そんなアンバランスな幼女プラスリア充二人の三人組が俺の方を見ている。
「失礼ですが、あなたはどなたでしょうか? もし私の妹が迷惑をかけているようでしたら申し訳ありません」
と、突然イケメンが丁寧な口調で言ってきた。流石に初対面の人間とのやり取りがしっかりしている。うん、大人の有翼人である。
……って妹!?
なるほど、だから髪の色や翼の色が似ているという訳か。
「お、お兄ちゃん、私はもう旅立つの! 世界のいろんな所を飛んで回るの!」
俺の後ろに隠れたままではあるものの、ルテティアが兄に反論する。いや、反論するくらいの勢いがあるんだったら前に出てくれませんかね。間に挟まれてるの結構精神的につらいんですけど。
「そんなこと言って、お前はまだまともに飛べもしないだろう! この間だって『ロンドの樹』から飛び降りて大怪我をしたくせに!」
「ちゃ、ちゃんと飛べるもん!」
落ちてきたけどな。
「これ以上その人を困らせてはいけませんよ、ルーちゃん」
隣の女性もルテティアを宥めようとする。有翼人三人にとっては俺がルテティアに取りつかれた一般人だと思っているのだろう。
「お、お姉ちゃんまで……」
女性に言われたルテティアは少し萎縮した。ああ、お姉さんだったのね。雰囲気から見て、お姉さん、お兄さん、ルテティアという感じか。じゃああの幼女は妹だったり?
「ルテティア。その人は非常に困惑しています。すぐに放して差し上げなさい」
今度はその幼女がルテティアに言う。え、随分と大人口調ですね。それに声も幼女というよりは落ち着いた女性という感じだし。
「べーっだ! あんたには関係ないですぅー!」
幼女に言われたルテティアは明らかに反感を持って答えた。おいおい、幼女相手に大人げないぞ。うん、こいつが妹ってことはないな。
男とルテティアは色が似ているから間違いなく兄妹だと思うし、女性の方も微かに青が入っているようにも見えるからルテティアの言っている「お姉ちゃん」は実のお姉ちゃんを指しているのだろうけれど、幼女だけは雰囲気が全く違う。
髪の色も翼の色も純白の如き輝きを放っていて、その瞳も曇りのない銀色の輝きを宿している。造形からして大分差があった。
それにしてもこの状況、中々に面倒そうである。
現状を簡潔にまとめると、「里っぽいところを勝手に抜け出したルテティアを兄妹プラス幼女が追いかけてきた」ということになる。
つまり、悪いのはルテティアの方。掟を破り何度も逃亡を図っているルテティアの方なのだ。
だから、一般的解釈に則れば俺の取るべき行動は有翼人三人にルテティアを引き渡す、という行為である。
それが理に適っていて、当たり前の選択だ。
でもなあ。せっかく一緒に行ってくれるって言ったのに、もうお別れっていうのは何だか寂しいなあ。
自分の言葉を流用する訳ではないけれど、俺だってちゃんとルテティアがどんな人間なのかをしっかり判断してこれから友好を深めていきたいと思っているのだ。それをこんなあっさりと中断するのは何だか気持ち良くない。
それに、ほら、可愛いからさ。
だからこんな所で手放す訳にはいかない!
「……ふふふふふ……」
少し肩を揺らして、俺は笑う。
その動作に気づいたのか、有翼人三人が俺の方に視線をよこした。ついでにルテティアも俺の背中側からきょとんとして見ている。
そう、さっき使ったばかりだが、俺の、いや私の演技モードである!
名付けて! 「偽の貴公子」!
……うん、ダサいから却下だな。
「ふふふふふ……君達、まだ気づかないのか? この小娘が必死になって真実を隠そうとしていることを」
そう言って俺はルテティアを両手で抱きかかえる。お姫様抱っこである。
「わわわっ!?」
静かに。
俺はルテティアにだけ聞こえるようにそう呟いた。
「以前からこの小娘が逃亡を繰り返していたのかは知らないが………同じようなことが起きたからといって、それだけで決めつけるのは少しばかり早計というものではないか?」
冷笑を浮かべながら、俺はお兄さんを見た。いや、流石に女性と目を合わせられる程メンタル強くない。
「ど、どういうことですか?」
お兄さんは何やら不審感を抱いているようで、慎重に聞いてくる。
「ふふ。分からぬか。それが分からぬから、君達はこの小娘の気持ちを分かってやれないのでは? ……まあ、その辺は良い。私の知ったことではない。だが、一つ教えてやろう。この状態、君達は小娘が私にしがみついているように見えたかもしれないが、それは誤りだ。小娘が私の後ろに隠れているのは、私が小娘に、人が来たら怯えるような素振りをしろと命令しておいたからなのだよ。そう、脅迫しておいたからなのだよ」
「き、脅迫!?」
お兄さんの目が一気に鋭くなる。ちょ、怖いんでやめて下さい。
「やってきた人間がたまたま君達兄妹だったから、小娘はいつもの言い訳を使ったのだろう。つまり、今回の逃亡は、確かに途中まではこの小娘の意志だったのかもしれないが、今はもう既にこの小娘の意志などではなく、ただ私が脅して誘拐している最中に過ぎない、ということだ。ふふふ。可愛そうに。誘拐され、兄妹からも勘違いされるとは。さっきまでこの小娘はメソメソ泣いていたよ、「ごめんなさい、お家に帰りたい」ってね。ふふふふふ、ふははははは!」
高笑い。やべぇ、超悪役だ。
少し理由が無理矢理過ぎたかもしれないが、この場を乗り切れれば問題ない。ルテティアは幸い状況を飲み込んでくれたのか、泣き出しそうな顔を作っている。おお、中々の演技力だ。
「き、貴様!」
目の色を変えたお兄様(汗)は俺をキッと睨みつけている、となりのお姉さんも鋭い目つきでこちらを見ており、結構というかかなり怖い。相変わらず幼女の表情には変化がないけれど。
設定が無理矢理過ぎるかもしれないと言ったが、要は相手の怒りをルテティアから俺に変換しさえすればいいのだ。あとは感情というものがその辺の理屈をあいまいにしてくれる。
お兄さんお姉さんは自分の妹が攫われたという事実だけで怒り心頭という訳である。
「ははははは! 取り返せるものなら取り返してみよ!」
再び高笑いをし、さてとんずらするかと思った所、俺の袖が僅かに引っ張られる。どうやらルテティアは俺に伝えたいことがあるらしい。
(何だ)
小さな声で聞く。
(いや、あの、まずいです。非常に機転の利く悪役っぷりには感動なんですけど、あの……お兄ちゃん達、超強いですよ?)
え? ちょっと待てい! それ先に言ってよ! って言う暇なかったか。
くそ、おのれ兄貴ども!
「ならば力ずくでも返してもらうぞ! 我が妹を!」
「ふん! ほざけシスコン!」
取り敢えず罵声を浴びせておく。こういう純情派主人公みたいな性格の兄者には効かないとは思うけど。
「っ!?」




