13、火焔鈍器 ~食らえ、これが俺の必殺技だ!~
いや、水自体は一応買ってきてあるのだけれど、やっぱりそこにあるのならそこのを使ったほうがいいじゃん? 今荷物として持っているのはあくまで貯蔵用な訳で。
だからこうして暗闇の中、ハリポタ風に手にライトをつけて歩いているのだが、俺にはせせらぎの音を聞き分ける能力とか特にないので適当に歩き回るしかない。
森に入る前にギリギリ見えたような川の位置としてはこっちであっているはずなので、今はそれを信じて探してみる。
もう小鳥の囀りは聞こえない時間帯なので音はせいぜい自分の足音くらいなのだが、いくら耳を澄ましてもその他の音はたまに葉っぱが擦れる音くらいである。
これだけ静かなら水の音くらい聞こえそうなものだが……
とそこで、何やら今まで聞かなかったような音が聞こえた。
えっと、何と表現したら良いのだろうか。
そう、あれだ。
グルルルルッってやつ。えーっと、何の時に使う音だっけ。そうそう確か獣の声とかによく使われるんだったけ。
いやあでもあのグルルルッて何か凶悪な感じがするけれど、実際に聞いてみると確かにグルルルッって感じに聞こえるんだね。
ほら、擬音語って案外本物を聞くとそう聞こえなかったりするでしょ?
ミ○ルゲだってユラァー! って聞こえないじゃん。おんみょーん! じゃん。
だからこの場合もグルルルッと聞こえなくてもいいのだけれど、どうやらこの音に限って言えば本当の音に忠実だったという訳で――
「ってそんなどうでもいいこと考えてる場合じゃねぇ!」
叫ぶと同時に数体の狼らしき生き物が俺目がけて飛びかかってきた。「らしき」というのは、そいつらの正体が分からないからである。
四本脚なのは分かるが、光源は俺の指に灯る微かな光だけだ。相手の姿などはっきりとは見えない。
慌てて逃げ出すが、これはもしかしたら戦闘のチャンスなのではないだろうか。
「……よし!」
俺は獣達と少し距離を取った所で(どうだ、速いだろう)獣達の方に振りむいた。
「食らえ! 氷の刃をお見舞いだ!」
俺は氷の刃を何本も思い浮かべた。いやだって炎とかだと森が燃えちゃうから。
想像通り鋭利な刃を作り出すことに成功し、それはそのまま獣達へと突き刺さる。
どうだ。俺のATKはそれなりにあったはず、このくらいの攻撃でも一撃だろう――
「って全然効いてねぇ!」
獣達は少し怯んだだけでまた追いかけてきた。
「くっ! だったら!」
今度は闇のイメージだ。
敵を包み込み死を与える闇の奔流をイメージするんだ……
「おらっ!」
するとやはり、イメージ通りいかにも闇っぽい魔法が繰り出される。その力は獣達を死に――
「ってやっぱり全然効いてねぇ!」
逃げ出した。
おいおい、何なんだよ。全然効いてねえじゃんかよ。
やっぱりあのステータスは当てにならないのか! 何かあのカウンターとかも意味分からないし!
気になってもう一度見てみる。
名前 煌々川綺慧瑠
LV 多分1だけどもう少し上げてやっても良い。
HP 200/800000
MP そこそこあるかもしれない。
ATK 14
DEF メンタルの強さによる。
MAT 0(十億の位を四捨五入)
MDF メンタルの強さによらない。
SPD 脱兎の如く?
LUK 5段階で言う所の2だと思うんだけどねえ?
EXP 経験値ってあんまり当てにならないよね。ほら次のレベルまであと何々とか教えてくれる訳でもないし。そんな訳で経験値は記載する理由がないけれど強いて言うのならだいたい50くらい
特性魔法 マジックミラー 魔法のカウンター
F・Fカウンター 物理のカウンター
D・D・ディストーション その他のカウンター ※カウンターは20になってから!
薄影 影が薄い(笑)
まだまだあるよ!
※ステータスは変更される可能性があります。
JOB 偽勇者(仮) 実況者
な、何か色々変わってるっ!
前に見た時のATKの高ステータスは何処に行ったんだよ! あ、でも魔法はMATの方を参照するのか。ということは十億の位を四捨五入している信憑性ゼロのステータスに依っているということである。ちっ、しくじったぜ。
っていうか、SPDはただの現状説明だろうが!
何かカウンターには「飲酒は二十歳になってから」みたいな追記がされているし、薄影には(笑)がついているし、随分馬鹿にされたものである。
※ステータスは変更される可能性があります。
こ、こいつのせいか!
くそ、めんどいぞこれは!
