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婚約破棄された元OL悪役令嬢、コンサル知識で潰れかけのギルドを王国一に再建します  作者: 黒崎隼人


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第8話「復讐の終わり、そして赦し」

 法廷での劇的な逆転劇から数日後。王都は平穏を取り戻したかのように見えた。シュヴァルツ侯爵は、王城の地下牢に投獄され、厳重な監視下に置かれていた。彼の悪事がすべて白日の下に晒され、人々はヴァイスハイト家の勝利を称え、私のギルドの功績を讃えた。


 しかし、毒蛇は、追い詰められると最後の牙を剥く。


 シュヴァルツ侯爵は、護送される際、密かに通じていた看守の手引きによって、脱走したのだ。その報せが王城からもたらされた時、私は胸騒ぎを覚えた。彼のようなプライドの高い男が、このまま大人しく敗北を受け入れるはずがない。彼は、すべてを失った今、逆恨みから、自暴自棄な最後の抵抗を試みるに違いない。


***


 私の予感は、最悪の形で的中した。


 その日の夕暮れ、王都を、巨大な地響きが襲った。何事かと人々が空を見上げると、西の城壁付近から、黒い煙が立ち上っている。そして、地響きと共に、巨大な何かが、街を破壊しながら中心部へと向かってきていた。


「ゴーレムだ! 古代のゴーレムが動き出したぞ!」


 誰かの絶叫が響き渡る。


 ゴーレム。それは、古代文明が作り出した、魔法で動く巨大な兵器。王都の地下には、有事の際に備えて、一体のゴーレムが封印されているという伝説があった。シュヴァルツ侯爵は、その封印を解き、王都そのものを破壊することで、最後の復讐を果たそうとしたのだ。


 ゴーレムは、石と鉄でできた十メートル以上もの巨体を持ち、その腕の一振りで、家々を紙屑のように薙ぎ払っていく。街は、一瞬にしてパニックに陥った。逃げ惑う人々の悲鳴が、あちこちで上がる。王都の衛兵隊が応戦するが、彼らの剣や槍では、ゴーレムの硬い装甲に傷一つつけることすらできない。


「なんてことを……!」


 私は、ギルドの窓からその惨状を見つめ、唇を噛んだ。


 だが、絶望している時間はない。ギルドマスターとして、今、私が為すべきことは何か。


 私は、ギルドの屋上に駆け上がると、魔法で声を増幅させ、王都中に響き渡るように叫んだ。


「『白銀の獅子』及び、協力ギルドの全冒険者に告ぐ! 緊急招集を発令する! これはAランクの緊急クエストである! 王都の民を守れ! 動ける者は、直ちにギルド前に集合せよ!」


 私の声は、王都の隅々にまで届いた。それを聞いた冒険者たちが、武器を手に、次々とギルドの前へと集結してくる。人間も、獣人も、ドワーフも。その中には、レオニダスと『紅蓮の牙』の精鋭たちの姿もあった。


「イザベラ! 無茶しやがって!」


「レオニダス! 来てくれたのね!」


「当たり前だ! 仲間の危機に駆けつけねえで、何がギルドマスターだ!」


 森から王都を訪れていたシルヴァンも、杖を手に駆けつけてくれた。


「私も力を貸そう。あれは、古代の魔術で動いている。私の知識が役に立つかもしれない」


 そして、王城からは、アルフォンス王子が自ら近衛騎士団を率いて現れた。


「イザベラ! 被害状況は!?」


「殿下! ゴーレムは西から中央広場へ向かっています! 騎士団には、市民の避難誘導と、負傷者の救護をお願いします! ゴーレムの足止めは、私たち冒険者が行います!」


「わかった! 無理はするな!」


 私たちは、それぞれの役割を瞬時に判断し、行動を開始した。


「レオニダス! あなたの獣人部隊で、ゴーレムの足を狙って! その機動力を活かして、動きを止めて!」


「おう、任せとけ! 野郎ども、行くぞ!」


 レオニダスの号令一下、獣人たちが猛然とゴーレムに襲いかかる。彼らは、瓦礫をものともしない身軽さでゴーレムの足元に殺到し、斧や剣で関節部分を狙い、その進攻をわずかに鈍らせた。


