28、黒白邂逅 ~しかし、勝負にもならない~
「ふう。まだつかねえのかな」
そう漏らしたのは西治である。
先程から『デドルジア湿地帯』を延々と歩いているのにも関わらず、その風景は遥か彼方まで無彩色で覆われている。
それに湿地帯とは言ってもこの広大な土地全てが湿地帯という訳ではなく、結構な面積が岩肌で覆われている。植物達の精力もない、枯れた土地だった。
「確かに、そろそろ影くらい見えてきてもいいのにな」
海王が答える。工業都市というからにはそれなりに大きな所であるはずだ。それなのにも関わらず中々見えないともなればあまりテンションは上がらないだろう。
休憩はしっかり取っていると言っても、肉体の方はともかく、これでは精神的に疲れてしまう。
「ん……?」
再び、戦闘に立つ海王の目が光る。
「なあ、西治。あれ、何だろう……?」
「ん? どれだ?」
「あれだよ。あの少し遠くの辺りにある白い……」
海王は米粒くらいの「白」を指して言った。
「ああ、あれか。うーん、何だろうな」
「綾火はどう思う?」
海王が綾火にも意見を聞く。
「何だろう~ 分かんないな~」
綾火の隣で友理も首を振る。
ただ確かに、これだけ辺りが暗い色に染められているとその「白」が異常に目立ってしまうのも無理はない。
「……え? ちょっと海王クン、あれ、何かさっきより大きくなってない?」
「え?」
もう一度しっかり見る。
勇者の千里眼 距離測定不可 前方 白い仮面の人間
「に、人間!?」
「海王クン、どうしたん!?」
「に、人間だ! 凄い速度で近づいてくる!」
「な、何!?」
西治も驚きの声を上げる。
「み、見えないよ~」
綾火は海王の後ろに隠れながらそう言う。
その「白」は高速で海王達に近づいてきている。
――――――――――★――――――――――
「ん? 何かしら」
前方に黒い影が四つ。
空絶の使用をやめ、白邪は歩き始めた。
その「黒」の前まで、歩いた。
――――――――――★――――――――――
「だ、誰だ……?」
最初に口を開いたのはまたしても西治である。
彼らの目の前に姿を現したのは、白い仮面を被った人間である。
「あ、あの、どなたでしょうか?」
下手に威嚇するのも良くないと思い海王は丁寧な口調で話しかけた。
だが、相手は一人である。それ程緊張感はもっていない。
「あなた達は……」
白仮面の人間が声を発する。どうやら女性のようだ。
海王の緊張がもう一段階解かれる。先程の高速移動は少々不気味だが、相手が女性一人となれば話しやすくなるのではないだろうか、と。
「あの、俺達は今旅をしていまして」
勇者のことは言わないように国王から言われているので、ただの旅人ということにしておく。
しかし白仮面の女性はしばらく無言で立ち続け、
「……国立海王、LV271、外森西治、LV262、時沢綾火、LV260、佐々田友理、LV269」
「なっ!?」
全員が一斉に驚嘆の声を出した。
何故、自分達の名前とレベルが知られているのだ、と海王は考える。そう、海王は驚きながらもその原因を探れる男なのだ。
自分も同じようなことをしたことはないだろうか。
ある。
自分も魔物のステータスを覗いたことがあるではないか。
(頼む。ステータスを見せてくれ)
そう念じた。
勇者の彗星眼 対象 白い仮面の女
勇者の守護眼により、ステータス開示不可。
名前 ――――――
LV ――――――
詳細 ――――――
JOB 『白勇者』
「なっ!?」
白勇者、と書かれていた。勇者の守護眼というのが何なのか、それ以前に勇者の彗星眼のこともよく分かっていないが、海王が驚いたのはそこではなく、『白勇者』という言葉にだった。
「……あなたは……『白勇者』ですね?」
海王が尋ねる。
「みんなも確認してみてくれ。彼女のステータスを見たいと、心の中で念じるんだ」
「え? ああ、分かった」
何を言っているのか、よく理解はしていなかったが、西治、綾火、友理はそれぞれ念じてみた。
勇者の彗星眼 対象 白い仮面の女
勇者の守護眼により、ステータス開示不可。
名前 ――――――
LV ――――――
詳細 ――――――
JOB 『白勇者』
勇者の彗星眼 対象 白い仮面の女
勇者の守護眼により、ステータス開示不可。
名前 ――――――
LV ――――――
詳細 ――――――
JOB 『白勇者』
勇者の彗星眼 対象 白い仮面の女
勇者の守護眼により、ステータス開示不可。
名前 ――――――
LV ――――――
詳細 ――――――
JOB 『白勇者』
「し、白勇者!?」
西治が大声で言う。
「……煌々川綺慧瑠のことに関して、何か知っていることがあったら教えて」
白仮面の女は、海王達の驚きには一切相手をせず、ただ質問を投げかけた。
「き、きらら? 何だ?」
西治がそう答える。誰だ、そいつ、というような顔である。
他の人に意見を聞こうと西治が首を横にスライドさせる。
「誰~?」
「アタシも、知らんよ?」
「……えーっと、確か……」
海王だけは何となくは覚えているようだが、他の皆は全く記憶にないようである。
「……!? あなた達、まさか同じクラスメイトの名前を憶えていないというの……!?」
「え?」
一同が度肝を抜かれる。
「クラスメイト……って、じゃああなたも俺達のクラスメイト――」
「そんなことはどうでもいいのよ! あなた達、綺慧瑠君のことを憶えていないの!? ……な、なんてこと……なんて薄情者なの!?」
何故か一人でキレる白仮面。
「いや、あの、あなたもクラスメイトなら、せめて仮面を外して――」
「うるさいわね! …………そう、綺慧瑠君のこと、知らないの……なら、あなた達に用はないわ」
「……え?」
何を言っているのか理解できない海王達は皆一歩下がった。
「白夜の、波動!」
空間が、揺れた。




