企画三題噺「文化祭、レム睡眠、カギ」
文化祭、レム睡眠、カギ 雛菊立夏
文化祭の準備中、仕事をしないで他人の邪魔をする人というのはよくいるが、宇山君はその典型例だった。
班ごとに文化祭の準備をするのだが、宇山君と同じ班になった美里は、溜め息を繰りかえしていた。3人班であるはずなのに、1人は用事で作業に来られず、宇山君は美里の邪魔ばかりする。
「宇山君は邪魔しかしないわけ?」
宇山君を睨みつけながら言うと、宇山君は悪びれず、にやにやと笑った。
「いやー、横雲さんがやりたそうだから。あ、横雲さんのスマホ弄ってもいい?」
「好きにすれば」
美里はそう言うと、崩れるようにその場に顔を伏せた。邪魔が入りながら1人で作業をすることは、決して楽ではない。体力、精神力共に、限界が近かった。昨夜も夜遅くまでパソコンのキーボードを叩いていたのだ。眠くて仕方がない。
それにしても、まさか宇山君がこんなに仕事をしない人だとは思わなかった。この作業が始まった時から今に至るまで、宇山君は終始勝手な行動ばかりしていた。美里のスマートフォンを好き勝手に操作し、美里をからかい、飽きるとゲームをし始める。
「横雲さん?」
宇山君の声が少し遠くに聞こえた。美里の意識が少しずつ遠のく。
――カシャッと音が聞こえ、レム睡眠中を彷徨っていた美里ははっと目を覚ました。目を開くと、目の前に宇山君のスマートフォンがあった。
「今、写真……」
「あ、横雲さんがぐっすり寝ているから、寝顔撮っちゃった」
今までも宇山君が自由すぎて嫌になったのは、1度や2度ではない。しかし、この瞬間ほど怒りと顔の火照りを感じたこともなかった。
「……人の肖像権を何だと思っていやがる!!」
美里の怒りを封じていた鍵が、カチッと音を立てた。