22、遠征会議 ~決断は彼らの行く先を示す~
「それでは、これより遠征計画会議を始める」
円卓の議長席に腰掛けた国王がそう言うと、その場の雰囲気が一気に張り詰めた。
本来、このような会議は国王が部下にやらせるものであるが、この国の国王は自ら積極的に動くタイプの人間である。
勇者召喚の儀を行ったのは主に国王であるし、召喚された勇者に現状説明をしたのも国王である。
そして今、勇者達の遠征計画についても自ら指揮を執っている。中々に良い王なのではないか。
そう思っていたのは海王だけではないだろう。
おそらく西治も綾火も友理も、国王には良い印象を持っているはずだ。説明下手な所や、話を進めるのが早いという点もあるけれど、人間を引っ張っていく立場のものとしてその豪快さはかえってありがたいものである。
「はい。では、この計画説明に関しまして、主な進行は立案者代表の私、レグラリオが務めさせていただきます。どうぞ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
海王がはっきりと言い、
「よ、よろしくっす」
「よろしくお願いします~」
「おお、もっと明るく行こうよ! よろしく!」
西治、綾火、友理が順に続く。
「そうだ、レグラリオ。遠征とは言っても彼らの実力を鑑みればそれほど危険という訳でもあるまい。そう固くなることはないぞ」
友理の一言に国王が言葉を添えた。
「はっ。ではどなたか意見がありましたら遠慮なさらずにおっしゃって下さい。それでは、説明に入らせていただきます。我々、立案部の作った計画は全部で三つあります。これらには全て国王陛下のご慧眼もお借りしております。勇者様方には、最終的にこの中から一つ、実行する計画をお選びいただきます。よろしいでしょうか」
「オッケーだよ」
友理がラフに答える。
このレグラリオという男の喋り方はとても聞きやすいらしく、綾火や西治も難しい顔はしていない。
銀のオールバックに眼鏡という執事風の男で、身なりもしっかりしている。国王の側近に位置する所からして、かなりの位を持っていることだろう。
「我々が用意した三つのプランにはそれぞれテーマがあります。簡潔に申し上げますと、「何を重要視しているのか」ということです」
レグラリオは目と手を使って部下に指示を出し、A4サイズ程の紙束を持ってこさせた。勿論、この世界でA4などという言葉はないと思うが。
「では一つ目の説明を行いたいと思います。一つ目の遠征計画ルートはこの城下町の『太陽の東門』から出発していただき、『オーリス橋』の手前まで行き引き返してくる、というものでございます」
「レグラリオさん、大変申し訳ないのですが、俺達はこの世界の地名とかよく分からないので、地図とかあると嬉しいのですが」
より分かりやすくなるように海王が提案した。
「失礼しました。確かに、最初に貼っておくべきでした。リゲラ、ボードを」
隣の部下にボードを用意させると、レグラリオはそのボードに地図は貼った。
大きく簡潔に書かれていてとても分かりやすい。
「では、改めまして。固有名詞の説明から致しましょう。この城下町には四方向に巨大な門が配置されています。東、西、南、北の門をそれぞれ『太陽の東門』、『太陽の西門』、『太陽の南門』、『太陽の北門』と呼びます」
「遠征から帰ってきたら王国の設備を見学したらどうだ」
国王が言う。
「あ、はい。是非お願いします」
四人ともワクワクな顔をしていて、海王が国王へ返答した。
「続きまして、『オーリス橋』について少々説明いたします。この橋は東の商業大都市『ルーベル』に続く橋となっていてクラソルテ王国内を走る大河『クラソルテ川』に架かっています」
レグラリオが地図を指しながら説明を続ける。
「この計画の指針は「単純な冒険力をつけること」でございます。このルートは、道がずっと単調で帰り道も同じなので移動に関しての問題はさほどありません。それに魔物もあまり多くない場所ですので積極的に戦闘を行おうという意図はあまり含まれていません。しかし、未だこの王国を歩いたことのない皆さまに「単純な移動がどれ程厳しいものなのかということ」を分かっていただくのには最適のルートだと思います。このルートには『ルーベル』まで街がありませんので、約1時の間、予め持って行った食糧と途中のサバイバルだけで乗り切っていただくことになります」
度量衡に関することについては、四人は既に説明を受けているので刻や時、陽と言った言葉に惑わされることはない。
「なるほど、それは確かにきつそうだな」
