008: ズィッヒャーブルグにギリギリで入る
待ての勇者と急ぎの姫騎士
008: ズィッヒャーブルグにギリギリで入る
途中、何人何組もの旅人を追い越した。
商人、旅の僧侶、出稼ぎの農民、旅芸人、吟遊詩人、なにかの職人、俺たちと同じ冒険者や冒険者のパーティー。種族も様々で、人族、ドワーフ、エルフ、獣人、ケモ耳族、何に分類していいのか分からない種族なんかも居て、まさにコスプレの世界。
「うう……」
「なにを唸っている?」
「写真に撮りたい」
「バカだなあ、この先、こういう奴ばっかりだぞ」
「それもそうだけどな……」
「急ぐぞ」
「お、おお」
やはり歴戦の戦乙女、ヒルデの方が世慣れている。
写真に撮りたい衝動を押えながら、ズィッヒャーブルグの城門にたどり着いた。
「急いで正解だったな……」
「ああ、しかし、これほどとはなぁ……」
門前には、なんというか……キャンプができていた。
アニメだったら——ジャーーン!!——とかエフェクトが入ってカメラが引きになって全景を写すところだろう。
「なんでキャンプがあるんだ?」
「時間制限の他に人数制限があるんだろう、ほら、高札があるぞ」
「読んでくれ」
「MPに余裕があるなら読解スキルは持っておいた方がいいぞぉ」
「うん、心がけておく。で、なんと書いてある」
「……やはりなあ……開門時間は6時から18時まで、入場人数は1万人を上限とする……と書いてある」
「1万なら楽勝じゃないのか?」
「見ろ、城門の横」
「え……ああ、あの数字は」
門の横に電光掲示板みたいなのがあって、9812と出ている。
「ああ、滞在者の数字だ。時間も人数もギリギリという感じだなあ」
並んだ列の前には200人近く並んでいて、残り時間は10分ちょっとだ。
並び始めた時に持たされた『最後尾』のプラカードは、すでに数十メートル後ろに周っていて、中には諦めて列から出ていく者もいる。
列から抜けた者は、空いている場所を見つけては寝袋を出したり、寝場所を確保したり……いくつかあるテントは業者の持ち物のようで、料金を払えばテントとはいえ屋根のあるところで寝られるようだ。
「見ろ、店をやっているテントもあるぞ」
「あ、ほんとだ……」
大したものは売っていないようだが、食料や薪、衣類や寝具、アイテムの店もあるようだ。
「う……この臭い……」
門に近づくに従って、なんとも香しい臭いが鼻を刺激する。
「堀が臭っているんだ」
ヒルデが顎をしゃくった方を見ると、城壁の下が堀になっていることが分かる。堀の手前に柵やフェンスなどが無いものだから、近くに来るまで分からなかった。
「え、堀にションベンしてる奴がいる!」
「キャンプがあるんだ、とうぜん用を足したくなる奴もいるだろ」
「この臭いは……」
「ああ、大きい方もしてるようだな……」
スカーフを鼻の上まで上げて、オマルに入ったブツを堀に捨てに行っているメイド服がいる。
「ご主人様のブツだろうなぁ、メイド服は着ているが奴隷かもしれん。量も多そうだ」
堀端には召使風のもいて、同じようにブツを捧げ持って、堀に板切れごと放り込むと、メイド服に一言二言。あいまいに返事をしてメイド服もブツを投げ込んで帰っていく。
二つのブツが投げ入れられ攪拌されたのだろう、臭いが新鮮で強いものになってくる。
「たまらん……(>_<;)」
インタフェイスを開いてスキルを確認。
「よし、これだ!」
「ん、何をする気だ?」
「まあ、見てろ……」
○○という魔法を念じて指を動かす。
「ん? なにをした?」
「初歩のトイレ魔法だ」
「あ、ああ……」
「それだけか?」
「ああ、この世界では単なる生活臭だからな」
ヒルデの反応に少しカックンとしていると、残り10人、残り時間5分になった。
「手形を見せろ」
「え、ああ」
収納から手形を出してヒルデに見せる。
「ヒルデも持ってるんだろ?」
「ああ、女神が用意してくれたからな……ここを変えよう」
ヒルデは、二人の手形の同じ項目を書き変えた。
「え、Pear……夫婦にしたのか!?」
「この方が有利なんだ」
「ええ?」
ちょうど一分前、オレたちと、男の二人連れが同時のチェックになった。
「よし、通れ」
俺たちはあっさり通されたが、二人連れは足止めされ、ちょうど閉門の太鼓が鳴ってしまった。
ドン ドドド ドン! ドン ドドド ドン! ドン ドドド ドン!
ガッチャーーーン
太鼓は三度鳴らされ、ほんとうに城門は閉じられてしまった。
「夫婦者はチェックが緩いんだ」
「え、そうなのか?」
「さあ、時間が押している。宿を探すぞ」
「あ、おお」
わずかの間に火が傾いて、ズィッヒャーブルグの道路や店先にはポツポツと明かりが灯り始めた。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・女神 異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・秀の友人たち アキ 田中




