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笑顔

作者: 小鳥 歌唄

 森の中に、一軒の小さな家が在りました。その家の中には、5人の子供達が暮らしています。

 いつも元気な男の子、トビー。少し慌てん坊の女の子、エイミー。物静で臆病な男の子、マイク。気が強くてしっかり者の女の子、ミシェル。そしてもう一人。いつも笑顔を絶やさない女の子、マナ。

 子供達は、皆仲良く暮らしていましたが、マナだけは、他の皆とは少し違っていました。

 皆が一緒に遊んでいる時も、一緒に食事をしている時も、そして一緒に眠る時も、マナは少し離れた所から、皆をニコニコと笑顔で見つめているだけ。決して皆と一緒に、遊んだり、食事をしたりしませんでした。

 いつも一人で食事をし、遠くから皆が遊ぶ姿を、ただ見つめるだけ。夜眠る時も、少し離れた場所から、皆の寝顔をそっと見つめているだけでした。ニコニコと、いつも笑顔で。何よりマナは、一度も喋った事がありませんでした。

 そんなマナの事を、他の皆は少し気味が悪いと思い、余り話し掛けようとはしませんでした。

 トビーが言います。

 「マナは何を考えてるのか分からないから、不気味だ。」

 すると、エイミーも言います。

 「マナはきっと、何かを企んでいるのよ。」

 今度はマイクが、小声で言いました。

 「マナは僕等が寝ている時、呪いをかけているんだよ。」

 それを聞いて、ミシェルが言います。

 「馬鹿馬鹿しいわ。マナは恥ずかしがり屋なだけよ。」

 ミシェルの言葉に、トビーは噛み付く様に言いました。

 「だったら、明日皆で木の実を摘みに行く時、ミシェルがマナを誘えよ。」

 「いいわよ。簡単よ。」

 自信満々で答えるミシェルに、エイミーとマイクは、不安そうにお互いの顏を見つめます。

 「話し掛けて大丈夫?一度ミシェルが話し掛けようとした時、マナは逃げ出したじゃない。」

 心配そうな顏でエイミーが言うと、マイクは不安気な顏のまま、続いて言いました。

 「そうだよ。きっとマナは、呪いをかけているのがバレたと思って、逃げ出したんだよ。」

 ミシェルは二人の言葉を鼻で笑うと、更に自信満々な態度で言います。

 「だから、マナは恥ずかしがり屋なだけだって言っているでしょ?今度はマナが怯えない様に、優しく話し掛けるから大丈夫よ。あの時は少し口調が強かったから、逃げ出してしまったのよ。」

 「よし、だったら明日、ちゃんとミシェルがマナを誘えよ。」

 再び噛み付く様にトビーが言うと、ミシェルは大きく頷きました。

 

      ◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆

 

