破れたタンバリン3
※心の病を扱っています。気の向かない方はスルーをお願い致します(__)
公園を朝もやが覆っていた。ベンチやブランコ、すべり台といった公園内にあるものが輪郭を無くしてたたずんでいる。
(……今日だったら大丈夫かな。うん、きっと大丈夫)
敬子は公園入り口から様子を伺った。かた手には、そのひらに乗りそうなほど小さなイーゼル。もう片方の手には植物画を描いたハガキサイズの紙がある。
ひとり絵画展覧会。心の病を得てから、知人に会う事すら難しいときを経た敬子にとっての大計画だった。
(大丈夫、わたしには出来る)
敬子は植物画をイーゼルに立てかけると、ベンチに腰かけた。
スズメの声が聞こえる。
症状がひどかった頃は、このスズメの声すら漠然とした不安の原因となった。
その頃を思えば成長したな、と敬子は思う。
趣味の絵画をもう一度やろうと思い、買いだしに行ったところは100円ショップ。
うん。編み物道具や絵の具やスケッチブック……100円ショップが無かったころには高価で手に入れることも難しい値段が付いていたな。
敬子はベンチに座りながらそんなことをぼんやりと考えた。
いろいろと参加したいことはある。主治医の先生もおっしゃっていたけど、無理をせずにゆっくりと。
家の中にこもってしまってはいけない。しかし、外に出て人と話す際に、症状が発生して相手に迷惑をかけてもいけない。
それならば、と考えたのがこのひとり絵画展覧会だった。
日展や絵画展に出すほどの技術は無いが、ささやかに街を彩っていたとある芸術の町を見習ってのことだ。
その街では絵画や音楽が日常のなかにあった。
パブやカフェに行けば音楽があった。絵画が飾られていた。
それをうちでもやろうと、敬子の住む町で一般絵画街なるものを作るプロジェクトが始動したと聞き、試しにこのひとり展覧会を行ってみたのだ。
30分ほど経っただろうか、朝もやが日光に吸い込まれ消え行くと、車の音が聞こえてきた。
(……今日の展覧会はおしまい。うん。今日はよく外に出られたほう)
絵を片付けて両手に持ち、敬子は自宅に帰っていった。