029:ガイストターレン・1・スライム・アンデッド戦
待ての勇者と急ぎの姫騎士
029:ガイストターレン・1・スライム・アンデッド戦
谷と言ってもグランドキャニオンのような大渓谷じゃない。
渋谷も谷なんだぞ——言われてみれば——という程度の窪地。
東京には、他にも四谷とか鶯谷とか谷のつく地名があるけど、世田谷の等々力渓谷を除けば、ことごとくが窪地。
「ただの窪地だな」とヒルデが呟いたのもムベなるかな。
「北欧にはカールとかモレーンとかU字谷とか、壮大な谷があるのでございましょう?」
「良く知っているなあ」
エマは、こちらの世界のバンシーだ。東京や北欧のことは想像もできないはずなのに。
「ズィッヒャーブルグのバザールで、いくつか古本を買ったのですが、その中にヒルデ様、スグル様の世界について書かれていたものがありました」
「え、いつの間にぃ?」
「ご主人様のことを知っておくのはメイドの務めでございます(`・□・´)」
「そうなんだ(^^;)」
「しかし、そういう本が出ているということは、我々の他にも居るということだな……」
「楽しみなのか?」
「ああ……と言ってもスグルが思うような楽しみではないがな」
いくつかの苦難を乗り越えて気心は知れてきたと思っていたけど、この戦乙女には、まだまだ屈託がありそうだ。
このオレは……仕事は、この際辞めてもいい。ほんの腰掛のつもりで入った会社だが、水が合って非正規のまま営業をやっている。いつまでもというわけにはいかない。三十路に入るんだ、考えなければな。
それよりもトイレの修理だ。ウォシュレットの壊れたトイレなんて三日以上の辛抱は無理だ。
それと、女神が言い残していったアキ。こっちの世界に落ちてきたのなら放っておくわけにもいかない。そうだ、このクエストが終わったらギルドの受付さんに聞いてみよう。
ジリ
ヒルデが立ち止まった。
「スグル、囲まれているぞ」
「……みたいだな」
エマを間に挟んで周囲を警戒する。エマもストレージに片手を突っ込んで、即応の姿勢。
「……スライムとアンデッドのようでございます」
エマが取り出したのは放射能の線量計に似ている。魔物検知器か?
「数が多いだけだ、自分は前を、スグルは後ろをやれ」
「おお!」
「行くぞ!」
セイーー! オリャアーー!
ズシ! ズバ! シュリン! ビシュ! ビシ! シュビビビ! シュバババ! シュィーン!
ゲシ! ドゲシ! ドガ! シュビビーーン! ズガガ! ドガガ!…………
五分ほどの大たち回りで、半分ちょっとの敵を撃破。残りは分が悪いと見て四方に散って行ってしまった。
「お見事です、お二人ともHP、MPとも二割を使っただけです。まだまだ大丈夫ですが、念のためポーションをどうぞ」
「すまん、グビグビ……」
「ありがとう……グビグビ……それはモンスターの感知器かなにかかい?」
「はい、仕掛けのある魔導書だと思っていたのですが、マキナ化してきました」
「エマの向上心が反映したのかもな」
「そ、そうでございましょうか(^^;)……え……あ、なにかがやってきます!」
エマのマキナに二三秒遅れて俺たちも気づいた!
「じ、地面が!」
ズゴ ズゴゴゴゴゴ ゴオオオオオ!
ゴジラか大魔神の出現か、たった今まで窪地に過ぎなかったガイストターレンがみるみるうちに深みを増して、俺たちは、手荒いリフトに乗せられたように、深みに強制降下されていく!
「身を低くしろ!」
「エマ、俺につかまれ!」
「は、はい!」
グゴゴゴゴーーーーーーー!!
くそ、まるで谷そのものがガイストみたいだ!
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神 異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・秀の友人たち アキ 田中




