24、戦闘突入 ~恥ずかしいまでのリア充ぶり~
「で、で、でかっ!」
西治が驚嘆の声を上げる。
確かにでかい。実物を見てしまえば驚くのも無理はない。
「西治! 取り敢えず俺達が切りかかるぞ!」
「お、おう!」
国王から授けられた最上級の武器で男二人がトカゲに切りかかる。
この状況はまさしく勇者が怪物と戦っているシーンそのものである。
大きさ的にも良いバランスになっている。どこかの鈍器男よりよほどかっこいいだろう。
「せあっ!」
最初に切りかかったのは海王だった。
トカゲのその堅そうな皮膚に金色の剣で切り付ける。
「グラアアアッ!」
ちゃんと効いている。流石にレベルが違いすぎると、こんな巨体も相手にならないのかもしれない。勇者の称号は伊達じゃない、ということである。
「おっしゃ! 俺も!」
西治はその図体を生かした思い一撃でトカゲに斬撃を加える。
トカゲは二人の攻撃を受けると大きくたじろいだ。やはり強さは見た目だけ、なのだろう。
「この調子だ!」
トカゲの鋭い尻尾に気をつけながら、男二人は笑顔まで浮かべながら、巨大トカゲと戦っている。
海王達は弱点部位や弱点属性などを知らないが――というより足と尻尾にしか届かないが――ただ適当に剣を振っているだけで倒せてしまいそうである。
「グラアアアアアアアアッ!」
が、突然トカゲは二人から攻撃対象を変えた。
「あ、綾火! 友理! 気をつけろ! ――ぐっ!」
一瞬トカゲから目を離した隙に海王目がけて尻尾の攻撃が繰り出された。
「海王! 大丈夫か!?」
「ああ! 大丈夫だ!」
流石は高レベル、あまり損傷はないらしい。元の肉体なら考えられないことであるが。
「……ぁ……あ……」
しかし、海王達は自分の戦いに夢中になり過ぎていて、周りが見えていなかった。
同じパーティの仲間の様子を見ていなかった。
仲間がどういう状況にあるのかを見ていなかった。
無論、女子二人は男子二人の後ろにいる訳だからトカゲに狙われる心配は少ない。
今のようにたまたま攻撃目標にされても事前に見ていれば回避できる。
そう、何の心配もいらないはずなのだ。
海王は油断していた訳でも、妥協していた訳でもない。
本当に、ただ物理で殴れば勝てるはずだった。
ただ、戦う意志があれば。
「……ぁぁあ……っ!」
そう、綾火は足を地べたにつけて、完全に停止してしまっていたのだ。
余裕で勝てる。
圧倒的な力がある。
海王はそう思っていたが、それは男子の脳である。
海王は油断したのではなく、理解ができなかったのだ。
四メートル越えの凶悪なトカゲを前に、綾火達がどのような反応をするのかを。
戦うことが前提にあった。
立ち向かうこと前提にあった。
それを理解せずに、いきなり生の戦場へと足を運んだのが間違いだったのだろう。
本当はすぐに遠征などせずに、街の近くで基礎練習を行うべきだったのだ。
だが、今更後悔してももう遅い。ここは戦場で、現在は戦闘中だ。
ゲームとは違う。
ここは、リアル。
人間の生きる、現実世界の一つ。
「綾火っ!」
飛ばされた身体を起こして、海王は綾火に駆け寄る。後ろに下がっているように言った為、最前衛の海王との距離はそれなりにある。
そしてトカゲはでかい。攻撃対象を変更するなどという行為はあっと言う間にできる。
「ご、ごめん……なんか、アタシも腰抜けちゃった……」
「と、友ちゃん!? ちょっと待ってろ!」
いつもは明るいはずの友理も、座り込んでしまっている。
それを見て驚いた西治はそれと同時にすぐさま友理に駆け寄る。
「グラアアアッ!」
咆哮と同時にトカゲが前足を押し出して地面を削り取った。
その破片が四人に目がけて飛んでくる。
「きゃ――――」
綾火と友理が完全に動けない中、海王と西治は全速力で走って、思い切り跳躍した。
「伏せろっ!」
直後、大きい破片から小さい破片まで、あらゆる破片が海王と西治を襲う。その背中に護られている綾火と友理も思わず小さくなる。
「ぐっ!」
痛い。
苦しい。
飛んでくる破片が体に当たる度、鋭い痛みや鈍い痛みが発生する。
仲間を守る。
今はただそれだけで、それだけの信念で、海王と西治は二人を抱えた。
このまま蹲っているだけでは、勝てない。
どうすればいい。
どうすればトカゲを倒せる?
