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俺を読んだ少女たちが、俺を呼んだ物語  作者: ぽんぽこ300
魔導学園にようこそ
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第4話 フリージア・フォーラントの懇願

「夢じゃ、なかった」

 エデラの部屋より、さらに広く豪奢な部屋でフリージアが初めて口にした言葉がそれだった。

 ちょうど全く同じセリフを、床で目を覚ました時俺も言った。

 

 部屋が広く見えるのは、物理的は広がりのせいだけでなく、エデラよりはるかにものが片付いているせいかもしれない。

 見通しのよい部屋だった。奥へ続く扉と、その脇の棚に無造作に積まれたタオルを見れば、その先が風呂場なのだとすぐに察しがつく。

「風呂貸してくれないか。ほら、皇女様に謁見するにあたって失礼だろ」

「これは正式なものじゃないから……いえ、そんな話じゃないわね。いいわ。その間に、

私も話を整理しておくから」


 高慢なお嬢様のように、俺から視線を外すと、フリージアは机に向かった。紙に整理するタイプらしい。

 

 シャワーを浴び、スッキリすると心に余裕が生まれ、どれほど理不尽な物言いをされようと許せる気がした。

 フリージアの待つ部屋へと出ると、彼女は紙束へ視線を落としたまま、俺に語りかけきた。

 

「わ、私はフォーラント帝国第十一皇女、フリージア・フォーラントでっ」

 いきなりの自己紹介。

「知ってるけど」

 俺のセリフは彼女が用意した紙束の中にはなかったようで、聞こえなかったように、無視して彼女は続ける。

「此度は、我が帝国の要する魔導学園において――」

 そこまで言いかけて、フリージアの声は途切れた。紙を握りしめる指は震え、白んでいるのが見てとれた。

 俺は椅子に腰を下ろし、腕を組んだ。

「続けろよ。 謝罪か、脅迫か知らないが」

 フリージアは大きく息を吸い込んだ。紙面を整えるように手をかざし、そこに書かれた文字を撫でると、後ろに控えるベッドへ、振り返りもせず投げ捨てた。

「正式な口上はやめるわ」

 ようやく彼女と目があった。

「――トウジョウ・スズ様」


 初日に見せた傲慢さはなりをひそめている。迷子の子供が、親を呼ぶようだった。


「まず、確認を。あなたは、あなたの世界からここへ連れて来られた。意思に反して、同意もなく。……そう」俺が黙って頷くと、彼女は唇を噛んだ。だが一瞬のことで、すぐに解かれた。

 

 再び彼女の鋭い目が突き刺さる。


「それは、私の命令で行われた」

 偉い人、謝り慣れていない人。思わず鼻で笑いそうになった。こんなにあっさり認めるとは。


「で?」


 フリージアは俺から目を逸らさないまま、椅子から降りた。

 そして――皇女様は俺の前で床に膝をついた。俺は椅子に座ったままその光景を眺めていた。

 ほっそりとした指先が重なり、美しい金髪が床に流れる。彼女は頭を下げていた。床につくほど。


「あなたを勝手に転移させたこと。あなたの生活を、学業を、大切な人との時間を奪ったこと。……謝罪する」


 こんな場面でさえはっきりと、ひとつひとつ言葉を発音するやつだった。ツルツルとした高級そうな床に、その高貴な言葉が落ちていく。

 

「ごめんなさい」


 まっすぐな謝罪で、俺の怒りが行き先を見失う程度には、効果的だった。


「顔を上げろ。それで、続きがあるんだろ」

 

 彼女が別に個人的罪悪感のために謝罪しているわけでないことは、皇女という立場に相応しい気品が教えてくれる。


「元の世界に返す。今は、確実な手立てを私は持っていない」

「……ないのかよ」


 アルヴィラが言っていた通り。六ヶ月。半年。奨学金。入学式。伊織と遙。頭の中で、言葉は連なり、何度もこだまする。考えだせば、寝られなくなる。大声で叫びそうになる。だから、意図的に避けていた現実たち。

「今は、ない」フリージアは俺に真実を告げることから逃げなかった。

「あなたを呼ぶために、アルヴィアに相談した。アルヴィラは親戚、みたいなもので……。

帝都の宮廷魔導士も認めるほど、彼女たちは才気あふれていた。だから……彼女たちが提案したこの手段なら、あり得ると、私は援助をした」

 自分の胸に手を当てて、彼女は言い切った。

「責任は私にある」もう一度、念押しするように言った。

 

 歯を食いしばって、怒鳴り上げたいのを堪えた。怒鳴ったところで、何も変わらない。努めて冷静に、残る疑問を代わりにぶつけた。

「どうして、俺を呼んだ? 異能とか、それ以前の話だ」

「帝国の存続に重要な皇太子が、病に倒れたの。今死なれれば、この国は継承問題で、維持できなくなる。帝都は火の海になるでしょうね。……たくさんの人が、死ぬ」

 彼女は言葉に迷いを見せていた。俺にどこ前話すべきか、いまだに決めかねているのだろう。

「それで、俺が持つ治癒の力がいるのか」

「お願い。皇太子を治して」再び、深く頭を下げた。

「あなたを元の世界に返す方法は、必ず見つける。一生を賭ける。皇女として使えるものは全て使うわ。だから……どうか、助けてください」

 エデラのように、無神経なのは腹立たしいが、こうも下手に出られるとそれはそれでやりにくい。この状況で初めてわかったことだ。


「……頭、上げろ」


 涙で濡れた頬。よく悟られずにハキハキと喋ったものだ。


「聞け。ここで俺が、物語の中で、どう描かれているか知らない。だが、俺は聖人じゃない。この世界で、帝国が、皇太子がどうなろうが知らねえ。俺の人生のほうが大事だ。でも、――お前は俺に言った。必ず元の世界に返すと」

 フリージアは涙の跡をそのままに首をなん度も縦に振った。

 一生かかっても、何があっても、俺を元の世界に帰す。

「その言葉を、お前を、俺は信じる。——信じるついでに、さくっと異能だかに目覚めて、治してやるよ。その皇太子」


 確証のない約束はお互い様だった。


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