 次の日の朝、皆は木の実を摘みに行く為の、仕度をしています。

 相変わらず、少し離れた所から、皆の様子をニコニコと笑顔で見つめているマナ。そんなマナの元に、ミシェルはそっと近づきました。

 「マナ、貴女も一緒に行かない?」

 ミシェルはニコリと小さく笑いながら、優しい口調で言いました。

 マナは笑顔のまま、少し首を横へと傾げると、その後更に笑顔を見せ、小さく頷きます。

 「そう、行くのね。よかった。」

 マナの言葉の無い返事を聞き、ミシェルは嬉しそうに微笑みました。

 ミシェルは他の皆の所に戻ると、自信満々な態度で言います。

 「マナも一緒に行くわ。ほら、今度はちゃんと誘えたでしょ?マナも逃げ出さなかったわ。」

 自慢げに言うミシェルとは裏腹に、マイクは不安そうな顏で言いました。

 「本当にマナも一緒に来るの?大丈夫かなぁ・・・。」

 「何が大丈夫なの?」

 不思議そうにエイミーが尋ねると、マイクは声を小さくして言います。

 「ほら・・・呪いが・・・。」

 少し離れた所で仕度をしているマナを気にしながら、ヒソヒソと内緒話をする様に言ってくるマイクに、トビーは大笑いをしました。

 「はははっ!お前は本当に臆病者だな。呪いなんて馬鹿げたモノ、ある訳ないだろ。」

 大きな声で、笑いながら言うトビー。慌てるマイクを余所に、ミシェルも可笑しそうに笑い出しました。

 「だから、マナは恥ずかし屋なだけよ。」

 「でも、何を企んでいるのか分からないわ。流石に呪いは無いと思うけど。」

 エイミーも、クスクスと小さく笑います。

 「そんな事より、早く行かないと日が暮れちまう。夜の森は危険だ。出発しよう!」

 笑うのをピタリと止め、トビーが元気よく言うと、他の皆も笑い声を止めました。

 「そうね。早く出発しましょう。」

 ミシェルはマナも仕度を終えた事を確認すると、早速皆で木の実が生っている森へと、向かう事にしました。


       ◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆


 バックの中には、パンとクッキーと水が入った水筒。それから木の実を入れる袋に、怪我をした時に塗る薬草。狼を追い払う為の空砲銃を、肩にぶら下げたトビーが先頭に、向かうは赤くて甘い実が生る森の奥。

 森の奥は、家の周りの木よりも大きな木が沢山生え、右も左も同じ様な景色ばかり。迷路の様な森の奥に迷わないよう、二番手のエイミーが、可愛い赤いリボンを木の枝に縛り、帰り道への目印を付ける。帰る時は、リボンを拾いながら帰るのが、いつものやり方。

 今日もエイミーは、途中途中、木の枝に赤いリボンを付けて行きます。しかし、今日はいつもと違って、マナも一緒。皆が木の実を摘みに行く時は、マナは笑顔で見送るだけでした。

 「いい?この赤いリボンを目印に、帰るのよ。」

 初めて木の実を摘みに行くマナに、ミシェルは優しく教えます。

 「それから、狼が出たらトビーを呼ぶのよ。トビーが追い払ってくれるから。」

 ミシェルの説明を聞いて、マナは笑顔で頷きました。

 「リボンは取らないでね。私が取るんだから。」

 横からエイミーが言うと、マナはまた笑顔で頷きます。

 「いいか、狼が出たら走るなよ。走ったら追い掛けて来る。走らずに俺を呼ぶんだ。」

 トビーも言うと、マナはまた笑顔のまま頷きました。マイクは少し怯えながら、マナの後ろを無言で歩くだけです。

 いつもなら、マナは少し離れた所で皆を見ているだけですが、今日はマナは皆の近くに居ました。その事が、皆はとても不思議で、妙な気分になってしまいます。いつもと違う環境に、違和感を覚えていました。

 「きっと良くない事が起きる・・・。」

 誰にも聞こえない位小さな声で、マイクはポツリと呟きました。


       ◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆


 目的地へと到着をすると、皆は一斉に周りを見渡しました。

 大きな木々の間から、赤い実が付いた小さい木々が、沢山生えています。

 「よかった、沢山有る!まだ小鳥達に採られてなかったね。」

 嬉しそうにエイミーが言うと、トビーも嬉しそうな顏で、元気よく言いました。

 「よし!皆袋一杯持って帰るぞ!」

 皆は一斉に、赤い木の実の飛び付き、次々と実を摘んで集め始めます。時々摘み食いをしながら、黙々と集めました。マナもニコニコと笑顔で、木の実を摘んでは、袋の中へと入れていました。

 赤い木の実は、そのまま食べても甘くて美味しい実です。だけどお鍋でグツグツと煮て、ジャムにするともっと甘くなり、パンに塗って食べるととても美味しく、皆の好物でした。だから皆は、沢山沢山集めます。

 集めていると、皆は徐々に離れた場所へと、移動をし始めました。木の実は採ってしまえば、無くなってしまう。だからまだ実が生っている場所へと、移動をするのです。

 気付けば皆、バラバラの場所に居ました。

 「おーい!皆大丈夫かー!」

 大きな声で、トビーが叫びました。

 「大丈夫よー!」

 ミシェルも大きな声で、返事をします。続いて、エイミーとマイクも、大きな声で返事をしました。

 姿は見えませんが、声はちゃんと聞こえるので、それ程遠くへは行っていない事が分かり、トビーはホッと安心をします。しかし、マナだけ返事が無い事に気付き、トビーは少し慌てた様子で、マナの名前を叫びました。

