29、巧偽拙誠 ~これからだ! 異世界大冒険~
ふふふ。さてさて。テンションが上がって参りました。
何せ、皆の前に自分の姿を公開するのだから。
今までの人生、誰にも注目されることなく薄い影を落として生きてきた俺が、皆の前で公開演技を行うのだから。
そりゃ、テンション上がりますわ。
手順は、考えてある。
ただ、具体的な方法は、考えていない。
その場のアドリブである。
アドリブで、隙を作ってみせるのだ。
俺は誰にもばれないようにそっと屋根の上に登った。大丈夫、現在この町は王国軍があちこちにいるせいで民衆の目は全てそちらに向けられている。こんな変人が一人屋根の上に登ったくらいでは誰も目に留めないだろう。
怖がって家の中に入ってしまった人も多いので、人の数が少なくなっている所も高ポイントだ。
「ふう……」
自分に何が出来るのかは分からない。
だが最後に、もう一度ステータスを確認しておこうと思った。
戦闘はあまりしていないが、それなりに経験は積んできたつもりだ。
楽しい経験、辛い経験、ラッキースケベな経験。
異世界での経験はまだ多いとは言えないが、それでもここまで生き抜いてきたのだ。
そして今、ここで大きな経験を積もうとしている。
名前 煌々川綺慧瑠
LV 20くらい
HP 鍛えれば鍛えるだけ、上がるものです。
MP そこそこあるらしい。
ATK 54
DEF メンタルの強さによる。
MAT 0(十億の位を四捨五入)
MDF メンタルの強さによらない。
SPD 良い調子。
LUK UNKNOWN
EXP 変な経験ばかり積んでいるけれどそれなりに楽しめていると思う。やっぱり人生楽しむことが一番。だけど強いて数値として表すならだいたい――――やっぱいっか。
特性魔法 カウンターが解禁されました。ただし取り扱いに注意。
薄影 相変わらず影が薄いwww
JOB 偽勇者(仮) 実況者 (『魔王戦』開始まであと357刻)
※ステータスは変更される可能性があります。
……うん、やっぱり結構変わってるな。多分良い方に。
色々気になることはあるけれど、今は後回しだ。
俺は綺麗に並ぶ茶色い屋根を次々に飛び越え、町の中心にある大きな聖堂(っぽいやつ)の近くまでやってきた。
その聖堂っぽい建物は他の建物より一つ飛び出ている。
そこならば俺の姿をこの町の王国軍全員に知らしめることができるだろう。
(飛べ)
飛んだ。
はい、飛びましたよ、少しだけね。
俺は鳥のように飛ぶ想像をしたのだけれど、実際はちょっと浮いた程度。
まあ、でもこれでいい。あの建物にしがみつければ。
俺は聖堂に一番近い屋根の上まで来ると、一旦足をつけ、思い切り跳躍した。
(跳躍力アップ!)
無論、ちょっとだけしか上がらない。
「ぐへっ!」
空飛ぶ偽物は聖堂の屋根の上に無様に転がった。でもちゃんと来られたから良しとしようではないか。
「ふっふっふ」
では、始めようか。私のステージを!
(声量増加)
(振動増加)
(注意力増加)
(そして! 花火だっ!)
俺の声が届きやすくなるようにしたところで、俺は大きな花火を一つ上げた。
ぱぁん。
……やっぱり大きくなかった。
しかし地面にいる人間の注意を引きつけるには十分な効果があった。
その弱々しい花火が上がった方を皆が見る。
民衆も王国軍も、俺を見る。
「コソ泥捜索中の王国軍の諸君! お仕事、ご苦労!」
まずは労いの言葉を。
「だが、本来の目的を忘れてはいないか? そう! 黒と金の服を纏った男のことだ!」
どよめきが広がる。
そう言えばそうだった、というような表情をしている。
「おそらく君達は、国王から聞いていないのだろう? その男が何者なのかを!」
皆黙る。いや、民衆は最初から口を開きながら黙っているが。
「『魔王戦』! この世界では千年に一度『魔王』が現れると言う! 誰でも聞く話だそうじゃないか! そして『黒勇者』と『白勇者』を召喚し、『魔王』を倒す、と! ははははは! 実に愉快な話である! そう! 君達の仰ぐ主君、レノクターン王国国王、サルバトル=レノクターンはその『魔王戦』の為に勇者を召喚したのだ!」
ここで一度セリフを止めて皆の表情を伺う。って言っても表情見にくいんだけどね、この距離じゃ。
どうやら王国軍の皆までも唖然としているようだ。
「信じられないだろう! だが後で聞いてみるがいい! これは事実である! そして召喚されたその男が、あろうことか国王の元から逃げ出した!」
さらなるどよめきが広がる。よしよし。良い感じだ。これでその男は「悪」というイメージがついた。まあ、俺なんだけども。
「何故逃げ出したのか! 気になるだろう! そうだろう! ならば教えてやろう! その男が『偽物』だったからだ! とんでもない、偽物だったのだ!」
どよめきの波は王国軍全体に広がっていく。
そしてそのうち、「なあ、あの男の服って、探してる男の特徴に合ってないか?」というような声があちこちから聞こえてくるようになった。……って今更かい!
