8.カーテンコール:見破られたペテン師
すべての種が明かされて、霞ヶ丘塔矢はしみじみと感想を口にした。
「君にかかれば、どんな奇跡も実現できそうだな」
「それは言いすぎですよ。私にだって出来ないことはあります。むしろ出来ないことの方が多い」
くすり、と笑いながら、梨々花はどこか冷めたような目で自身の手元を見る。
「先輩はいつも言っていますよね。確率は信頼できるけど、期待すると裏切られるって」
「ああ。そうだな」
確率というのは平等に不公平だ。
数学的な事実として確率は信頼できるが、その結果に期待すると容易く裏切られる。
「奇術師なんてものは、まるで信頼できないペテン師です。種と仕掛けがなければ無力なもので、それらを仕込んで演出した奇跡はただのペテンに過ぎません」
「…………」
「ショーマジックは人を楽しませるものですが、やり方が違えば人を騙す技術でしかありません」
それはきっと、出会ったばかりの頃の話をしているのだろう。
家庭教師として梨々花と出会った頃、彼女は手品の技術を悪用していた。
スリーカードモンテというマジックがある。
三枚のカードから一枚の当たりカードを当てさせるという内容で、歴史的に路上ギャンブルでのイカサマに使われていた技術である。
梨々花はこのスリーカードモンテを使って、街中でカード賭博をしていたことがあった。
確率の勝負と見せかけて、不平等なイカサマを行っていたのだ。
「今回にしたって、相手がイカサマをしていたから平等だっただけです。私はいつだって確率を踏みにじることが出来るし、人を騙すことが出来る。私の過去を知っている先輩は、私がヒラの勝負を挑んできたとしても、絶対に信じられないと思います」
「それは……否定できないな」
莉々花が動くからには何らかの意図がある。その信頼を塔矢は持っているが、それは同時に、梨々花が敵に回った瞬間に疑いへと変わるだろう。
公正公平など望むべくもない。
イカサマ殺しの達人は、同時にイカサマの使い手でもあるのだから。
でも、と。
梨々花は先程テーブルの裏に貼り付けた箱を剥がすと、その中身を差し出してきた。
「私の奇術を見破ってくれた先輩のことが好きです。だから、信頼しなくてもいいので期待して下さい。あなたに頼まれたら、私は不平等で不公平に、ただ先輩だけのために奇術を振るってみせますから」
差し出されたトランプの箱を開ける。
中を見た塔矢は、口端を歪めながら穏やかに言う。
「信頼しないのに期待するなど、不合理の極みだろう。君がどう思おうと、僕は君の能力を買っているだから、今回のような時は迷わず君に相談するさ」
相変わらず回りくどくややこしい言い草をしているが、要するにそういうことだった。好意も負い目も全て理解している。それでも関係を続けたいと思うのが、何よりの答えである。
箱から出てきた一枚だけのハートのエースを見ながら、塔矢はその奇術に心を許した。
※ ※ ※
それでは皆様、名残惜しくはございますがこれにて幕引きでございます。
ペテン飛び交う奇術舞台を締めくくるは、胸元に咲く奇術の花。見事に花開いた両面エースの色合いはいかがでしたでしょうか。
種も仕掛けもございますゆえ、取扱にはご注意を。
この世に奇跡を夢見る心がある限り、奇術の世界は続くことでしょう。
またの機会がございましたら、どうぞご贔屓に。
この度はご観覧、誠にありがとうございました。
胸元に咲く両面のエース編 END




