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19、状況説明 ~ただし俺も分かってない~

「キ、キエルさん……! どこですか……!」


 偽ミロのヴィーナス像の所まで戻ってきたミネルはキエルがいないことに気づく。せっかく勇気を振り絞って川を探しに行ったのに、川は見つからないわ、キエルはいなくなるわ、災難である。


 加えて、護身術の為に学んだ薙刀も、その薙刀がないのでは使うことができない。もしここで野生の獣に襲われでもしたら――


 そう思うと、ミネルは心臓が締めつけられるような気がした。


 鼓動が早くなっているのが分かる。


 草木が揺れただけでいちいち足を止めて辺りを確認してしまうミネルは正に怯えた小鹿のようで危なっかしい。もしキエルが見ていたらこの様子を「超可愛い」と評するだろう。


 それ程怯えながらも、キエルを探しにミネルは森を歩き回った。


 本当は像の前で待っていろと言われているのだが、ミネルはてっきり、それはただの迷子防止の為で、キエルが先に待っているものかと思っていたのである。そうでなくとも、少ししたらキエルが帰って来るものだと思っていたのだった。


 しかし、いくら待っても戻って来ない。


 一人で立ち止まって待っているほど、怖いことはなかった。


 それならばまだ歩いて探しにいった方がましだ。


「キ、キエルさーん……」


 呼びかけてはみるものの、やはりいない。


 果たして、こちらの方角で合っているのだろうか。もしかするとキエルは反対側に行ってしまったのではないか。


 もしかして、自分は捨てられてしまったのではないだろうか。


「そ、そんな……」


 ただの妄想ではあるのだけれど、ミネルは自分が捨てられたということを何故か強く信じ込んでしまっていた。


 ……確かに、ミネルは可愛い生き物のかもしれない。





       ――――――――――★――――――――――






「この変態が!」


「ちょっ、ストップ、ストップ! そんな暴れたら危ないから!」


 急にフィルナが暴れ出した。何? 俺が悪いの?


「待つも何もあるかぁ!」


「いやいや! 俺は待っててあげたじゃない! フィルナが気づくのを待っててあげたじゃない!」


「それを怒ってるんだよ!」


 いやあ、こんな美しい声で罵倒されるのは、うん、悪くない。……Mじゃないよ?


 が、真っ白な肌を赤く染めている辺り、本当はかなり恥ずかしいのだろう。何だ、少し悪いことしちゃったかな。


「わ、分かった、分かった。ひとまず落ち着いて」


「……」


 俺が両手を抑えて落ち着かせると、案外素直になった。


「いや、あのね? 俺は森を歩いていた訳よ。水を求めてね。それでここへ辿り着いたら何と、先客がいるではありませんか。それで、その人は随分とリラックスして水浴びをしているのですよ。そうしたらやっぱり邪魔する訳にもいかないでしょう? だけど俺だって水を飲みたい。さてどうしましょうか。……うん、まあ、裸を見たのは悪かったよ」


「言い訳にもなってないぞ!?」


 何か逆に驚かれてしまった。


「そうなんだけどさ。ほら、偶然とは言え女性の裸を見てしまったのだから、やっぱりお咎めなしっていうのは良くないと思うの。だから、まあ、いくら見ても同じかな、と」


「余計悪いわ!」


 また怒られてしまった。


「いやいや、だからごめんって。でも俺、堂々とフィルナのほぼ目の前に立ってたのに、気づいてもらえなかったんだよね。素で。普通に立ってたのに、気づいてもらえなかったんだよね。おいおい、どうしてくれるんだ?」


「な、何故逆ギレされなくてはならないのだ……」


 今度は少し戸惑う様子のフィルナさん。うん、こういうのも、ありだ。


「まあ、それは冗談として。フィルナは何でこんな森にいたんだ? なんかあのおっさん達に追われてたみたいだけど」


 ちょっとした話題転換をして、相手の情報は引き出してみることにする。


「あ、ああ。私は盗賊だからな。ああして追われることもある」


 先程とはまた違う意味で、フィルナは恥ずかしそうにした。そのあどけない感じからして、やはりまだ少女と言えるだろう。(うん、やっぱり体は大人だが)


