25、幸福至福? ~ストレートを受ける覚悟は常にしておくべきだ~
朝起きたら目の前が肌色一色ってどんな気分だと思う?
幸せ? いやいや、そんなことはない。
まず、何が起こったのか分からない。
その次に何だか体が温かい気がする。
そして視界がはっきりしてくる。
その後、フィルナが俺を押し倒しているのを理解する、とこういう順序だ。
フィルナの肌は白いからあまり肌色って感じはしないけれど、それでも艶があるのに違いはない。別に不健康って訳でもないしな。
幸い柔らかいものは俺の顔面ではなく、胸のあたりにあり、フィルナの顔が俺の首筋あたりにある。うん、幸い、ね。
ああ、そしてくれぐれも勘違いしないでいただきたいが、あくまでも「フィルナ」が「俺」を押し倒しているような図式である。逆ではないので決してそこの所、間違わないように。
……と色々考えてみたものの、やっぱり幸せかもしれない。正直だろ?
しかし気づけば左隣にミネルもいるし、一体これはどういうことなのだろうか。
俺はいち早く寝たが、その時二人と距離を取っておいたはずである。
そしてこの場所は俺が眠りについた場所で間違いない。
ということは俺の寝相が悪すぎて自らフィルナの下に移動したという訳ではないようだ。そんな変態行為はしていないようだ。良かった良かった。
となると、残る可能性は……
ああ、そうか。フィルナが俺の隣で寝たんだな。
俺は寝た後のことは分からないが、おそらくフィルナはミネルと一緒に俺の隣で寝たのだと思う。
俺とミネルの距離からして、並び順はミネル、フィルナ、俺ということになる。
何だ、中々可愛いところがあるではないか。一緒に寝たいならそう言ってくれればいいのに。
と、考察が一通り終了したのだけれど、一向に二人が起きる気配がない。
そもそもまだ日が昇りかけているところなので、相当早い時間帯なのだろうけれど。
……どうしようか。
そっとどかしてあげようか。それともこのままでいようか。
いやしかし、万が一俺がフィルナをどかしている時にフィルナが目を覚ましてしまったら、これは大変なことになってしまう。
詳しくは言わないが大変なことになってしまう。
ということで前者は却下だが、結局このままでいても何か起こりそうである。
ん? では、寝た振りをしておくというのはどうだろうか。
俺はまだ寝ているということにして、フィルナが起きるのを待ち、フィルナが状況を把握して顔を赤に染めながら俺がまた寝ていることを確認してそっとその場から離れる、という一部始終を薄ら目で確認した後、起きる、というのはどうだろう。
素晴らしい。
これなら誰にも損がない。
フィルナは誰にも気づかれずに(嘘だが)自らの失態を隠すことができ、俺はそれを気づかれずにガン見できるということである。
ということで俺は寝た振りをした。
が、本当は起きている訳で、肌の温もりが直接伝わってくる訳で、鼓動が聞こえてくる訳で――
何、何の問題もいらない。
超幸せである。異論は認めない。
え? 何? 俺が変態だって? おいおい、言いがかりはよしてくれ。
俺、悪い事、してない。
「ん……」
脳内でもう一人の自分に言い訳しているとフィルナが動いた。
はい、動きました。
どうのように動いかを申し上げるとですね……
両手を、こう、がしっと。がしっと。
あれ、俺、抱かれてる?
今抱かれてますよ。俺。
俺史上初、お母さん以外の女性に抱きしめられる。ああ、でも妹にもされたことあるな。
ということで、俺史上初、家族以外に抱きしめられる。
その瞬間だった。
いや、恥ずかしいですね。本当、恥ずかしい。
どうしましょ。こんなにホールドされていたら、万が一寝起き一発目のストレートが飛んできた際に避けられないではないか。
そもそも、フィルナさん、盗賊なんだよね? まだ赤の他人とでも言うべき二人にこんなに気を許していいんですかい? ミネルはまだ女だからいいにしても、俺の方に警戒心ゼロとはどうかしてるぜ。
……ん? もしかして俺、人間として感知されてない?
