027:みの一つだになきぞ悲しき
待ての勇者と急ぎの姫騎士
027:みの一つだになきぞ悲しき
「雨が降ってきたんだ!」
「「え……?」」
ヒルデは空を見上げ、エマはストレージからしまったばかりの傘を出しかける。
「それはアキバでございましょう? さっき女神さまが……」
見上げた空は青く澄み渡っているので、再びストレージに仕舞うエマ。
「道灌だよ太田道灌。道灌は狩りの最中に雨が降ってきたんで、近くの家で蓑を借りようとしたんだ!」
「ミノ?」
「昔のレインコートのことでございますね」
「ああ、ところが、その家の女。つまり、こっちの銅像な。その女は、蓑を出さず、この枝を差し出したんだ」
「ああ……?」「……それが、どういう意味なのでございますか?」
「枝には花がついているだろ、山吹という花なんだ」
「蓑を出さずに、なんで花なんだ?」
「山吹は実がつかないんだ。たしか……『七重八重花は咲けども山吹のみの一つだになきぞ悲しき』という古い歌があってな。それにひっかけて『申し訳ないことですが、我が家には蓑がございません』と伝えたんだ」
「まあ、床しい」「遠回しなことをする女だ」
「どうだ、これで正解だろ!?」
どこかで見ているに違いないリーツセル(Rätsel)に言ってやる。
ザワザワ…………ピタ。
ほんのちょっとだけ茂みが揺れたが、すぐに止まってしまう。
「なんでだ?」
「……答えが十分ではないのではございませんか?」
「…………(-"-)」
「ええと……あ、そうだ! 道灌は、その時意味が分からなくて気分を害して帰ったんだ」
「そりゃ分らんだろ!」「まあまあ(^^;)」
「城に帰って家来に話すと、年寄りの家来が『それは——蓑が無くて申し訳ありません』という女の気持ちですぞ。後拾遺和歌集に——ななへやへはなはさけども山ぶきのみのひとつだになきぞあやしき——という名歌がございます』と答えて、道灌は恥じ入ったという話がある」
学生の頃、生地を買いに行った店の小母さんが言ってたのを思い出したんだ……と思ったら、エマがメモしてるし(^^;)。
「まどろっこしい話だが、正解のようだな」
ザワザワザワ…………
ヒルデが顎をしゃくると、奥の方から藪が開ける音がして、エマのメモが終わると同時に道が開けた。
荒野ではあるけど、草や岩の間に道は伸びて、ライズゼニッヒ山が霞ににじんでそびえている。
「リーツセル、成敗しておくか?」
「いや、先を急ごう」
女神が言っていたアキのこと……放ってはおけない。
かと言って、この異世界もけっこうな広さ。すぐに、どうこうできるものでもない。
ホォ……
思わずため息が出てしまう。
エマがチラッと見たような……ヒルデは無口、でも、なんだか圧を感じて……オレは、とりあえず前に進むしかない。
「フフ、いつものスグルなら『待て』なんだろうがな」
ムグ……(-_-;)。
「まあいい、『待て』も『急ごう』も……」
「な、なんだよ」
「お前らしくていいんじゃないか」
一言返そうと思って、でも、思いとどまって息だけ吐いたら、思いのほか白い息。
元の世界でも一足飛びだったけど、こちらも冬が近いのかもしれない。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神 異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・秀の友人たち アキ 田中




