26、同行解散 ~俺は国を出なければならない~
「ふう……ようやくついたな」
フィルナの猛攻と咆哮を聞いてから二日。フィルナの案内により、俺はついに小さな町――『レモス』というらしい――に到着した。
「うわあ……」
小さな町でありながら『レモス』の町並みは割と豪華で、ちょっとしたオシャレの町という印象を受ける。
そのことに感銘を受けたのかミネルが感嘆の声をあげた。
貴族の娘でもやっぱりこういう雰囲気は好きなのだろう。いつも堅苦しい「豪華」に身を包んで生活していた身としてはこういったフリーダムな「豪華」は憧れだったのではないかと思う。
「ん……? 何だ? 何か町の空気が悪いような……」
それは物質的にという意味ではなく、そのまんま、空気的に、という意味である。KYのKである。
勇者の千里眼(偽) 三十メートル北、百メートル西、七十五メートル東、三メートル南、レノクターン王国軍
な、何? 王国軍? こんな小さな町に?
何故だ。何の用だ。
しかも三メートル南って。つまりは俺達の後ろ三メートルということで――
「王国軍!? 何故こんなところに!?」
俺の疑問を声に出したのは意外なことにフィルナだった。
「……君達、ちょっと尋ねたいことがあるのだが」
後ろにいた王国軍のやつに話しかけられる。え、何やねん。
「何か用か」
と、つい癖でタメ口をきいてしまった。一応王国軍って位が高いだろうからちょっとまずかったかな。
案の定、将校のような帽子を被ったおっさんは怪訝な顔をしたが、
「この辺りに黒と金の贅沢な服を纏った男はいなかったか? 先程国王命令によりその者の捜索令が全土に下ったのだ。もし知っているのなら何か教えるのだ。ええ、他の特徴としては、その者は女の召使いを引き連れている可能性がある、とあるな」
将校のおっさんは俺にそう聞いてきた。
……おいおい、それって思い切り俺のことじゃねえか。
あの猿、俺が帰ってこないからって国中に捜索令出しやがったな。
「そんな変態、見たことないな。他を当たってくれ」
俺はどこかに隠れようと辺りを見回しながらそう答えた。っていうかこの将校全然気づかないし。隣にメイドまでいるのに。
「そうか。もし見かけたら軍まで至急伝えるように――――ん? その顔、どこかで見たような……」
おっさんは町中の探索に行こうとしたようだが、そこでふと、フィルナの顔を見た。俺ではなく。
「……! き、貴様確か! 王国秘宝窃盗の、女盗賊! フィルナ・クレセルナだな!?」
おっさんは顔を真っ赤にして怒鳴った。
フィルナは「あ、やば」って感じの顔をしている。
「キ、キエル! 逃げるぞ!」
そう言ってフィルナは俺とミネルの手を引っ張った。
「おい! 待て! くっ、全軍、国家級罪人、フィルナ・クレセルナを捕縛せよ!」
おっさんの怒号を背に、俺達は町を駆け抜けた。
ほんと、何してるんすかフィルナさん。
――――――――――★――――――――――
明日木白邪は仮面をつけた。初めて見せるのは、彼にだと。そう決意して、仮面をつけた。
白い仮面だ。
白い悪魔のような仮面だ。
いや、正義の仮面だ。
正義のヒーローのような仮面だ。
いいや、勇者の仮面だ。
白い、勇者の仮面だ。
――――――――――★――――――――――
路地裏に隠れた俺達は、表の道で王国軍が町中を走り回っている音を聞きながら、心臓を落ち着かせた。
それより、あいつらの本来の任務は俺を見つけることじゃないのか。目の前の罪人に目を奪われて任務を疎かにするのはいただけないな。まあ、実のところ、俺も一緒にいる訳だから合ってるっちゃ合ってるんだけど。
「……で、フィルナ。あんた何やってんねん」
「いや……私は誇りある盗賊なのだ」
「理由になってねえよ! つまりは罪人だろ!?」
「……まあ、そうだ」
認めたよ。認めちゃったよ。
それに王国軍のやつら、フィルナのことを大罪人とか言っていた気がするぞ。そりゃ王国のものに手を出したらそうなるだろうよ。
しかし、それはそれとして、俺はこれからの行動を決めなくてはならない。
結構な緊急事態ではあるのだが、俺の第一目標はもともと「取り敢えず近くの小さな町に行く」だったのだ。それがクリアされた今、俺は次の目標を決めなければならない。
フィルナとはもともと案内という約束だけだっだ訳だし、もう一緒にいる必要はない。むしろ罪人と一緒にいたら俺まで捕まってしまう。そんなのは御免である。
ならば、俺はどうすればいい?
ひとまずこの町まで逃げてきた俺は、これからどうすればいい?
そう、まずはこの国から出なければなるまい。そして俺自身の身の安全が確保されるようにしなくてはならない。
しかしその為には相当な数の危険を伴うだろう。仲間がいればどれだけ頼もしいことか。
だが。しかし。それでも。
ミネルを危険にさらす訳にはいかない。
彼女だってそれなりに戦えるのだろうし、鍛えればきっと強くなるのだろうけれど、俺はそれでもミネルを守れるような自信はない。
いや、守るっていうのはあくまで仲間としてって意味ね。「お前を、一生守るから」的な意味じゃないからね。
一紳士として、美少女メイドを危険にさらすことなんてのはしたくないのである。
ではフィルナはどうか。一緒に来てくれれば戦力になるのではないだろうか。事実、彼女は盗賊として相当高い力を持っているようだし。
…………駄目だ。いくら高い力を持っていようとも俺といる限りその危険は倍増する。元から「国から追われている身」であるフィルナに、更なる重荷を負わせる訳にはいかない。きっとフィルナはフィルナで王国から逃げる手段をいくつも考えているはずなのだから、それを邪魔して同行を願うのは少々行き過ぎた行為である。
さて。どうしようか。
「………フィルナ。フィルナは家、持ってるか?」
盗賊などやっている以上普通の家庭ではないだろうけれど、森の中で何やら今は仲間がいるとか何とか言ってたはずである。盗賊団みたいなものがあるかもしれない。
「……ああ、一応女盗賊集団のリーダーをやっているが」
こんな状況なのにも関わらずフィルナが少し自慢げに答える。
おいおい、そんなの初耳だぞ。
だが、これなら手はあるかもしれない。
「じゃあ、アジトみたいなのもあるんだな?」
「場所は教えられないが、あることにはある」
よし。これならば、やはりいけるかもしれない。
俺はミネルの方を向いた。
「……ミネル。一回さよならだ」