 「マナー!マナー!どこに居るー!」

 何度マナの名前を呼んでも、返事が帰って来ません。トビーはマナを探そうと、キョロキョロと辺りを見渡します。すると、少し離れた木々の間から、ヒョッコリと一本の腕が飛び出して来ました。

 「マナか?」

 トビーは腕が飛び出ている所まで走って行くと、そこには嬉しそうな笑顔で、袋一杯に木の実を詰めている、マナの姿がありました。

 「マナ!何度も呼んだだろ!返事くらいしろよ!」

 ムスッと膨れた顏をして、トビーが言うと、マナはニコニコと笑顔で、袋を差し出して来ました。袋は今にも弾けそうな位、パンパンに膨れ上がり、中には木の実がギッシリ詰っています。

 「凄いな!お前1人で集めたのか?」

 怒っていた筈なのに、袋一杯の木の実を見たトビーは、驚きながらも嬉しそうに言いました。マナが笑顔で頷くと、トビーは更に嬉しそうに、ハシャギ始めます。

 「凄いな!凄いな!こんなに一杯、もう集めたのか!ジャムが沢山出来るぞ!」

 トビーはその場でピョンピョンと飛び跳ねると、ぶら下げていた空砲銃を、高く掲げました。そして勝利の雄叫びの様に、勢いよく引き金を引きます。

 ドンッと言う銃声が森中に響いた瞬間、木々の間に隠れていた鳥達が、一斉に羽ばたきました。

 銃声を聞いた、エイミーとマイク、それにミシェルは、ピタリと手が止まり、慌てて周りを見渡します。

 「狼だわ!狼が出たんだわ!」

 エイミーは急いで袋を担ぐと、最初に居た場所へと走って戻ろうとしました。

 「狼だ・・・。ど・・・どうしよう・・・。」

 マイクはその場に腰を抜かしてしまい、身を隠そうと、近くの茂みの中に、ズルズルとお尻を引き摺って隠れました。

 「狼?いいえ、声がしなかったもの。きっとトビーがハシャイで撃ったのね。」

 ミシェルは呆れた顏をすると、再びその場で、木の実を摘み始めます。

 3人は、それぞれ違う行動をしました。


       ◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆


 急いで戻ろうと、必死に走っているエイミー。しかし、途端にその足は、ピタリと止まりました。

 「あれ?ここ、どこ?」

 慌てていたせいか、気付けば見覚えの無い場所にいる事に、気付いたのです。

 「どうしよう、反対方向に走っちゃったのかな?」

 エイミーはキョロキョロと辺りを見渡し、目印の赤いリボンはないかと、探しました。しかし、どんなに見渡しても、見えるのは大きな木ばかり。茶色と緑色しか目には映らず、赤いリボンどころか、赤い実さえも見当りません。

 「そうだわ!来た道をまた戻ればいいのよね!」

 エイミーは再び走り出し、来た道を戻ろうとしました。途中赤い色はないかと、探しながら。

 しばらく走っていると、遠くの方に、赤い色を見付けました。その瞬間、エイミーは笑顔になり、安心します。

 「見付けた!あそこね!」

 勢いよく、遠くに見える赤い色を目掛け、走りました。赤い色だけを見つめ、走って、走って、走っていると、突然地面が無くなりました。

 「え?」

 気付いた時には、エイミーの体は、真っ逆さまに落下していました。エイミーは宙を舞いながらも、必死に目に映る赤い色を掴もうと、手を伸ばします。しかし、下に落ちるに連れ、赤い色はどんどん遠ざかって行きました。そしてどんどん、大きくなって行きます。

 エイミーの体が空へと向いた瞬間、エイミーは赤い色の正体を知りました。

 「なんだ・・・。太陽だったのね・・・。」

 気付けば太陽は傾き、夕日になっていました。夢中になって木の実を集めていたせいで、時間を忘れていたのです。エイミーが見た赤い色は、夕日に照らされた空の隙間でした。

 赤い色だけを見ていたエイミーは、足元を忘れてしまい、崖から落ちてしまいました。崖の下には、エイミーの真っ赤な血が、太陽の様に丸く広がりました。


       ◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆


 太陽が傾いている事にも気付かず、ミシェルはまだ頑張って、木の実を集めていました。お昼のパンを食べる事も忘れ、一生懸命集めています。すると、とたんにお腹がグーグーと鳴る音がしました。

