087 : ハイデベルク・6・アンデッドヴァルキリー戦・2
待ての勇者と急ぎの姫騎士
087 : ハイデベルク・6・アンデッドヴァルキリー戦・2
なんとか一人で仕事がこなせるようになった2018年、札幌に出張した時のこと。
徹夜の仕事を終え、ホテルに戻ろうとしたら突然の地震。東日本大震災の経験もあるので、地震そのものにはそれほど驚かない。
しかし、その直後の停電。非常灯を除いて街のあらゆる明かりが消えた。札幌の街はビルの防災灯や、航空識別用の赤灯が高層建築の輪郭をなぞるのみ。
仕事が終わったばかりの取引先が気になった。戻ろうと思ったが、信号機さえ消えてしまってうかつには動けない。スマホで連絡しようと思ったら電話が通じなかった。Wi-Fiで地震情報を取ると、信じられないことに北海道全域でブラックアウト。北海道という島ぐるみ停電してしまっていた!
下手に動けば街灯さえ消えてしまった道路、トチ狂った車に跳ねられかねない。幸い9月、日の出が早く、うっすら東の空が白み始めるのを待って、取引先への道を辿った。
空の雲や水蒸気や埃や、そういうものに、未だ上りきっていない太陽の光が反射して月夜の倍ほどの明るさ。近寄れば人の表情も読み取れる。
しばらく行くと見慣れたシルエット。取引先の担当さんが「あ、ご無事でしたか!」と手を振ってくれる。慣れない札幌の街で難渋しているのではと、追いかけてくれていたんだ。道行く人たちも、早朝出勤だったり、知り合いの人や職場を案じて向かう人たちだったり、そういう街の人たちを遠目に見て、北海道の人たちの真面目さ実直さに、大げさでなく感動した。
その札幌に似た群衆の影が前方に蟠り、その大半が手に手に得物を構えて立ちふさがる。さっきまでハイデベルクの住人に化けていたヴァルキリーたち。いや、魔王に取り込まれてしまったヴァルキリーのアンデッド! 彼らのオーラは、札幌で感じた暖かくも崇高なそれではなく、魔物の邪気! 魔族の殺意! 魔界の怨念! そういう禍々しい負のオーラに満ち満ちている。
そのオーラの壁に一人立ちふさがるは、主神オーディンの姫騎士にしてブァルキリー最強の戦乙女、この異世界に飛ばされてからは、共に魔王城を目指す我が戦友のブリュンヒルデ!
魔王の手先になり果てた幾万の戦友たち。彼らへのわだかまりも吹っ切れたのか、そのポテンシャルと覚悟のほどを示すように浮かび上がって、睥睨する。
ヒルデのタイミングを合わせて打ちかかるか……。
俺も覚悟を決める。
すると、敵の群れから、白銀の甲冑姿が釣り合いを取るようにヒルデの前に上ってきた。
絞り込んだ胴、胸のふくらみ、おそらくは女騎士。
カチャ
ヘルムのバイザーを上げると、案に相違なく、目にも涼やかなプラチナブロンド、零れる髪は癖のある巻き毛。高潔な中にも強い自意識を感じる。
「…………やはり暗黒面に堕ちていたか。宿縁の王妃グズルーン。さんざんに邪魔をしてくれたが、ちょうどいい、シャンプーの決着、ここでつけてやる!」
シャリン!
ヒルデは、エクスカリバーとオリハルコンの剣を両手に構えた!
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・シャイロック ヴェニスの商人
・ロキ 荒れ野の神(ヒルデの義理の叔父) シギュン(妻)
・親指姫 げんこつ山のゴーレムに取り込まれていた
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・他の冒険者たち オンケル シュベスタ―
・魔物たち 謎かけ魔物 リーツセル(Rätsel) ガイストターレン シュプルーデ川の魔物 樹叢の魔物 セイレーン(半鳥半人) ギギとクク(元セイレーンの姉妹) げんこつ山のゴーレム 巨大唇の化け物 グズルーン(魔王に魂を売ったジークフリートの王妃)