と西治が声を漏らす。そう、十日ものあいだサバイバル兼移動をするとなれば、相当の体力と精神力が必要だろう。それに魔物が出ないという訳でもない。シンプルながら中々に歯ごたえのありそうなプランだ。
「でもやりごたえはありそうじゃん?」
「そうかもな」
「疲れそうだよね~」
それぞれ感想を言い合う。
「皆さま、内容の吟味はよろしいでしょうか。では第二のプランを説明させていただきます。第二のルートは南の交易都市『アクシア』まで行っていただき、帰りは途中にある小村に寄り、迂回して戻ってきていただきます。『アクシア』までは小さな街がいくつかありますがそれらを利用していただいて構いません。しかし『アクシア』に辿り着くには『リベイラルの森』という大きな森を超えていただかなくてはなりません。森というものは旅にとって相当厄介なものです。ここで敢えては申し上げませんが、懸念すべきことが沢山ありますので、ご注意下さい。このルートの重点は「危機管理と状況把握、処理」ですので。また、帰りは違うルートを辿っていただくので様々な景色が楽しめる、というのもポイントです」
地名が沢山出てきて少し混乱してしまうが、幸い地図があるので視覚的に捉えることができる。
この案についても四人で少しずつ意見を出し合い、一応のまとまりはついたようだ。
「では続いて最後の案です。三つ目のルートは西の工業都市『カウェルス』まで行っていただき、そこの中にある闘技場で少しの訓練をしたのち、少しルートをずらして戻ってきていただくようになっております。このルートにおける重要なことはずばり「バランス」です。この案には移動や戦闘、交渉など、旅に必要な基本能力から応用能力まで、バランスよく用意させていただいたつもりです。『カウェルス』までの道には『リベイラルの森』ほどではありませんが小さな森がありますし、『カウェルス』付近の『デドルジア湿地帯』には少々強力な魔物が出現することもあります。ですのでクラソルテ王国西側というのはそれなりに危険な地域なのです。故に西地域には戦闘系に特化した様々な人種が暮らしており、非戦闘系の一般人は殆ど暮らしていません。勇者様方の実力ならば決して遅れを取ることなどありませんが、「慣れる」という意味では最適かと思います。冒険らしい冒険が一番実現できるのはこのルートだと思います」
レグラリオが分かりやすく三つのプランを紹介した所で、ふと西治が疑問の声を上げた。
「あのー、何か遠征っていうから超大きい感じなのをイメージしてたんすけど、結局このクラソルテ王国から外には出ないんすね」
確かにその通りだ。遠征というと侵略のイメージも含むから隣国くらいにはいくと思ったのだろう。
「はい、本来の大規模遠征ですと、無権領域や隣国への「親善訪問」として国外に出ることもありますが、このクラソルテ王国は南のレノクターン王国と並んで、二大王国となっております。それ故に国内と言えどもその広さは大陸の一部を占めるほどです。国外に出るのは相当の資金が必要な上危険ですので、初めてとなる今回の遠征では、軽い国内探検とでも思っていて下さい。勇者様方のお力であれば、楽しむ余裕も生まれるでしょう。ですが、楽とは言っても、それなりに危険な所もありますので、重々お気をつけて下さい」
「ああ、なるほど。了解っす。確かに最初から何か月も戻って来ないんじゃ危ないよな」
「そうだな――よし、じゃあみんな。どの案にするか決めよう」
海王が仕切り、四人の検討が始まる。
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「私は、勇者……」
大地に立つ、明日木白邪。
「私は、白勇者……」
辺りには、怪物の死体。
「私は、最強になる為――」
濁ったような色の液体が散乱する、枯れた草原。
「私は、綺慧瑠君に、会う為――」
白邪の左手に一回り大きなバタフライナイフが握られる。
「私は――」
白邪の体を光が包み、彼女は純白に輝く服を纏った。
「王国に、行こう」
勇者の千里眼 クラソルテ王国の位置
ここより東―――――――
「探しに、行こう――――空絶」
神速と共に、風を切る。
明日木白邪
LV 800
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「三つ目のプランにしようと思います」
十数分の論議の末、海王がそう告げた。
「何か一番面白そうだしな」
「やっぱり楽しいのが一番だよね~」
「そうさそうさ!」
最終的には満場一致だったようである。
「……ふふふ。勇者様方は中々活気に満ち溢れておられる。これならば、何の心配もいりませんね」
無事遠征内容が決まった海王達一行は、計画が予定通りに進むということを信じて疑わない。




