第13話 俺は嘘を付くことにした
見た目が似ても似つかなくても。あれだけ親切に接してくれていたイオリに、様をつけて呼ばれるのは嫌だった。
どれくらい嫌だったかというと、俺がカミリーとの約束を破って内情を話してしまうくらいには嫌だった。
「――だから、俺はアルヴィラ様の使用人みたいなもんで、ローブは借り物。ノルンの言葉につっかかったのはまあ、その、アルヴィラ様のファンには可笑しいやつが多いから、確かめてやろうと思っただけだ」
二人の顔色を見ながら調整した嘘を反復し、しばらくはそういう設定であることを忘れないように心に書き留めた。ノルンは俺の嘘に大興奮して、最初とは全く違った意味で顔を赤くし俺の手を両手で握った。
「わかります!! アムール家のお方ですから、好意を装って近づくやつは数知れないでしょう……ですが! ご安心ください! わたくしは違います! わたくしは、昔から憧れていて……これ、よろしかったら受け取ってください!」
断るまもなく、押し付けられたそれは漫画と本の間のような書物だった。見た目は売られてる本と代わりないが、中身はイラストがたくさん描かれていた。
「これが、アルヴィラ様です」
似ている、と言えば似ているのかも知れない。少女のシルエットが描かれている。
「これは、第一次魔法大戦前、ポライナへ嫁いだ時の話で――」
この時、少し大袈裟に嫌な顔とかをして、彼女の口を塞いでおくべきだった。
「アルヴィラ様ほど、帝国のために尽くした傍系女傑はおりません!」「大戦前は、数々の国へ嫁ぎ――」「大戦が始まれば、アムール家いや帝国でも随一の魔力保有者として戦場での魔導士支援を行い――」「さらに今はわたくしたち、魔導士のために帝国と魔導学園の橋渡しとして、学園で身をこにして働いていらっしゃり――」うっとりと語る言葉は尽きない。ノルンの印象は、幼稚から不気味へと進化していた。
道具として、徹底的に自己を無視され今は帝国と魔導学園の都合のいい魔力タンクという座に収まっている少女。
これのどこが、尊敬に値する女性なのか。でもノルンは本気でそういっていた。
魔導学の発達のために身を捧げること。それは何にもおいて、一人の人生や感傷を超越して正しい行いであると。心の底から信じている。
語るノルンの瞳は恍惚に溶けていた。
彼女もいずれ、学園で大成するのだろう。
俺には理解できない。でも、学園で出会った三人の一級魔導士はそれぞれの狂気を持っていた。だから、ノルンもやがてそこに名を連ねることは想像に容易い。
自分の意思なんて、介在する余地がないほど道具としてしか見られず、それが讃えられる彼女の人生で、『白月写本群』はどのような意味を持ったのだろうか。
ここに来るまでは、あれほど忌々しかったアルヴィラ。でも俺は今、彼女に聞いてみたかった。




