第2話 俺は本の中の人間らしい
「いい加減にしろ!」
幼い少女に怒鳴るなんて、したくはなかった。だが、それどころではない。
いきなり訳のわからないところで連れてこられ、訳のわからないことを言われる。
挙げ句の果ては、俺に勝手に期待して失望し、叱る。
いい加減にしろ。
俺が怒鳴り返したことが想定外だったのか、威厳溢れていた少女は後退りをした。
「くっ、こ、答えろ! いつだ、お前は、いつなのだ!」
「知らねえよ! 俺は今日が入学式だったんだぞ! 伊織と、遙を待たせてんだ! とっとと元の場所へ帰しやがれ!!」
弱々しく後退した少女の襟首を掴み上げる。思いのほか軽く、少女はいとも簡単に宙に浮いた。
「う、うぐぅ、む、りだ」ゆったりとした服でありながら、掴まれたせいで苦しげにいった。
「はぁ!?」
「お、落ち着いて下さい、スズ様! その方、フリージア様に暴力は、流石にまずいです!!」
アルヴィラによって強制的に腕が引き剥がされる。だが他の二人は静観しているようで「おお、マジギレ……!」「迫力あるわね……」いや、観察されている。
放り出し、咳き込む女を捨ておき、観賞している奴らへ向き直った。
少なくとも、外見はフリージアと呼ばれた子供より年上に見えた。
「説明しろ。今すぐ。この世界のこと、帰り方」
「おおっ、生徒会編を思わせる迫力! いたいっ」
「もうあんたは黙ってなさい、私から話すわ。」
俺が殴るより前にその口を止めてくれて助かった。
「自己紹介が遅れました。私はカミリー・カーペント。そっちの、今デコピンした相手はエデラ・エリーク。アルは、すでに名乗済みですが、改めて、彼女がアルヴィラ・アムールです。
私たち三人は、この帝国の、帝国第一魔導学園に所属する魔導士で……そして、こちらの方は、帝国第十一皇女であらせられるフリージア・フォーラント様で――」
「ストップ!! 帝国? 魔道学園?? 意味がわからん。いや、説明しなくていい! とにかく、俺を元の世界に帰してくれ」
カミリーはツインテールの毛先を弄び、言葉を濁した。
「えっと、その、……ろ、六ヶ月……」
「は?」
「私たち、学園でもかなり優秀な方なんですけど、それで、その、それでも、三人と、皇女様のお力添えで、この計画に半年かかったの……いや、私たちそれぞれの中に構想自体は何年も前からあって、だから、それでようやく、召喚で、」
「つまり?」
カミリーは目尻に涙を浮かべていた。だが俺にそれを可哀想だと思う余裕はない。
「……それくらい、かかると思って、ください……最低でも……」
血管か何か、大切なものが脳内でぷつぷつと切れて、煮えたっていく。
「ざっけんな!!」
俺が半年も行方不明になっていれば、二人にどれだけ心配をかけるか。学業がどれだけ遅れるか、奨学金どころか入学資格さえ失いかねない。
「ひえ、ご、ごめんなさぁい」フリージアとは異なり、カミリーはポロポロと涙をこぼしてしゃがみ込んでしまった。
他の二人に視線と向けるが、エデラは無表情で観察を続け、アルヴィラはうっすらと目に膜を張っていた。
誰も、カミリーの言葉を否定しなかった。
その事実だけで、俺だって、少女のように、子供みたいに、泣きだせそうだった。