単純なことである。先程まで、男子二人だけで十分トカゲを圧倒していたのだから、反撃すればいいだけのことだ。
だが、また綾火達が狙われたら?
トカゲの近くにいたのでは今度こそ間に合わなくなってしまう。
だからと言って、女子二人を隠すような猶予もない。
ならば、この距離からトカゲを攻撃する手段が必要だ。
現代に生きていれば絶対にできることのないこと。しかしこの世界ではできること。
そう、魔法である。
魔法を使えばいいのだ。
「西治! 魔法だ! 魔法でトカゲをぶっ飛ばすんだ!」
破片の荒らしが止んだ後、海王は綾火を抱えたまま、
「吹き飛べ――」
グラスブラスト
「グ、グラスブラスト!」
頭の中に現れた光の羅列の通り、海王は手のひらから魔法を放った。
それは赤と緑の暴風のようにトカゲに向かっていく。
「グラアア!?」
その巨体が大きく揺らめいた。
「グランドファイアッ!」
続けて西治が巨大な火の玉を放つ。
「グラアアアアアアアアッ!?」
その業火に焼かれ、トカゲはしばらくその場で悶えていたが、その火が小さくなる頃、ぴたりと動かなくなりそのままその場に倒れた。
直後、根本から揺さぶられるような轟音が辺りに鳴り響く。
「…………た、倒した、のか……?」
海王が呟いた。
本来このセリフを吐く時は決まって相手は倒れていないはずなのだが、この場合、トカゲが再復活することはなかった。
トカゲが倒れた後もしばらくの間は誰も口を開かなかった。
そしてその後、
「どうやら……倒したみたい? よっしゃ! 俺達やったんだぜ!」
「ああ! やったな! ……ああ、綾火、大丈夫か?」
「う、うん…………ごめんね~ ちょっとびっくりしちゃってさ~……」
「いいや、考えてなかった俺の方が悪い。すまなかった」
綾火を抱いた手を放すと海王は素直に謝った。綾火は抱かれた手を放されて少し残念そうにしたが、
「あ、うん。全然、全然大丈夫だよ~」
わずかに調子を取り戻し、そう受け答えをした。
「あ、あのー、西治クン? 助けてくれたのはとっても嬉しいんだけど、そろそろ放してくれないと恥ずかしいなぁ……」
友理にしては珍しく控えめな声でそう言う。
「え? あ、ああ! ごめん!」
両手でしっかりホールドしていることに気づいた西治は慌てて手を放す。力が入り過ぎていたようだ。
「……結局俺達は分かってなかったんだな。異世界の勇者って存在を」
「あ、ああ。そうかもしれねえ」
「あの異常に高いステータスも、こんな不慣れな俺達じゃ持ってる意味がないのかもな。多分、この世界のステータスは俺達が勝手に都合よく見てるだけで、本当はゲームなんかのものじゃないんだ。俺達が分かりやすいような見栄えになっているだけなんだよ、きっと。陛下だって、日常生活のあらゆることが魂体数値の上昇に繋がるって言ってたし、この世界の力はちゃんと努力しないとつかないんだと思う。この高ステータスは、俺達が使いこなせるような人間になって、初めて意味を持つんだ」
「確かに、そうかもな。でも、じゃあさ! このチート級の力を使いこなせるような人間になればいいじゃんか! その為の遠征だろ? 綾ちゃんも友ちゃんもさ、そんな気にすんなって。あんなの初めて見たら誰だってビビるぜ。むしろあれでビビらない女子はなんか可愛げがねえな。うんうん、だから何の問題もない! これから慣れていけばいいじゃんか!」
「そ、そうだね。ありがとう西治クン。アタシ、これからはまともに戦えるように頑張るよ!」
「わ、私も、恥のないように頑張るね~」
皆が少しずつ笑顔になっていく。
「そうだよな。だって、まだ始まったばかりだもんな。よし! じゃあこれからは、ステータス任せにしないで、俺達自身の力で、強くなっていこうな!」
「おうっ!」
こうして、海王達の初戦は勝利で幕を閉じた。
が、その勝利が海王達に与えたものはただの勝利の喜びではなく、今までへの反省と、新たな意志を決めるきっかけであった。
故に、海王達の旅はここから始まるのである。
……と言うものの、ぶっちゃけると。
リア充爆発しろ。
爆発しないかなぁ。




