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31、ルテティア after フォーリング ~美少女が降ってきました~

 んー、何だろ。一言でまとめると、幼女ってことでいいのか?


 いや十四歳は幼女じゃないか。でも結構小さいしなあ。


 それにしても体重軽過ぎじゃないか?


「んん…………」


 突っつくこと十数回、ようやく少女、ルテティア・ルトゥム・マッドエストアークが少し目を開けた。


 っていうか名前長っ! しかも妙に泥っぽい名前だぞ。


「うぅ…………ほえ?」


 アホの子だった。


 俺には分かる。


 大抵目が覚めて最初に「ほえ?」というやつはアホの子なのである。


「大丈夫か?」


 だが、アホの子だからと言って俺が冷たくなる訳がない。美少女皆平等。


 手を差し伸べて起き上がるのを待つ。


「んん……ここは……天国、かな……」


「違うぞー。君は生きてるぞー」


 そう耳元で言うが水色の虚ろな目は変化しない。


「……ああ、神様ですか……そうですか、私、どうですかね……? ちゃんと徳、積んでますかね……? 死後は楽に暮らせますかね……?」


 やっぱりアホの子だった。そもそもそんなセリフが若い子から出て来るとは驚きだよ。


「残念だが、君は死ぬにはまだ早いな」


 突いても無駄なようなので、担ぎ上げた。うわっ、何か人攫いみたいだわ。しかもやっぱり軽い!


「あわわわわっ!? ……あれ? 生き、てる?」


「下に俺がいて良かったな」


「あ、はい。どうもありがとうございます、助かりましたって誰ですかあなたは!?」


 ぴょんと飛び跳ね地面に着地する。


「おう。俺は……うーん、旅人Aだ」


 村人A的な感じで。


「そ、そうなのですか。旅人さんですか……あ、もしかして旅人さんが私を助けてくれたんですか?」


「ああ」


 さっきあんたお礼言ってただろ。


「下敷きになって助けてくれたんですか?」


「まあ、大体そんな感じだな」


「そうですか。いやー、本当にありがとうございますー。あなたがいなかったら私は今頃ペチャンコという訳ですね?」


「そうだな」


「いやー、そう考えるだけで本当恐ろしいですねー。……はい、では、どうぞ」


「……どうぞって、何を、だ?」


 一通り状況把握ができたらしい少女はもう一度俺の前に近づいてきた。


「ほら、私担がれてたじゃないですか。ということは攫われちゃうのかなーと」


「いや攫わねぇよ!」


 しかも積極的に攫われようとするなよ!


「え? そうなんですか? 空から女の子が降ってきて意識を失ってるから攫っていろんなことしちゃうんじゃないんですか?」


「あんたは俺のこと何だと思ってんだ!?」


「え? 人攫い?」


 恩人じゃないんかい!


「違う違う。俺は今旅してるの。それで偶々あんたが降ってきたから受け止めた、とそれだけだ」


「そうですか? せっかく美少女が空から降ってきたのに何もしないんですか? ほら、私あなたに命を救われた訳ですし、脅されたら何もできませんよ?」


「だからあんたは俺のことを何だと思ってんだ!」


「男の人?」


 ええ男の人ですけれども!?


「男の人ってエッチなんじゃないんですか?」


 おいおい、この少女。随分とダイレクトに聞いてくれるじゃないの。


「ん、まあ、そうだな」


「あ、認めちゃうんですね」


 正直に答えたら少女、ルテティアは少し嬉しそうに言った。おい、何で嬉しそうなんだよ。


「でもそういうエロい部分を抑えて生きていくっていうのが人と人との間で生きていくってことであり、人間として理性を持って生きていくということなんだ」


「はあ、なるほど。勉強になります」


 素直だな。


「それに、別に男だけがエロいんじゃないんだぞ? 世界には女でも超性欲が強い人とかいるからな。男女問わず食われちまう」


「そ、そうなんですか!? それは怖いです! 旅人Aさん、守って下さい!」


「ああ、分かった、って素直だなっ!?」


 そんな簡単に他人を信じてはいけません!


「ほら、さっき言っただろ? 人間は元来エロい生き物なんだ。だから人と交流する際はまず相手がどんな人間なのかを見極めて、自分に合いそうな人間だったら少しずつ距離を詰めていく。そうして時間をかけて信頼関係というものを作っていくことが大切なんだ。この人なら自分を大切にしてくれる。理性を持って紳士的態度で接してくれる。そういう風に観察と分析をしなくてはならない。だから初めて会った人間を無条件に信用してはいけないよ?」


「な、なるほど。でも旅人さんは私を助けてくれました! ですので信用します!」


 おいっ! 純粋すぎるだろ!


「だからね……あんたも言った通り、男というのはエロい生き物なんだよ。だから可愛い子がいると、その子に優しくして油断させて籠絡しようとする人間もいる。騙す人間というものがいるんだ。だからただ親切にされてもそこはしっかりと見極めなくてはいけない。その人が本当に自分のことを心配してくれているのかを、きっちり判断しなくてはならないんだ」


「ほうほう、なるほど。分かりました! では旅人さん! あなたは私を騙しているんですか?」


「いや騙してないから!」


「あれ? そうなんですか。じゃあやっぱり信用していいんですね。良かった良かった。では、改めてお願いします。私を守って下さい!」


 ええ……? この子、やっぱり本物のアホの子だよ。話が通じないよ。


 うーん、というか俺は初対面の女の子と何でこんな話をしてるんだろう……? 


 変態か!? 俺は変態なのか!? いや、断じてそんなことはないはずだ。だって、この話を振ってきたのも相手だし。


「えーっと、守ってくださいと言われてもだな……あんた名前は?」


 名前は知っているのだが不審に思われないように聞いておく。


「私ですか? 私はルテティア・ルトゥム・マッドエストアークと言います! あ、噛まずに言えた!」


 自分の名前くらい当然だろ!


「そうか、随分長い名前だな」


「はい! では、旅人Aさんも名前を教えて下さい。勿論頭文字はAなんでしょう?」


 いや違いますけど。


「俺はキエル。キエルと呼んでくれ」


「きえーるさん?」


「無理矢理Aを入れるな!」


 何だよ、きえーるって。ピエールかよ。


「はいはい、分かりました、キエルさんですね。中々いい名前じゃないですか。私の次くらいにいい名前です」


「おお、そうか。それはどうも」


 中々ペースが掴みにくい少女である。




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