第5話 俺は異能力者らしい
「――て、ことでエデラ。残りの二人を呼んで、俺が異能に目覚めるように協力しろ。あと俺の出てくる物語の原典をかせ」
学園の貴賓用の豪奢な部屋から一転、俺はエデラの、広さで汚部屋っぷりを誤魔化すような部屋に戻っていた。
「皇女様との会合は無事終わったようだね。うん、前向きになるのはいいことだ」
顎に手を置いて頷く。実験動物を観察するようにエデラは言った。
「俺の要求を聞いてたか? これはお前らの皇女様の命令でもあるんだぞ」
「もちろん。協力なら喜んで。ただ、僕たちが一同に会する時間を作ることは難しい。それぞれ所属が微妙に異なるからね。まあ、話は通しておくが」
彼女は屈んで、床に落ちていたチョークを拾い、次にベッドの上に登ってシーツの海を翻した。なぜか、ベッドの上から発掘された黒板。それを持って俺の前にやってくる。
「まず僕から。異能の発現前に、僕たちの情報をおさらいしよう」
彼女の授業が始まった。
黒板にはメガネの少女、ツインテールの少女、おかっぱの少女が三角形の頂点の位置関係で描かれた。名前を書くまでもなく、アルヴィラ、カミリー、エデラだ。アルヴィラのイラストから線を伸ばして、王冠を被った少女を書き足す。フリージアか。結ぶ線の上に書かれた文字は読めない。俺の視線に気がついたのか「皇女様とアルヴィラは親戚だ」と言った。
「僕たちは、この帝国第一魔導学園における、総合成績上位三名の魔導士だ。でも学園で所属する魔導院部門は別々で、僕は外縁観測院、カミリーは空間航路院、アルヴィラは主機駆動院で……とにかく、普段顔を合わせることはほとんどないんだ。でもまあ、色々あって、お互いが『白月写本群』のファンだと知った。そして、目的は違えど、この写本に登場する男、スズをこの世界に召喚しようと、本気で思っていたんだ」
「うげぇ」聞いたこともない言葉の嵐。うんざりだ。「固有名詞、なるべく控えてくれ」
エデラは俺の懇願を気に止めることもなく続けた。
「僕たち三人、それぞれが考えていた召喚の構想を共有し、互いの得意分野で修正を加えた。出した結論は一致した。トウジョウ・スズをこの世界に召喚することは、十分な金銭と時間があれば可能である。
そこで僕たちは、共通の目的のために役割分担をした。僕は外縁より遠く、星の先を探索し、君を見つける。カミリーは僕が見つけた君をこの世界に欠損なく転移させる。アルヴィラはそんな大規模魔導に必要な膨大な魔力を適切に供給分配する。
つまり僕たち三人の合作だったんだよ。君を呼んだ魔法陣は」
フリージアとのやり取りがなければ、いま目の前で、俺のとっての悲劇をデザインしたことを誇らしげに語る少女にグーでいっていったかもしれない。
フリージアに感謝するんだな、という俺の睨みはエデラにはカケラも伝わっていないようだった。
「君の二つ目の要求に答えると、無理だ。君の物語の原典はとっくに失われている。非常に残念なことにね。僕らが読んでのは、失われた原典の写本。実のところ、原典のタイトルすら僕らは知らない。写本の通称は『白月写本集』。それも断片的にしか残っていないが、幸運なことに、君がいかにして異能に目覚めたか、その経緯はわかっている。
だから、安心して僕たちに任せるといい。僕たちが、完璧に君に能力を目覚めさせてあげよう。フフフ」
そういうと、口のはじを非対称に持ち上げた。
「写本で構わない。俺に見せろ」
「それも無理だ。理由は二つ。第一に、写本は帝国の重要文化財保護室に保管されており、閲覧の際には厳重に身元がチェック、記録される。……ああ、内容をそのまま教えてくれ、と言われても無理だ。僕らの、君を呼ぶ前の話し合いで、君に直接物語を教えることはしないと決定しているんだ」
これには流石に我慢できなくても、しょうがないだろう。俺はエデラに詰め寄った。脅すつもりはないが、顔は険しいだろう。
「フフ。効かないよ。まあそう怒らなくても、僕らは君が異能に目覚めるように協力は惜しまない」
フリージアはこいつらの上司じゃないのか。俺のいうことを聞くのは、フリージアの命令でもあるのに、全くいうことを聞かない。
なぜか、俺は上裸でエデラに相対していた。
「脱ぐ必要あったか……」疑いしかない。
「もちろんだ! フフフ、なるほど……」
ぶつぶつと俺の周りぐるぐると歩くエデラ。ほんとうに、全く信用ならない。
「ベッドで仰向けになってくれ」
「せめて、目的を教えろ」
「言っただろう。僕は外縁観測院だ。未知を見つけるエキスパート」
知らねーよ。突っ込む気力もない。いまこ難しく、俺の世界に一ミリも関係のない説明を受ける気力はない。
「今から、君の体に眠る異能の根元を見つける」




