052 : みんなでお風呂・2
待ての勇者と急ぎの姫騎士
052 : みんなでお風呂・2
温泉から上がると、お決まりの浴衣と羽織に着替え、これもお決まりの温泉卓球。
カッピーーン!!
ラブオールって——この世は愛がすべて!——みたいな掛け声で始まった試合はヒルデのスマッシュで終わった。
「イレブン・フォー! マッチウォン・バイ・ヒルデ!」
審判のアキが宣言、もともと勝とうなんて思っていない俺は「やっぱヒルデにゃ敵わねえ(^^;)」とラケットをアキに渡そうとすると、気づかなかったのかヒルデのラケットを受け継ぎやがる。温泉卓球にマジになることもないと思うんだが、こういう一途なところがアキのいいところなんだろう。ヒルデも——まあがんばれ——的に握手。アキは握手したままブンブンと二回振って、ヒルデも苦笑い。勢いでヒルデの胸が覗いてしまうがポーカーフェイス。
横で見ているエマがクスリと笑って、こう言った。
「わたしも卓球は不慣れでございますから、ゆるくラリーをやって楽しみましょう(^u^;)」
「え、あ、そうですね(#^▫^#)」
それで、審判なんかいらんということで俺たちはバルコニーへ。
カピーーン……カポーーン……
緩くて平和なラケットの音を背に、湯煙に滲む星空なんか見たりする。手前に温泉があるせいか、思わず本気になった卓球のせいか、デッキは程よい涼しさだった。
「道のギルドで待たされてた時、グズルーンがどうとか言ってたじゃないか」
「え、ああ……」
「よかったら聞かせてくれないか?」
「つまらん話だ」
「ブリュンヒルデってのは有名だから、いろんなアニメとかラノベで使われてるじゃないか。でも、それって、単に姫騎士とか戦乙女の属性だけ借りてきて、ヒルデそのもののことはほとんど描写されないだろ?」
「加藤清正って知っているか?」
「カトウキヨマサ……あ、ああ熊本城の清正か?」
意外な名前に面食らって、思い至るのに数秒かかった。
「敵に追われて、一度だけ熊本のコスプレ会場に逃げたことがあるんだがな。いつもと違って、甲冑姿のレイヤーが何人もいてな、中に、一人目の青い奴が居たんで聞いてみたんだ。すると、奴は不慣れな日本語で『セイショウコウだよ』って言うんだ」
「ああ、聞いたことがある。熊本じゃ清正を音読みして『セイショウコウ』って言うんだよな。本で読んだような気がする」
「清正というのは、熊本じゃ偉い人気で、何かというと蛇の目マークの鎧兜に十文字の槍を持って登場するんだ。『さしたる用事はなけれども、ここに出でたる加藤清正ぁ!』って見えを切ると、みんな喜ぶんだそうだな」
「あ、ああ……そうだ、清正の家は二代目で取り潰されて、代わりに細川って大名が入ったんだけど、入場するときは清正の位牌を先頭にして、城に入る前は『清正公のお城をお預かりします』って挨拶したそうだ」
「スグルも詳しいな」
「ああ、人間味が出てるとか、人情めいた話は好きだったからな」
営業では、こういう雑学めいた知識が役に立ったからな。これも先輩の受け売りなんだけどな。
「ブリュンヒルデもそのたぐいで、いろいろあるエピソードの一つにすぎん」
「どんなエピソードなんだ?」
「むかしむかし、ブリュンヒルデには好きな男が居たという話があってな。その男をめぐってグズルーンと争っていた。ま、それで、たまたま川で一緒に水浴びをしているときに、あいつ、わたしの上流で髪を洗って嫌がらせをしてきたんだ……あのガイストターレンの女が、そのグズルーンなのか……だとしたら、あの谷の化け物に取り込まれたか……あるいは……このブリュンヒルデの記憶を読んででっちあげた幻か……いずれにしても、今のわたしには、それよりも重要なことがある。いまは、どうでもいい」
「そ、そうなのか……」
それよりも重要なこと……気になったけど、自分のことは話したがらないヒルデが、ここまで話してくれたんだ、いずれ聞く機会もあるだろう……そう思ったとき、エマがデッキに出てきた。
「あのう、アキさんは?」
「え、卓球をしていたんじゃないのか?」
「はい、取りこぼしたピンポン玉を取りにデッキに出て行ったんですが……」
「え、来てないぞ。なあ、ヒルデ」
「ああ…………ん? エマ、ちょっとわたしの目を見ろ」
「え、はい」
え……俺の方から見ても分かった、エマの瞳は薄墨を落としたように濁っている!
「エマ、おまえ、術にかかっているぞ!」
「ええ?」
「お前が見ていたのは幻だ! おそらく、ピンポン玉に集中しているうちにハメられたんだ!」
「え、それって!?」
「そうか、そうだったんだ……あいつは、最初から偽者だたんだ!」
「しまったーーーーー!!」
ヒルデが次元の違う悲鳴を上げた!
「どうした?」「ヒルデさま!?」
「た、大変なものを盗まれたああああああ(((,,ºoº,, )))!!」
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神(甲と乙) 異世界転生の境に立つ正体不明の女神たち
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・トルクビルト(工藤甚一) ズィッヒャーブルグの幻影魔法士(娘:ビアンカ、カリーナ)
・秀を取り巻く人々 先輩 アキ(園田亜妃) 田中
・魔物たち ガイストターレン