 「そう言えば、お昼をまだ食べてなかったわね。」

 初めてお腹が空いている事に気付くと、ミシェルは少し一休みをしようと、バックの中からパンを取り出します。

 「他の皆はちゃんと食べたかしら?」

 皆の事を気にしながらも、ミシェルはその場に座り込むと、美味しそうにパンを食べ始めました。水筒を取り出し、水も飲むと、最後にクッキーを食べます。

 「美味しかった!」

 お腹が一杯になり、満足そうに微笑むと、再び木の実を集めようとしました。すると近くの茂みの中から、ガサガサと物音が聞こえてきました。ミシェルは不思議そうに、物音がした茂みの方を見つめます。しばらく見つめていると、またガサガサと、物音が。

 「さてはトビーね。」

 トビーの悪戯だと思ったミシェルは、呆れた顏をしながら、強い口調で言いました。

 「トビー、いい加減にしなさい。さっきも銃を撃ったでしょう?悪戯も過ぎると、怒るわよ。」

 茂みに向かって言うも、何の返事も帰ってきません。腹が立ったミシェルは、乱暴に茂みに向かって、水筒を投げ付けました。

 「トビー!」

 投げた水筒が、何かに当たった音がすると、ミシェルは再びトビーの名前を、怒鳴る様に呼びます。すると茂みの中から、トビーではなく、鋭い牙を向いた狼が、ゆっくりと姿を現しました。

 「狼!」

 ミシェルの顏は、真っ青になってしまいます。トビーだと思っていた物音は、狼が近づいて来ている物音だったのです。

 「鳴き声が聞こえなかったわ・・・。どうしよう・・・。」

 ミシェルは震えながら、その場にジッと身構えました。

 「トビーを呼ばなくちゃ・・・。トビー!トビー!!」

 ミシェルは何度も、大声でトビーの名を叫びました。しかし、どんなに叫んでも、どんなに呼んでも、トビーの返事は聞こえてきません。狼は鋭い目付きで、ミシェルの姿をジッと睨む付けています。

 「どうしよう・・・。水筒が当たったから、怒っているのね。ごめんなさい、ごめんなさい。」

 ミシェルは狼に向かい、必死に何度も謝りました。しかし、狼はミシェルを睨み付ける事を止めず、唸り声を上げています。その顔はとても恐ろしく、餓えた表情でした。

 狼の表情を見て、ミシェルは辺りが薄暗くなり始めている事に気付くと、ハッと足元に落ちている、パンくずに目をやりました。

 「もう狩りの時間。パンの匂いのせいで・・・。」

 狼が狩りをする時間に、香ばしいパンを食べてしまったせいで、匂いに釣られてやって来た事に、ミシェルは気付きました。そして空腹の狼に、水筒を投げ付け怒らせてしまったのです。

