023:崖を下ると日暮里に似ていた
待ての勇者と急ぎの姫騎士
023:崖を下ると日暮里に似ていた
小一時間歩くと崖に出た。
崖を下った先は荒れ野で、ライズゼニッヒ山がその向こうに霞んでいる。
「……日暮里みたいだ」
「ニッポリ……でございますか?」
「え、ああ……オレの世界の町だ。崖の下の町でね、繊維関係の店が並んでいて、よくコスプレの生地とかを買いに来た」
「コスプレならアキバではないのか?」
「ちょっと前は日暮里とかだった……」
学生の頃、今のようにコスプレの専門店なんか無かったから、日暮里で安い生地を探したんだ。
娑婆っ気の抜けないオレは、見たものをついリアル世界のそれと重ねてしまう。
日暮里の向こうは果てしない関東平野。遠く筑波の山々が霞み、二十歳の自分にはただの遠景。芝居の背景幕ぐらいにしか感じていなかった。
いま、目の前に広がる荒れ野と山々はセットでも背景幕でもない。これから踏み込まなければならないオープンワールド。
これが見ての通り、関東平野ほどの広さがあって、ライズゼニッヒ山が筑波山だとしたら……直線距離で60キロ、道を探りながらだと80キロは超えるだろう。道路や鉄道が整った令和なら屁でもないが、歩くんだ……それも、魔物や化け物てんこ盛りのオープンワールド(-_-;)。
「臆したか?」
「そんなわけないだろ、行くぞ!」
「はい!」「フフ」
エマはオレの気持ちに寄り添うよう気合いを籠めて。ヒルデは鼻で笑って、オレの後に続いて崖を下りた。
「おい、なにか銅像が立ってるぞ」
俺より先に崖を下りきったヒルデが薮の向こうを指さした。
「なんでしょう、馬に乗って狩りをしているような姿でございますが……」
「あ……」
「見覚えがあるのか?」
それは、見覚えのある太田道灌の銅像だった。
「「オータドーカン?」」
「ああ、日暮里の駅前に立ってる銅像でな、昔、日暮里あたりを治めていた豪族だ」
「有名な男なのか?」
勇壮な馬上の姿に、ヒルデは興味を持ったようだ。
「たしか、家康以前に江戸城を作った殿さまだ」
「イエヤス?」
「あ、ええと……東京の元になった江戸という町を巨大都市にした男だ。サムライの頂点に立っていた奴で……ヒルデの世界だったらオーディンにあたるかな」
「グッ、オーディンだと(-"-)!?」
「「え?」」
オーディンは北欧神話の主神、ヒルデの父親のはずだぞ、なんで怒る?
こういう時は話題を変える。営業テクというよりは大人の処世術。
「まあ、その種になる町を作ったということで、太田道灌はパイオニアとして尊敬されてるわけだ」
「なるほどなぁ、そう言えば、無駄のない体格で弓の構えもなかなかのものだ」
ヒルデは、こういうのが趣味なのか。思わず腹の肉をさすってしまった(^_^;)。
「あ、こちらにも銅像が……」
草むらの向こうにもう一つの銅像があるのをエマが見つけた。
「こっちは女だな」
「ああ……」
「見覚えがあるのか?」
「ああ、駅前にあったからな……」
あったのは憶えているが、いちいち銅像の由来なんか読んだりしないからな。
和服のロングヘア……たぶん歴史上の人物なんだろうが、よく分からん。
「両手で小さな枝を持っております……」
「花でも摘みに行ったのか?」
「さあな……まだ崖を下りただけだ、先に進むぞ」
「おお」「はい」
薮をかき分けて先に進む。ちょっと煩わしい。
「わたしが前に立ちます」
「お、おお……」
ズィッヒャーブルグで買った山刀を取り出して、バシバシ草を刈り倒しながら進むエマ。
バシ ビシバシ バシ……
パッと見、華奢なメイドなんだけど、なかなかの馬力だ。
五分ほど進むと開けたところに出たのだが——しまった!——という顔をしてエマが停まってしまった。
「申しわけございません、わたくしとしたことが、元の場所に出てしまいました……」
「「ああ……」」
太田道灌と和服のロン毛が、さっきと変わらずに建っていた。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神 異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・秀の友人たち アキ 田中