 え、これはもしかして「私って盗賊なの、かっこいいでしょ」的な意味での照れなのか? 確かにさっき誇りを持っているとか何とか言っていたような気がするし。


「そうか。盗賊なのか。仲間はいないのか?」


「仲間は……いた。いたが、もういない」


「ああ、そうか。何かごめん」


 これはどの世界でもある裏の事情というやつだろう。スパイ、賊、秘密結社。そういう集団は表社会で恵まれない境遇であった者が多い。そうして仕方なくそこに落ち着いた者が多い。だからこのフィルナも、きっと複雑な過去を持っているのかもしれない。


 対立勢力との衝突や、仲間の死や裏切り、そういう辛い過去を背負っているのだ。


「ああ、いや、ちょっと仲間とそりが合わなくてな。抜け出した」


「いや軽っ!」


 ただの一匹狼でした。


 それでも、仲間同士のいざこざとはよくあるものだ。


 もしかしたらその「そりが合わない」というのも、結構深刻なものなのかも。


 そう思うと安易には聞けない。


「だが今はいる」


「いやどっちですか」


「今はたまたま一人でいるだけなのだ」


 よく分からんやつだ。


「……それで……あのおっさん達から何かを盗んで追われていた、と。はあ、フィルナも中々大変な人生を送ってますねぇ」


 ちょっと同情してしまった。これっていわゆるストリートチルドレンと同じ部類なのではないだろうか。さぞ大変だったろう。はい、同情終了。


「さあ、私のことは話したんだ。キエル、お前のことも話してもらうぞ」


「え、だから俺は偽物の勇者です」


「意味分からないし!」


 ちょっといじけた風に言うフィルナ。ああ、確かに意味分からないかもしれない。偽物の勇者ってつまり勇者じゃないんだから、「俺は勇者じゃない」と伝えているようなものである。そんなの、この世の殆どの人間が勇者じゃないのだから、自己紹介になっていない。


 ただ、俺の場合「偽物の勇者」という肩書は本物だから困る。


「うーん、ああ、そうだ。『魔王戦』って知ってるか?」


 俺の境遇をどう説明すればいいか迷った為、まずは大前提から振ってみた。


「え? ああ、まあ、伝説ではよく出てくるが……」


「え、伝説だけ?」


「何と言っても千年に一度だからな。私は実際に見たこともない」


 少し寒そうにしながら、フィルナが答える。


「まあそりゃそうか。でも、その千年に一度がもうそろそろ来る」


「……何?」


「伝説では、千年に一度『魔王』が表れ、『黒勇者』と『白勇者』がそれぞれ討伐にあたる、って感じだろ?」


 俺の認識が正しいかどうか、一応確認してみる。


「ああ、皆お伽噺のように聞かされているな。というか、キエルも聞いたことはあるはずだろう」


 俺がこの世界の人間ではないということを知らないフィルナはそう返した。


「まあ、そうなんだが、その『黒勇者』と『白勇者』は異世界より召喚される、そうだろ?」


「ああ」


「で、召喚されたのがこの俺、という訳だ」


「……?」


 なるべく筋道を立てて説明したつもりだったのだが、通じなかっただろうか。


「キエルが、勇者、ということか? ……どっちの勇者なんだ」


 案外、フィルナは物分りがいいらしい。さっき会ったばかりの人間の言うことを信じるとは。この世界の人間は素直な人が多いのかな。


「偽」


「本物か偽物かを聞いているのではない!」


「いやいや、本当なんだって。何かね、レノクターン王国だっけ? そこの猿なんとかっている王様に召喚されちゃったんだけど、どうやら俺、偽勇者らしいんだよね」


「本当に、偽、なのか」


「いやだから本当じゃなくて偽です。偽勇者です」


「…………悪いが言っている意味が分からない」


 まあ、そうでしょうね。だが俺は追い打ちをかけるようにまた難解なことを説明する。


「加えて『実況者』の称号も獲得した」


「……?」


何を言っても伝わらないらしい。ならば。








「『魔王戦』開始まであと360刻。これは確かだ」


「な、何!?」


 最近になってアクセス解析という存在を知りました。


 見てみるとなんと、PVが一万を超えているではありませんか。開始から一週間程でこれだけの方に見ていただけているとは、感謝感謝です。


 どうかこれからも見捨てないで見守って下さい!((+_+))

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