 「そんな・・・。だって声がしなかったもの・・・。」

 狼は勢いよくミシェルに飛び付き、鋭い牙で、ミシェルの喉を噛みちぎりました。そのままミシェルは、狼に食べられてしまいました。


       ◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆


 ずっと茂みの中で、体を真丸くさせて隠れていたマイクは、トビーの名前を叫ぶミシェルの声を聞きました。その叫び声を聞き、マイクは益々怯えてしまいます。

 「やっぱり・・・狼だ・・・。狼が出たんだ・・・。」

 怖くて、その場から動く事が出来ないマイク。それでも何とかして、皆の元へと戻ろうとしました。1人薄暗い所に居る方が、もっと怖かったからです。

 マイクは恐る恐る、茂みの中から外の様子を窺いました。外はもうすっかり日が沈み、辺りは真っ暗になっています。

 「もう夜になってしまっている・・・。」

 暗闇が怖いマイクは、また茂みの奥へと隠れてしまいます。

 「やっぱり呪いなんだ・・・。マナの呪いなんだ・・・。マナなんかを連れて来たせいで・・・。」

 ブツブツと震えた声で呟いていると、遠くからトビーの声が聞こえてきました。トビーはマイクの名前を、必死に呼んでいます。

 「トビーだ・・・。迎えに来てくれたんだ。」

 マイクは嬉しそうな顏になると、一気に安心をし、急いで茂みの中から出ました。

 「トビー!」

 マイクは精一杯大きな声で、トビーの名前を呼びました。

 「マイクー!」

 マイクの声に答える様に、トビーの声が聞こえてきます。

 「トビー!ここだよー!」

 マイクは大声でトビーの名前よ呼びながら、両手を大きく振りました。

 マイクの姿に気付いたトビーは、勢いよく走って、マイクの元まで駆け付けます。トビーに見付けて貰えたマイクも、嬉しそうに走って、トビーの元へと行きました。

 「トビー!よかった!よかった!」

 トビーと会う事が出来て、マイクはポロポロと涙を流しながら、喜びました。しかし、トビーの顏は暗く沈んでいます。

 「トビー、どうしたんだい?他の皆は?」

 不安そうにマイクが聞くと、トビーは顏を俯けながら、言いました。

 「他の皆は・・・。」

 いつも元気なトビーが、珍しく暗い顏をしている事に、マイクの不安は更に大きくなります。

 「他の皆は・・・。死んでいたんだ。エイミーは崖から落ちていて・・・ミシェルは狼に襲われて・・・。」

 「そんな・・・。」

 トビーから知らされた2人の死に、マイクは大粒の涙を流しました。泣きながら、トビーに尋ねます。

 「何で?何で2人は死んでしまったの?木の実を摘みに行く事なんて、いつもの事だったのに・・・。慣れていた筈なのに・・・。」

 「分からないよ・・・。」

 俯いたまま答えるトビー。

 薄暗いトビーの後ろから、幽霊の様にマナの姿が見えると、マイクの心臓は飛び跳ねました。

 「マナ・・・。マナも居たんだね・・・。」

 震えた声でマイクが言うと、トビーは顏を上げ、小さく微笑みながら言いました。

 「うん。マナは俺と一緒だったからな。無事だったんだ。」

 「マナ・・・。」

 マイクの足は、ガクガクと震え始めてしまいます。

 「どうした?震えているぞ。」

 心配そうに声を掛けるトビーでしたが、マイクの耳には届きません。マイクはただ、ジッと、震えながらマナの顏を見つめているだけでした。

 「やっぱり・・・マナの呪いなんだ・・・。」

 怯えながら言うマイクの言葉に、トビーは半分呆れた顏をして言います。

 「お前、まだそんな事言っていたのか?呪いなんてもん、ある訳ないだろう。」

 するとマイクは、今までで一番大きな声を出し、叫びました。

 「だったら、何でマナは笑っているんだ!エイミーとミシェルが死んでしまったのに、何で笑っているんだ!!」

 怯えた瞳で見つめるマナの顏は、笑顔でした。いつもと変わらない、いつもと同じ、ニコニコと笑顔で、トビーから少し離れた場所に居ました。

 「何言っているんだ。マナが笑顔なのは、いつもの事だろう。こう言う奴なんだ。不気味だけどな。」

 少し戸惑いながらも、トビーは言います。しかし、マイクの体は更に震え、少しづつ後ろへと下がりながら言いました。

 「違うよ・・・。呪いが効いたから、喜んでいるんだ・・・。僕は・・・僕は死にたくない・・・。」

 そのままマイクは、後ろを振り向き、逃げる様に、その場から走り去って行ってしまいました。

 「マイク!どこに行くんだ!夜の森に1人は危険だ!!」

 慌ててトビーはマイクを追い掛けようとしましたが、真っ暗な闇が、マイクの姿をすぐに消してしまいます。何度マイクの名前を呼んでも、返事は帰ってきません。暗い森の中、トビーはマナと2人、取り残されてしまいました。

 茫然と佇むトビー。いつもと同じ様に、木の実を摘みに来ただけなのに、何故こんな事になってしまったのか、トビーには分かりませんでした。ただ1つ、違う事と言えば、マナも一緒に来ていると言う事だけ。しかし、マナは何もしていません。マナは誰よりも沢山、木の実を集めていただけでした。いつもの様に笑顔で。