何せ俺自身のステータスは固定化されないのだから。
それは勿論強い時はいいかもしれないけれど、急に弱くなったら終わりじゃねえか。
「ぐっ!」
そんなツッコミをステータスに向けて行っていたら獣の内の一匹に腕を噛まれてしまった。
思わず苦痛の声が漏れる。
その痛みはあまりにもリアルだった。それも当然、ここは決してゲームの世界などではないのだから。
「燃え尽きろ!」
俺は噛まれた左腕に炎を宿し、獣を振り払った。
(癒せ、俺の左腕を)
そう念じると少しだけではあるが痛みが引いた気がした。
なるほど、治癒能力もレベル1って訳か。
こうなったら原始的な手段に訴えるしかない。
そう、レベルを上げて物理で殴ればいいじゃない。
この状況ではレベルを上げるのは無理なので、となればその辺の鈍器で戦うしかない。
俺は風の魔法で後ろに自分自身を大きく飛ばすと、周りに落ちていた少し大き目の石を拾った。
(鋭利な形に変われ)
そう念じると、ほんの少しだけ石が細くなり持ちやすくなる。ただ、俺の想像よりは遥かに弱弱しい武器である。
「原始の力を食らいやがれ!」
俺は獣の跳躍に合わせて鈍器を思い切り振った。
キュイーンというイヌ科の鳴き声と共に獣が怯む。
「よし! これなら、いける!」
な、なんと格好悪いのだろうか。
異世界に来て魔法まで多彩に使えるというのに野生の狗っころ相手に拾った鈍器で戦う、というこの有様。
こんなの絶対ミネルに見られたくない!
「おらーっ!」
元来臆病な俺は結構この状況を怖がっていたりする。だってグルルッっていう獣が四体もいるんだもの。
「グルルラララァッ!」
容赦なく、獣達が襲い掛かってくる。
あの、あなた達順番とか知ってますかね。そんないっぺんに来られても相手出来る訳ないでしょうが!
「ぶっ飛べこの野郎!」
少々はしたない言葉も出てしまうものである。
俺が石を振り回しているのか、俺が石に振り回されているのか、よく分からない状況ではあるけれど、使い慣れない魔法を使うよりはましな戦闘(?)になっていると思う。いや、別に鈍器を振り回して戦ったこともないけど。
「とうっ!」
終いには直接拳で殴るという「暴挙」にまで訴え出た。
石で思い切り殴り、その勢いで転がって獣達の攻撃を躱し、一番隙のある個体に素手で殴りかかり、すぐさま石を取って防御の体勢に入る。
この繰り返しにより、俺は四匹の獣と互角に戦っている。
流石俺! と自分で自分を褒めてみても誰にも見られていない為意味がない。
こういう逆境になると格好つけたくなるのは男の性だから仕方ないとしても、やっぱり誰も見ていないのでは格好がつかない。
「おらおらおらおらっ!」
このループに慣れてきた俺は、森に着火しない程度の小さな炎をつけて獣を牽制するという小技まで身につけた。うん、やはり限られた力だからこそ発揮できる知恵というものもあるよね。
「ていっ!」
鈍器の投擲まで身に着けた俺はついに一匹を撃退することに成功した。
足を引きずって逃げていったのだ。
何か少し可愛そうな気もしたが、何、襲ってきたのは向こうである。正当防衛だ。
俺が使う武器は、石という名の鈍器、小さな炎、自分の手、足、である。
それだけでよく頑張っていると思う。本当、誰か褒めて。
「おらっ! そろそろ帰宅の時間だ! 狗ども!」
手慣れてきた俺は炎のパンチとかやってみたりした。
かっこいいだろ、炎のパンチ。
「ギュイイイン!」
よしこれでもう一体撃退。
「さあ、お前ら二匹、どっちが粘れるか勝負してみろ!」
炎のパンチに続いて、俺の新技。その名も。
「火焔鈍器っ!」
炎を纏った鈍器(石)が見事、獣の一体に命中する。
「グルアァッ!」
その一体は衝撃によって地面に倒れ、その後ゆっくりと起き上って去って行った。
おお、すげえな、火焔鈍器。別に火炎土器ではないからそこの所は間違えないように。
火焔鈍器の威力に驚いたのか、もう一匹もクルクルとその場を数回回った後、そそくさと森の奥へと消えて行った。
「よ……よっしゃあ!」
俺、大勝利。
獣四体相手に大勝利である。
「な、何かすげえ満足感」
この世界に来て、初めて戦った感想だった。
ゲームの世界では自分の分身が戦っているけれど、実際に戦うのは全く異なるのだということを実感した。
確かに、本来戦いというものは好まれるものではない。紛争や戦争、そういう戦いには罪のない命まで巻き込まれている。
だけど、俺はこの世界に飛ばされてきた。
やはり、戦わなくては生きていけないだろう。
ならば、それを楽しむ心も必要だ。俺は彼らのようなステータスは持っていないけれど、こつこつと積み上げた知識と経験は、きっと無駄にはならないから。