「シルヴァン! 弱点はどこ!?」


「待ってくれ、今、魔力の流れを読んでいる! ……見えた! 首の後ろ、うなじの部分にある制御核だ! あそこを破壊すれば、動きは止まる!」


 シルヴァンの魔法が、ゴーレムの弱点の位置を光で示した。


「よし! 全員、弱点への集中攻撃を開始! 魔法使い部隊、援護射撃! 弓兵は目を狙って、視界を奪え!」


 私の的確な指示が、混乱していた現場に秩序をもたらす。冒険者たちは、一つの巨大な生き物のように連携し、ゴーレムに立ち向かっていく。


 魔法の閃光が走り、無数の矢が空を覆う。ドワーフたちが盾で仲間を守り、人間たちが巧みな剣技で攻撃を仕掛ける。


 これは、もはや単なる戦闘ではない。種族を超え、身分を超え、王都に住むすべての人々が、一つの目的のために心を合わせた、総力戦だった。


 私も、剣を手に前線に立った。仲間たちが作り出してくれた好機を逃さず、ゴーレムの足によじ登り、弱点である首筋を目指す。


 だが、その時、瓦礫の山の上から、狂的な笑い声が響いた。シュヴァルツ侯爵だ。彼は、ゴーレムを操りながら、高笑いしていた。


「無駄だ、無駄だ! この王都と共に、貴様らも滅びるのだ! 私からすべてを奪った、この忌々しい街も、人間も、すべてなぁ!」


 彼は、ゴーレムに私を狙うよう命令する。巨大な腕が、私めがけて振り下ろされた。


「危ない!」


 レオニダスが、私を突き飛ばしてくれたおかげで、直撃は免れた。しかし、その衝撃で、私はバランスを崩し、地面に叩きつけられてしまう。


 もうダメか、と覚悟した、その瞬間。


 ゴーレムの巨大な拳が、私の頭上でぴたりと止まった。見ると、アルフォンス王子の投げた槍が、ゴーレムの腕の関節に深々と突き刺さり、その動きを止めていた。


「今だ、イザベラ! 行け!」


 王子の叫びが聞こえる。


 私は、最後の力を振り絞って立ち上がり、再びゴーレムを駆け上った。そして、シルヴァンが示してくれた、魔力の集中する制御核へ、渾身の力を込めて剣を突き立てた。


「うおおおおおっ!」


 剣が、硬い装甲を貫き、核を破壊する。ズシン、という鈍い音と共に、ゴーレムの瞳から光が消え、その巨体は、動きを止めた鉄の塊となって、ゆっくりと崩れ落ちていった。


 歓声が、王都中に響き渡った。


 私は、崩れ落ちるゴーレムから飛び降り、シュヴァルツ侯爵と対峙した。彼は、すべてを失い、地面にへたり込んで、虚ろな目で私を見ていた。


「……なぜだ。なぜ、私の計画は、いつも、お前のせいで……」


 私は、ゆっくりと彼に近づき、剣を構えた。


 家族を、私の人生を、滅茶苦茶にしようとした男。彼を、この手で裁く権利が、私にはあるはずだ。


 しかし、彼の哀れな姿を見ているうちに、私の心を満たしていた憎しみが、すうっと消え去っていくのを感じた。この人を殺しても、何も戻ってはこない。ただ、新たな憎しみと悲しみが生まれるだけだ。


 憎しみの連鎖をこの手で断ち切ること。それこそが真の勝利なのだと、私は悟ったのだ。


 私は、構えていた剣を、静かに鞘に収めた。


「あなたの罪は、私が裁くものではありません。この国の、法の下で、正しく裁かれてください」


 そう告げると、侯爵は、まるで魂が抜けたように、その場に崩れ落ちた。


***


 復讐は終わった。


 朝日が昇り始め、破壊された街並みを照らし出す。その光は、復興への希望の光のように、私には見えた。


 私たちの街は、これから、また新しく生まれ変わるのだ。

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