 「どうして・・・。こんな事になってしまったんだ・・・。」

 ポツリとトビーが呟くと、後ろからマナに、肩を軽く叩かれました。

 「何だよ?」

 不機嫌そうに言うと、マナは笑顔で、トビーが肩にぶら下げている空砲銃を、指差します。

 「何だよ?不気味な奴だな。」

 無言で笑顔のまま、指を差して来るマナは、いつも以上に不気味に思えました。しかし、そこに言葉が加わると、何故かもっと不気味に思えてしまいます。

 「銃。」

 たった一言、マナは笑顔で言いました。

 初めて喋ったマナに、トビーは驚きます。マナに言われた言葉の事も忘れ、ただ驚きました。

 「お前、喋れるのか!だったらなんで返事をしなかった!」

 驚きながらも、怒鳴りつける様にトビーは言います。しかし、マナはトビーの言う事等気にせず、笑顔のまま、空砲銃を指差して、また言いました。

 「銃。」

 たった一言だけ。

 「銃が・・・何だよ?」

 笑顔で一言だけ言って来るマナが、とても不気味に感じたトビーは、少しマナの側から離れました。

 マナはニコニコと笑顔で、トビーの持つ空砲銃を指差し、首を少し横に傾けて言います。

 「貴方が撃ったせいで、皆死んじゃったね。マイクももう、帰って来れない。」

 今度は沢山。

 「撃ったって・・・。俺が銃を撃ったせいなのか?何で?どうしてだ?」

 トビーは今にも泣きそうな顏をしながら、マナに問い掛けました。それはマナが不気味に思えるからだけではなく、胸に不安を感じたからです。

 「マナは知ってるよ。沢山皆を見て来たから。知ってるよ。」

 ニコニコと笑顔で言って来るマナ。それからマナは、笑顔のまま、淡々話し始めました。

 「慌てん坊で赤い色が好きなエイミー。銃声を聞いて、狼が出たと思って慌てて逃げ出した。慌て過ぎて崖から落ちちゃった。臆病者で暗闇が怖いマイク。銃声を聞いて狼が出たと思って、怖くて隠れた。でも真っ暗になっちゃって、また怖くて逃げ出した。呪いだと勘違いして逃げ出した。しっかり者で気が強いエイミー。銃声が聞こえたけど、トビーの悪戯だと思った。ちゃんとお昼を食べて、しっかり休憩したけれど、本物の狼をトビーと間違えて食べられちゃった。いつも元気なトビー。元気過ぎて、日が暮れている事も気付かずに、マナの袋に大喜び。喜び過ぎて、空砲銃を撃っちゃった。ねぇ、皆が死んじゃったのは、誰のせい?」

 トビーはマナの話を聞いて、大粒の涙を流しました。流しながら、震えた声で言います。

 「俺のせいだ・・・。」

 マナは優しくトビーの頭を撫でると、笑顔で言いました。

 「そうだね。」

 マナはトビーの頭から手を退けると、そっとその場から離れて行きました。そしてトビーを残し、1人どこかへと行ってしまいます。

 残されたトビーは、泣きながら、ズボンのポケットに1つだけ入れていた、実弾を取り出しました。実弾を銃の中へと入れると、銃口を口にくわえ、そのまま引き金を引きました。森中に、再び銃声が響きます。今度は本物の、銃弾の銃声が。


       ◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆


 マナはニコニコと笑顔で、森の中を歩いていました。帰りの目印の赤いリボンを拾いながら、森の中を笑顔で歩きます。笑顔で、家へと向かいます。

 「マナは知ってるよ。いつも笑顔で皆の事を見ていたから。」

 ニコニコと笑顔で、赤いリボンを頼りに、家へと帰ります。

 「マナは知ってるよ。一番怖いモノ。」

 ニコニコと笑顔で、家へと到着をすると、誰も居ない家の中へと入りました。

 「マナは知ってるよ。ここはマナの家。皆はここに捨てられた子。」

 ニコニコと笑顔だったマナの顏から、初めて笑顔が消えました。初めて笑顔が消えたマナの顏は、無表情でした。

 「マナは知ってるよ。皆がパパとママを殺して、ここに居座った事。」


       ◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆+◆


 「マナは知ってるよ。笑顔が一番怖い事を・・・。」

 

ホラーかどうかは、微妙かもしれませんが・・・。

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[良い点] 文章が、童話っぽくていいと思います!
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