まさか、寝ている時まで俺の影の薄さは健在だというのか。ちょっとショックだよ。
もう俺が目覚めてから体感時間的に五分以上は経っていると思うのだが、その間フィルナの体はずっと俺に被さったままだ。どうやら俺のラッキースケベはその効果時間が長いらしい。ほら、だって大体ラッキースケベになる主人公ってすぐ気づかれて殴られるなり蹴られるなり投げられるなりするじゃんか。(←柔道部?)
だが俺の場合は前提条件として「気づかれない」。忍びにはもってこいのスキルかもしれないが、これは常に発動しているものだから、結構辛いんよ?
まあ、実際、これだけの薄影スキルがあるのだったら女子更衣室くらい覗けるだろうけれど、俺紳士だから。そういうことはしたくないの。
だけど、この状況、どう考えても俺は悪くない。
だからもしフィルナが起きても「知らぬが仏」をキープしておけば大丈夫。
「んう…………ぁ、あれ……? キエル、さん……?」
とここで違う声がした。あ、やば。目、開けてた。
ミネルが――まだボーっとしているが――目を覚ましたことにより、フィルナも可愛らしい唸り声を上げる。
な、何なんだよ。俺が少し動いたくらいじゃ全然起きもしなかったくせに、ミネルが動いた瞬間に起きちゃうとか。やっぱり俺人間として認識されてないじゃん。
「……ん……ミネル、だったか……? おはよう…………!?」
むくりと上半身を起こし、フィルナがミネルに挨拶しようとする。が、顔を上げようとした所にあるのは俺の顔。ばっちり目が覚めている俺の顔だった。
――いやほんと、何なんすか。
「き、き、きゃあああああああぁぁぁぁあああ!」
普段の少し落ち着いたような声はどこへ行ったのか、フィルナは可愛らしくそう叫ぶと、俺目がけてストレートを放ってきた。え、マジですか。
しかし、何となくではあるもののそれを予想していた俺は(現在ホールドが両方解除されているので)避けることができる。
だが、俺が避けてしまうとその拳は草と土でできた地面に叩きつけられるだろう。それは痛いだろうから何だか可愛そう。
ということで俺は目をマックスに開いたままフィルナの一撃を左手で止めた。
「……やあ、おはようフィルナ。随分な寝相だね――ってちょっ、ストップッ! 俺の話を聞けっ!」
混乱しているのか、フィルナの放ってきた攻撃は一発ではなかった。馬乗り状態のフィルナは完全に暴れていた。
「取り敢えず上からどいてくれっ!」
そう大声で言うと、ようやくフィルナは現状を理解したのか、攻撃の手を止めた。
「……な、な、なんじゃこりゃあーっ!」
大声でフィルナが叫び返した。……いや、俺が聞きてえよ。
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「お、落ち着いたか?」
戦闘の恐怖と、勝利の高揚、それに明日への希望を抱いた四人はそれらのテンションから通常に戻るまで、少しの時間を要した。
「ああ、もう大丈夫みたいだぜ」
「うん、平気~」
「完全回復よ!」
皆調子を取り戻し、
「よし、まだ今日は始まったばっかりだ!」
海王も意気込む。
「大丈夫、『魔王戦』までには時間があるんだから」
海王達は、「クラソルテ王国から西」へ、進んでいた。
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空絶。それは白邪の移動魔法である。
近距離に瞬間移動することもできるその技は戦闘の時に限らず移動にも便利である。
が、勿論、ずっと使っていると疲れてしまう為、移動を常に神速で行うことはできない。
しかしながらクラソルテ王国から結構離れた場所に飛ばされた白邪が王国を目指すにあたってこの移動能力は重宝するものである。
明日木白邪は「クラソルテ王国へと東」に進んでいた。
『魔王戦』まであと、359刻→357刻




