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055 : シュプルーデ川の氾濫

待ての勇者と急ぎの姫騎士


055 : シュプルーデ川の氾濫





 川は氾濫していた。


 浮橋は複数の木造船を二本の鎖で繋いだものなんだけども、これがグチャグチャ。壊れたりひっくり返ったり、バラバラになって鎖を繋ぐ金具だけが残っていたり、とても橋としては使えない。二本の鎖だけは切れもせずに残骸と化した船やそれに絡まった木や草をまとい付かせて、半ば川を堰き止めている。


 当然、上流側は水が両岸の岸にあふれ下流の倍の川幅になっている。その水圧は結構なもので、残骸の隙間から噴き出る水はあたかもジェットバスの見本市。場所によっては噴流が川底を穿ち、クルクルと瓦礫にシンクロナイズドスイミングの真似をさせている。とてものこと、瓦礫を伝い、あるいは避けながら向こう岸に行くことなどできそうにない。向こう岸には数十人、こちらの岸には千人を超える旅人たちが為すすべもなく佇んでいる。


「なぜでございましょう、雨や嵐があったようには思えないのですが……」


 エマの疑問はもっともだ、ズィッヒャーブルグからいくらも来ていない。夕べは、途中の河原で温泉を掘ってキャンプしたけど、雨も風も無くて星空がきれいだったぞ。


「ハァー……これはな、北の方で魔物が大暴れした影響じゃ。それで、森やらなんやらがグチャグチャになって流されて来たんじゃ……」


 旅慣れた感じの商人がため息交じりに話してくれる。


 見れば、残骸には焼け焦げや爪の痕が残っているものがある。


「瓦礫伝いに飛んでいけば……」


 俺とヒルデは短距離なら飛ぶことができる。エマを介添えしてやればいけるのではと思ってしまう。


「止めた方がいい、数は多くないが、死にぞこないの魔物が混じっている。擬態したり姿を消したり、下手に渡ったら食われるか殺されるかじゃて」


「そうでしょうねえ……」


 魔物はいろいろだが、総じて生命力が強い。油断は禁物だ。


「あ、あいつら!」


 しびれを切らした五六人、冒険者だろうか、フワリと浮いて渡り始めた。


「ええー!」「待て!」「ちょっと!」「止めとけ!」


 岸の大方の者からため息や制止する声があがる。


 すると、突然残骸がピクリと動いて、木の切れはしやツタの絡まったのが腕やら舌やら触覚になって、あっという間に四人を呑み込み、残る一人はなんとかこっちに戻ってきた。


 ああぁ…………


 非難か憐れみか、その両方か、声が上がって旅人たちが戻ってきた一人を介抱する。中に白魔導士が居て、静かに回復魔法をかけ始める。


 街道を行く旅人たち、普段は互いに無関心みたいだけど、こういう時には不器用だけど連帯感があるみたいだ。


「しかし、なぜでございましょう……」


「なにか不審なのか?」


「大水で橋そのものはグチャグチャなのに、鎖は切れずに両岸に繋がっているのでございますねぇ」


「「ああ……」」


 ヒルデと二人——そう言われれば——と感心する。


「あれはね……」


 商人の隣にいた尼さんが身を乗り出した。


「聖勇者フンメル様が、魔王から没収なさったヘルチェインだからでございますよ」


「え、フンメルの!?」


「まあ、呼び捨てにしてはいけません。一万年の昔、初めて魔王を討伐されて、地上に平和をもたらしたお方なのですから」


「え」「あ」「フンメルさま……なぁ」


「おかげで、この地上、多少の魔物は出るようになってきましたけれど、いちおうの平和は保たれているのですからね」


「ああ、そうだなぁ……でも、そろそろ後継の勇者か聖女だかが現れて、もう一度魔王を退治してくださらんとなあ……」


 旅の商人は、岸の受難者たちを代表するように愚痴を言う。


「そうですね、そうです。そのために、わたしは勇者フンメル様、いえ聖者フンメル様の墓所を探しているのですから」


「おお( ゜Д゜)!」  


 ええ……!?


 商人は目を剥いて感嘆し、俺たち三人も驚いたけど、声には出さなかったぞ。


「しかし、尼さん、伝説じゃ勇者フンメルの墓は、もっと南の方。川を渡ったら逆方向になってしまいませんかね?」


 商人が当たり前のことを言う。


「わたしは、向こうから来たんです。渡り終えたところで川が氾濫して、大勢の方々が難儀しておられます。非力な尼僧ですが、フンメル様がお掛けになった橋。伝説の勇者のご加護をと、祈りをささげております」


 ウィンプルから覗いた眼は、宝塚の出まちをしているおばさんみたいに輝いている。


「おお、そうでしたか、これはご奇特な」


「さあ、ただ嘆いていても始まりません、どうです、みんなで聖勇者様と神さまに祈ろうではありませんか」


 多少の戸惑いはあったが、たった今、三人の冒険者が犠牲になったところでもあり、尼さんを中心に野外ミサが始まってしまった(^^;)。


 

☆彡 主な登場人物


・鈴木 すずきすぐる    三十路目前のフリーター

・ブリュンヒルデ         ブァルキリーの戦乙女

・エマ              バンシーのメイド

・女神(甲と乙)         異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち

・ハンス・バウマン        ズィッヒャーブルグのギルドマスター

・フンメル            西の墓地に葬られている一万年前の勇者

・カルマ             フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い

・トルクビルト(工藤甚一)    ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)

・秀を取り巻く人々        先輩  アキ(園田亜妃) 田中

・魔物たち            ガイストターレン 

   

 

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