033:ガイストターレン・5・わが谷は緑なりき・3
待ての勇者と急ぎの姫騎士
033:ガイストターレン・5・わが谷は緑なりき・3
ズビュン!!
空を切る音だけがした! 裂ぱくの気合も掛け声も無い! ただただ剣が空を切る音だけがしただけだ!
いつものヒルデならば、気合が声になる。「セイ!」とか「トーーッ!」とか「オリャーー!」とか。
気合はタメの発露だ、バネだ。だから、多くの格闘技では技の直前に気合をかけ、気合によって攻撃力を増強する。
しかし、たった今のヒルデのそれは攻撃が生ぬるいということではない。タメもバネも必要としない、いわば神の力の発露だ。神は、その御業を顕現させるために気合を掛けることも詠唱することもない。
言ってみれば雷だ。雷は遠くにいてこそ音がするが、直近では音も前触れもない。雷の音とされるものは、距離を置いたところに時間差で鳴動する大気の鳴動、悲鳴に過ぎない。
今のヒルデの攻撃は、ほとんど雷、神の御業に等しかったぞ!
ウフフフ
しかし、少女は、顔色一つ変えず、薄笑いを浮かべて躱しやがった!
ズチャ
俺もエマも反射的に戦闘の態勢になった。剣を抜き放ち、左手でエマをかばい、エマはロッドを顕現させると同時にストレージの口を開く。
「ホホホ、そんなとろくさい技で、このガイストターレンが屠れると思ったかぁ」
ズビュン ズビュビュン ズビュビューン ズビュン ズビュビュン
少女はヒルデの攻撃をことごとく躱していく。
俺も少しばかりはこの世界の戦いに慣れてきたが、俺の目では見切れない。
ヒルデが仕かけると同時に少女が動く。
例えば、犬が自分の尻尾を追いかけてグルグル回ってしまうような。シーソーをしている片方が相手の高さに並ぼうとして地面を蹴ると、相手は同時に下がって、永遠に同じ高さには至れないような。
ズビュビュン ズビュビューン ズビュン ズビュビュン ズビュビューン
ズン ズズン ズン
敵わぬながら、俺も少女に一撃を食らわすが、俺のは剣を振りかぶったときには消えてしまう。虚しく構えた剣は振り下ろすこともできず、上段に構えたまま地面を削るばかりだ。
このままでは、俺もヒルデもくたびれ果て、無様に倒れてしまうしかないぞ。
クッソオ クソクソ クッソー(`Д´*)!!
俺は癇癪を起こした幼児のように、やみくもに剣をふるいまくる! むろん、少女に命中するはずもなく、かえってヒルデやエマの顰蹙を買う!
「ちょ、スグル様!」
「邪魔だ! やめろ!」
ヒルデが怒鳴るが聞いたもんじゃねえ!
クソクソ クッソー(`Д´*)!!
やけくその剣は熱を帯びて、スパークを放つ。
「向こうでやれ!」
ドガ!
ヒルデの蹴りが入って、俺は数十メートルも吹き飛ばされる!
ズガン!
そして、吹き飛ばされた先、柱状になった岩を砕いてしまった!
グァッシャーン!!
岩は、その上のバルコニー状の出っ張った岩の支えになっていて、出っ張り岩の上には自生した草花が花屋の店先のように整っていた。その花屋のようなバルコニーが音を立てて崩れてしまった!
「チ」
少女が虫に刺されたように舌打ちした。
「……( ゜Д゜)!?」
エマが、何かの啓示を受けたようにポカンと口を開け、目を見開いた……
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神 異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・秀の友人たち アキ 田中