「気づいたか! そうか、気づいたか! そう! 君達の探している、その黒と金の服を纏った男、つまり私こそが! 勇者を語り国王を騙した『偽勇者』である!」
両手を広げながら、高らかに宣言する。どうだ、見たか。猿のおっさんめ。俺はおっさんの束縛は受けない。おっさんの指示には従わない!
「さあ! 捉えるのであれば捉えるがいい! 無論、君達の実力で私が止められるのならな! ふふふふふ、ふはははは! はーっはっはっは!」
(透明)
そう念じた。
次の瞬間、俺の姿は周りから見えなくなる。この魔法だけは何故かしっかりと使える。完全に消えることができる。ほんと、何でだろうね。
「と、捉えろーっ! ……な、何!? 消えた!? ど、どこかにいるはずだ! 捉えるのだ!」
司令官らしきおっさんが指示を飛ばし、皆が俺を探す。どうしていいのか分からない民衆は足早に家に入っていく。
よし。中々の出来だ。……ってちゃんとあいつら、抜け出せてるんだろうな?
何だか不安になってきた俺はもう一度注意を引きつけることにした。
まず、聖堂をそーっと降りる。
そしてある程度の大通りに足を運ぶと、
(解除)
「ふはははは! どこを探している! 私はここにいるぞ!」
大きな声で王国軍を集めた。
そしてまた、
(透明)
姿を消す。
完璧だ。
これで、万が一あの二人が逃げられていなくとも、俺と反対方向に逃げれば間違いなく逃げ切れるはずである。
流石俺。
必死になって俺を探す王国軍の真横を通って、俺はその町の出口まで歩いた。
勿論、入ってきた所とは違う場所である。
戻るつもりはない。
まずはこの国を出るのだ。
一旦、二人とはお別れだ。
少し名残惜しいけれど、人を守る前にまずは自分の身を守らなければならない。
だから、俺は旅に出よう。
軍の騒ぐ声が聞こえる。
本当、能無しの連中だな。
「じゃあな」
俺は『レモス』と書かれた門を潜り抜け、誰にという訳でもなく別れを告げた。
さあ。
俺は自由になった。
天変地異で異世界に巻き込まれたけれど、ようやく俺は自由になれた。
だが、異世界も悪くない。
エセの仮面を被って異世界大冒険。
ワクワクドキドキ胸一杯。
俺の旅は、ここから始まるのだ――
名前 煌々川綺慧瑠……ね、ねえ、キエルって呼んでもいいかしら……?
LV 仕方ないなあ……30くらいにしてあげても、いいよ。
HP 鍛えれば鍛えるだけ上がるんだから、もっと頑張りなさいよ、バカ。
MP べ、別にあんたのMPなんて、全然高くないんだからね!
ATK 77、なんて7が並んでるだけでいい気にならないでよっ
DEF 少しくらい、弱気になったって……いいじゃん。
MAT き、君の力なんて十億の位を四捨五入したら、全然大したことないもんね!
MDF メンタルの強さによらないんだから、別に気にすることない……と思う……
SPD ま、まだまだだねっ! で、でも……少しくらいは認めてあげても……いい、かな。
LUK こんなに運のいいやつなんてそうそういないんだから! 感謝しなさいよね!
EXP あなたの経験をとやかく言うつもりはありません。別にあなたがどんな奇抜な経験をしようとどんな変態な経験をしようとどんなマニアックな経験をしようとどんなエッチな経験をしようと……って何言わせるんですか!
特性魔法 相手の攻撃跳ね返せるからって、調子に乗らないでよね!
薄影 あ、あんたの存在を分かってあげられるのは、私くらいしかいないんだから…………もうっ!
JOB 『偽勇者』 『実況者』 (『魔王戦』開始まであと357刻ね。べ、別に嘘なんかつかないわよ……)
※う、浮気したら、いくらでもヘンテコに変えてやるんだから!
えぇ……?
誰? 誰ですかこの人達。絶対に一人じゃないよね、複数人いるよね。
それにさり気なく偽勇者の(仮)が取れている。これで俺も本物の偽勇者ということか。
……っていうかステータスに人格とかあるのかよ!?
俺史上最大のビックリである。
え、で、それで?
えっと……
ステータスがデレるんだが、どうしたら良いだろうか。
第一話 『偽勇者の誕生』 (終)
あとがき
これにて第一話終了です! 次回からは第二話の連載を始めます。
これからもお付き合いいただけましたら幸いです。
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