↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/9

8.カーテンコール:見破られたペテン師

 すべての種が明かされて、霞ヶ丘塔矢はしみじみと感想を口にした。


「君にかかれば、どんな奇跡も実現できそうだな」

「それは言いすぎですよ。私にだって出来ないことはあります。むしろ出来ないことの方が多い」


 くすり、と笑いながら、梨々花はどこか冷めたような目で自身の手元を見る。


「先輩はいつも言っていますよね。確率は信頼できるけど、期待すると裏切られるって」

「ああ。そうだな」


 確率というのは平等に不公平だ。

 数学的な事実として確率は信頼できるが、その結果に期待すると容易く裏切られる。


「奇術師なんてものは、まるで信頼できないペテン師です。種と仕掛けがなければ無力なもので、それらを仕込んで演出した奇跡はただのペテンに過ぎません」

「…………」

「ショーマジックは人を楽しませるものですが、やり方が違えば人を騙す技術でしかありません」


 それはきっと、出会ったばかりの頃の話をしているのだろう。

 家庭教師として梨々花と出会った頃、彼女は手品の技術を悪用していた。


 スリーカードモンテというマジックがある。

 三枚のカードから一枚の当たりカードを当てさせるという内容で、歴史的に路上ギャンブルでのイカサマに使われていた技術である。


 梨々花はこのスリーカードモンテを使って、街中でカード賭博をしていたことがあった。

 確率の勝負と見せかけて、不平等なイカサマを行っていたのだ。


「今回にしたって、相手がイカサマをしていたから平等だっただけです。私はいつだって確率を踏みにじることが出来るし、人を騙すことが出来る。私の過去を知っている先輩は、私がヒラの勝負を挑んできたとしても、絶対に信じられないと思います」

「それは……否定できないな」


 莉々花が動くからには何らかの意図がある。その信頼を塔矢は持っているが、それは同時に、梨々花が敵に回った瞬間に疑いへと変わるだろう。


 公正公平など望むべくもない。

 イカサマ殺しの達人は、同時にイカサマの使い手でもあるのだから。


 でも、と。

 梨々花は先程テーブルの裏に貼り付けた箱を剥がすと、その中身を差し出してきた。


「私の奇術を見破ってくれた先輩のことが好きです。だから、信頼しなくてもいいので期待して下さい。あなたに頼まれたら、私は不平等で不公平に、ただ先輩だけのために奇術を振るってみせますから」


 差し出されたトランプの箱を開ける。

 中を見た塔矢は、口端を歪めながら穏やかに言う。


「信頼しないのに期待するなど、不合理の極みだろう。君がどう思おうと、僕は君の能力を買っているだから、今回のような時は迷わず君に相談するさ」


 相変わらず回りくどくややこしい言い草をしているが、要するにそういうことだった。好意も負い目も全て理解している。それでも関係を続けたいと思うのが、何よりの答えである。


 箱から出てきた一枚だけのハートのエースを見ながら、塔矢はその奇術に心を許した。



 ※ ※ ※



 それでは皆様、名残惜しくはございますがこれにて幕引きでございます。


 ペテン飛び交う奇術舞台を締めくくるは、胸元に咲く奇術の花。見事に花開いた両面エースの色合いはいかがでしたでしょうか。


 種も仕掛けもございますゆえ、取扱にはご注意を。


 この世に奇跡を夢見る心がある限り、奇術の世界は続くことでしょう。

 またの機会がございましたら、どうぞご贔屓に。

 この度はご観覧、誠にありがとうございました。



 胸元に咲く両面のエース編 END



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。