037:トルクビルトのパーティーを観察する
待ての勇者と急ぎの姫騎士
037:トルクビルトのパーティーを観察する
トルクビルトのパーティーにはすぐに追いついた。
と言っても、声をかけて合流するようなことはしない。
一キロほどの距離を開け、時にはわざと遅れる。遅れたときはエマのカメラをトンビに偽装して映像で確認。トンビも三度も飛べば見破られそうなので、今は、ちょっと先の崖の上でカメラに待ち伏せさせている。
「あ、やってきました」
モニターを指さすエマ。
歩きながらだと危ないので、道端で足を停めている。
「人通りがないのに四人のままでございます」
「幻影魔法はけっこうな魔力がいる。人気のないところなら切っておくだろう」
会社の仕事もそうだ。『24時間戦えますか~(^^♪』なんて先輩は鼻歌交じりだったけど、移動の途中、電車の中でもタクシーの中でも、サッサと昼飯を食った後でも、10分も時間があれば立ったままでも寝ていた。
「トルクビルト以外は幻影だが、元は人間だ。おそらくは——自分たちは生きている——と思わせておくためだろう……むごいことをする」
「ああ、たしかにな……」
むごい話だ……
先輩の呟きを思い出す。
『俺の親父は、K銀行に勤めてたんだ』
『K銀行……ああ、えと……バブルで潰れたんですよね(^^;)』
先輩の年齢からすると、お父さんが先輩の歳のころに銀行は潰れている。先輩は少年時代だろう、けっこう苦労してるんだろうなあと思った。
『銀行はその五年も前から危なかったんだけどな、社員はほとんど気づかなかった。潰れてから言ってたよ……』
『え、なんてですか?』
『社員はとっくに死んでる。そうだろ、働いたって銀行に未来は無いんだからな。まともに退職金も出ない、辞めた後には未来もない……死人と同じだ。死人に未来はないからな……親父は、それでもお袋と食っていけるだけのものは持っていたし、年が来れば年金ももらえる。俺は、その愚痴を聞いたあくる日からバイトを始めたよ……ろくに受験勉強もできなくてなぁ、予備校にも行けず、浪人なんてもってのほかだしな……』
先輩、できる割にはショボい大学を出ていた。先輩のM大は東京で一二を争う学費の安い大学だった。
『そうだったんですか……』
『すまん、次の駅まで寝るわ』
『あ、目的地まで寝てていいですよ、自分、起きてますから』
『そりゃ違うぞ』
『え?』
『目的地まで寝てたら、完全に起ききる前に向こう様に着いちまう。大事なお得意先、寝ぼけ面では行けないからな。ほれ、鈴木君も飲んどけ』
そう言って、リゲインをあおって寝ちまった。ふつう、起きてから飲むだろう……と思ったけど、もう寝てた。
「少し先の方を見ておきます」
そう言うと、エマはカメラをトンビに戻して道の先に飛ばした。
標識が見えてきて、アップになると——Unterwegs Dorfまで4キロ——と出ていた。
念のため、少し先まで飛ばしてみるとDorf(村)とはあるけど、Erst Durf同様にStadtとかBurgと呼んでいい規模の町だった。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神 異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・秀の友人たち アキ 田中
・魔物たち ガイストターレン




