032:ガイストターレン・4・わが谷は緑なりき・2
待ての勇者と急ぎの姫騎士
032:ガイストターレン・4・わが谷は緑なりき・2
近くに聞こえた歌声なんだけど姿が見えない。すぐそこに聞こえたかと思うと、サッと離れてしまう。離れたかと思うと、ジワジワと近くなる。
緑に覆われているとはいえ、その下はゴツゴツの岩肌、思わぬ反響や増幅があるんだろうな。
「でも、女の人でございますね、この声は」
「どんな人だろうな……」
「気になるのかぁ、こんな美女が二人付いているというのに?」
「いや、それとこれとは(^^;)」
「そ、そうでございます。セイレンの故事もございます、油断は禁物でございます」
「そうだそうだ」
……と気を引き締めてみるが、春を思わせる暖かさに、なんとも気が緩んでくる。ヒルデも茶化すというよりは、喋っていることで緊張を保っているんだと思う。
いよいよエリアボス、ガイストターレンの親玉。気を緩めていいはずはない。
フワフワ~~~
タンポポだか野生の綿だか、綿毛がフワフワ飛び、それに誘われてか白や黄色の蝶々も舞っている。そのひとひらが目の前をかすめたとき、不意に声が出てしまった。
あ……
「どうかされましたか?」
「あ……うん、田舎の風景を思い出した……」
あかねさすぅーーー紫野行き標野行きぃーーー野守は見ずや君が袖振るぅーーー
おふくろが口ずさんでいた。
バス停までのあぜ道を歩きながら、遅れてやってくるおやじを迎えに。
意味は分からなかったけど、語呂と雰囲気がよくて、近くに古墳なんかも見えて……高学年になったら、もう行かなくなったけど……あの田舎の風景を思い出した。
田んぼが見えるわけでも、茜に染まってるわけでもない。谷底と万葉集で有名な野原の違いはあるけども雰囲気が似ている。
もう何年も思い出さなかったおふくろの里の風景……東京ではめずらしい部類に入るだろうなあ、あの地方の出身は。落ち着いたら、久々に行ってみようか…………思ったとき、戦乙女が小さく叫んだ。
「……後ろだ!」
ズザ!
ヒルデの声に左右に飛ぶ、振り返る…………え( ゜Д゜)?
そんなぁ~にして~までぇ~(^^♪
え?
ちょうど歌いきって、道の真ん中でニコニコしているのは、歌声とはかけ離れた小一ぐらいの女の子だ。
ガチャ
ヒルデが甲冑を鳴らし、オレはマントを翻してエマを背中に庇う!
「ホホホホ、やっと気づいたのね」
グヌ、見かけによらず大人の憎たらしさ。
「き、きさま!」
「さすがは、ヴァルキリーの戦乙女、オーディンの姫騎士。こんな姿になっても分かってくれているようねえ」
「なんなんだ、こいつ?」
「…………し、知らん!」
「つれないわねぇ、同じ川の水でシャンプーした仲なのに」
シャンプー?
「こいつの言葉に耳を貸すな、こんな姿だが、こいつの本性は邪知奸計の極悪魔女だ!」
シャラン!
抜き放った剣には、これまでにない闘志と怒りを漲らせているヒルデだった!
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神 異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・秀の友人たち アキ 田中




