第6話 エデラ・エリークの発見
温もりに包まれて、体の輪郭がブレる。包む温もりより、一段階高い熱源が首元から、肩にかけてゆっくりと降ってくる。
「……きっと……ある……」
子供特有の高さが、途切れ途切れ、俺の鼓膜を撫でる。熱源を追従するように、冷たい指先がなぞりあげる。
「むぅ、ん、? おおっ、フフフ、僕、天才〜〜」
こいつ、こんなキャラだったか。
「おえぇっ」
熱は跡形もなく霧散し、ひんやりとした手が俺の鳩尾を殴りつけた。
ぶXXXぞ!!
「起きろスズ! 見つけたぞ! 力の根源!」
「ふざけんなよクソガキッ! ゲホッ、マジで、こいつ……」
俺の怒りの傍で、骨を咥えてきた犬のように、きらきらと顔を輝かせ、ねぎらいの言葉をエデラは待っていた。せめてもの意趣返しに俺はそれをスルーした。
「魔力ではない。だが、ここだけ、魔力が弾かれながら引き込まれ、不自然に渦巻いている。間違いない、ここだ!」
「俺に触るな!」はたき落とされた手をさすり、エデラは言う。
「さすが僕、たった10時間で未知の魔導体系である異能の根源を見つけるなんて、この手応え、忘れぬうちに……」
「じゅ、10時間!? そんなに経っていのか」うとうとしていただけ。体感では1時間も経っていないのにも関わらず、確かに彼女のいう通り、日はとっぷり暮れていた。
紙にペンを走らせるが、ガリガリと紙が削れて破け、元から俺に読めない文字列ではあるがさらに悪筆になっている。
「おい、それで、根元とやらが見つかったのはいいが、どうしたらいいんだ? まさかここから丸投げするつもりじゃないよな」
「もちろん、そんなことはない。だが、それに関しては、僕より適したものがいる。そういうことで、今から行こう」
よく見れば、目の下に隈がある。彼女たちのいう魔法を使うことが疲労をもたらすのだろう。何にせよぶっ通しで10時間も同じことをしていれば、疲れて当然だ。
「休まなくて、いいのか」
「帰りたくないのか? 皇女様の命令とはいえ、君の能力が明らかに慣れば、帰るための道筋も見えてくるかもしれない。……まさか、僕の心配をしているのか?」
ぱたんと、よろけた少女は俺の隣に座った。例の笑みを湛えて。
「カミリーは、気に食わない点も多い。でも、彼女の空間航路院としての、正しき道で魔導を走らせる力はこの僕さえも認めている。君に眠る力をどう出力するか、それはカミリーに指導してもらうべきだ」
勝手に話をまとめ、そう結論づけると長いローブを引っ張り出して俺に被せた。
「最初に言ったが、この学園で君の存在がバレるのはまずい。このフードには隠匿の術をかけているが、どのくらい持つかわからないから、今のうちに、急いでカミリーの塔へ向かう。ついてこい」
左。右。右。上に登ったと思えば、下に降りる。腹一杯まで食事をしていれば、吐いていたかもしれない。
いくつものアーチ。手をひく彼女は魔導認証ゲートと教えてくれた、それを潜り抜けた。
なぜ俺が通り抜けられたのか、疑問は残るが、時間がなかった。
「――それで、こんな非常識な時間にやってきたのはどういうつもりかしら。エデラ」
いつ見ても同じ服を着ているエデラとは異なり、カミリーは見慣れたツインテールを解き、ゆったりとした寝巻き姿で現れた。どう言う意味があるのか、顔の上半分を覆う無地の仮面をしている。それだけが異質だった。
眠そうな声で小さく嫌味を言ってから、ようやく後ろで控えていた俺の存在に気がついたようで、口をあんぐりと開けて、手で覆った。
「え、スズ様、? も、申し訳ありません、このような姿で……エデラ! 約束と違うじゃない! 事前連絡は――」
「さっきした」「直前すぎよ!」
エデラの頬をつねりあげるカミリーは姉妹のようで、遙と伊織を思い出させる。
最後にカミリーと会った時、怒鳴って泣かせてしまったことにいまさら罪悪感が芽生えてきた。カミリーはエデラよりずっとマシだったのに。
とりあえず今のゆるんだ頬くらいがちょうどいいだろう。俺は穏やかな顔を務めて維持して、彼女に言った。
「とりあえず、中に入れてくれないか?」




